浅い水溜りに足を取られた。
誰もかれも構わずに歩けなくなった。
きっと、思ったよりも深かったのだ。

























「虹が出てる」


昨日まで雨が降っていた。久しぶりの土砂降りで、近くの川が氾濫した。
それの処理に暇をかけ、あれよこれよと手を尽くし、それを知って知らずか雨はその跡を残さず黒い雲と去っていった。



しかし、



「・・・やはり跡が残ったか」
「何の話だ?」
「うるさい。貴様は消えろ。くだらぬことで呼ぶでない」



今頃部下たちが下流の村の被害状況を見ているはずだ。
まだ戻ってくるまで時間がある。


「我は寝る」

そもそも、何故いる。

「ゆっくり休めよ」



馬鹿馬鹿しい。
ここ数日、ロクに眠っていなかった。雨が憎い。元から好きでもなかったが。


「・・・・。」


目を閉じれば自然と眠気が襲ってくる。
このまま何もなければ大丈夫。
久しぶりに顔を出した太陽に照らされて、冬に近い今も少し暖かい。



ばしゃ






「・・・・。」





ぱしゃぱしゃぱしゃ






「・・・・・・・・・・・。」






ぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃぱしゃ








「・・・貴様、」







庭にできた水溜りに足を突っ込んで、ただひたすらに水を蹴り上げる。





「貴様、」
「どうした?寝てろよ」
「うるさくて眠れぬ」


体を起こして睨み付けた。それも気にせずあるいは気付かず水溜りを見つめている。
冷たいはずだ。それにあの雨だ。



「深いだろう」



これは、疑問だったのか。それとも推量か、当然か。
庭の至る所にできあがった水溜りはどれも薄く濁っていた。
奴が足を入れている水溜り、以外は。

跡は穴ぼこだらけだ。水は、時に激しく大地を抉る。
「深いだろう」
これは、当然か。









足元の水溜りが陽で煌めいている。
雨は残らない、跡は、



「浅い」


声が、酷く耳をもぎ取るようだ。







「浅い。入ってみろよ。案外、温かい」
「・・・何だそれは」







雨が残した虹が映っていたことに初めて気付いた。
誰かは喜んで人を呼ぶのだろうか。
寒い冬の日に、水浸しになった自分達の場所で。

安らかに眠れなくとも、
例え明日が見えなくとも、



考えられない、理解できない。
首を振って顔をあげれば、太陽が眩しく突き刺した。


































浅い水溜りに足を浸した。
誰もかれもが笑いあった。






きっと、自分で思いこんでいたより冷たくなかったのだ。










やがて訪れる静寂



最近こういう文章多いですね。
何か、そういう心境なんでしょうか。
瀬戸内は常に元親の一声で終わる。