every30minute アビスログ

※むっちゃくちゃに入ってます
※大した説明事項とかありません。要注意。





■王族

ルークは髪を切ってから何かにつけて自分の無知を恥じ、仲間たちに教えを請うていた。複雑な心情を抱えながらも、ナタリアは、ルークのその傾向を好ましく思っていたのもあり、キムラスカの歴史や地理、国際事情、王室や政治に関わる内容を中心にあれこれと教えた。屋敷に居た頃は無関心だった多くの事柄を、ルークは必死に理解しようと努めていた。

「そういやナタリアはもう政務に関わってるんだよな?」
「ええ、勿論」
「何やってるんだ?」
「公共事業を任されています」
「公共事業?」
福祉施設の設立に運営、開発工事の指揮や名代。具体的な内容をできる限り平易な言葉を選んで教えた。話せば話すほど、自分がいかに名目上の頂点だったかを思い知らされながらも、同時に自分がやってきたことを思い返してやはり誇らしい気持ちにもなる。

「じゃあナタリアは親のいない子供とか、面倒みてくれる人のいない老人とか、失業しちまった人たちを助けたりとかしてるってわけだよな?」
「ええ。勿論それだけではありませんし、何も社会的弱者を救うためだけの行いでもありません。私がしているのは皆の土俵を同じ地平に引き上げることですわ」
「やっぱりナタリアは凄いんだな」
「いいえ、その介入が時には事態を悪化させることもあります。私が良かれと思っても時期や方法を違えば逆効果を生むこともある…何も素晴らしいことだけではないのですわよ」
「…時期や、方法……」
ルークの表情が曇る。ナタリアははっとして慌てて口を開いた。
「よいですかルーク、常に綻びがないよう考えるのは大切です。しかしそれでも間違えたり、失敗したりすることはあります。大事なのはそれをそれと受け入れることです」
ナタリアは、思わず手を伸ばした。少し褪せている赤い髪に触れ、そのまま形の良い頭軽く撫でる。ルークは少し俯きながらも、しっかりと頷いて見せた。

我侭で、尊大で、自分勝手で、乱暴で。
別人になって帰ってきた幼馴染を、口うるさく叱り飛ばしたり優しく宥めたり、様々な時間を7年の間で過ごしたと思っていたが、頭を撫でたのははじめてだった。それは勿論自分達が王族に連なるものであるという自覚の為すところではあったが、自分に何千という民が味方についてくれたように、彼にもまた彼にとっての味方が必要だったのだ。
そのひとりになりたいと、改めて願うようになったのだ、遅まきながら。



2013/06/03 (Mon) 6:31

(ルークとナタリアがカップリングなしでわりと好きです。むしろふたりでアッシュサンドしてそれをガイが見守ってるくらいがかわいい)





■褪せた赤

ルークの髪は、キムラスカ王家の持つそれとは少し色味が褪せている。真紅の赤というよりお日様みたいな赤だった。ルークはそれを気にしていた。自分が偽物である証明のように思われたからだろう。

少しずつ復興が進められるセントビナーの片隅で、ようやく瓦礫の撤去等が終わったひとつの空間に、花畑ができていた。そこに咲いていた花々の中でも一際目を引く真っ赤な花を見て、ルークが近くのものに名前を尋ねる。その光景がずっと胸に引っかかっていた。
ルークが少しさびしげに眺めるその花の色は、俺から見れば、今でも憎い仇の色でしかなかった。


グランコクマ内に貰った屋敷は、伯爵家としての体裁だけは保てるようにとそれなりの大きさを誇ってはいたが、自分が受け取るまで殆ど手入れされておらず、ほとんど幽霊屋敷状態だった。それを何とか人の住む場所に変えようと思ったとき、ふと広い前庭が目についたのだ。草木も生えっぱなしのだだっぴろいだけのそこに、キムラスカから帰ってきたばかりのペールを置いた。

「赤い花を植えてくれ」
他に腕のいい庭師を雇うという選択を取らなかったのは、この頼みが自分の甘えと我侭と個人的な感傷だということを自覚していたからだ。
「できれば、太陽みたいなやつがいいな」
ペールは少し微笑みながら承知してくれた。程なくして、前庭には赤い花畑が広がる空間ができた。そのあたたかな空間は、旅を終えて帰ってきた自分を優しく迎えてくれた。

これはまた鮮烈な光景ですね、と、屋敷をはじめて訪れたジェイドが言う。グランコクマは水の都と称されるだけあって、街の色味も全体的に青だ。その中でこの赤色は目立つと言いたかったのだろう。
「綺麗だろう?ペールに頼んで植えてもらったんだ」
俺もたまに自分で肥料やりとか水撒きとか手伝わせてもらってるとはにかんだ。それを横目で見て、ジェイドは薄く笑っただけだった。

「いい加減そろそろ子離れしてはどうです?」
「なんだそりゃ」
「でないと、苦しいのは貴方ですよ」
「俺は何も苦しくないよ」


ルークの髪色が褪せていてよかったなんて、思っているのはこの世でおそらく俺だけだろう。庭で輝く太陽の群れを眺めながら、俺は待てる、ずっと待てる、つらいだなんて思いもしない、何故ならあの色が俺の生きる意味に他ならないのだから、だからそれまで、強い雨風にも花弁を散らさないように、俺はずっとここを守り続けて居たいと願っているのだと。


2013/06/03 (Mon) 7:18

(がいるくウィークにこっそり出したくて3分でネタ作った。)





■かしこいひと

人の顔色を窺うのはむかしから得意だった。社会的に常識人の部類に入った己が両親に、主に道徳や倫理のことで叱られることが多かった所為で、説教時間の煩わしさから逃れるために、表情を観察するようになった。相手の顔を真正面から捉えず、伏し目に、もしくは見下すように、あるいは盗み見るようにする癖はきっとこのころからついていた。

「あれ、」
扉を開けて、部屋の中を不躾に見回しながら、ガイが不思議そうに声をあげる。
「ルークならそちらですよ」
手元の本から顔をあげたジェイドは、彼がそのまま続きを口にする前に浴室の方向を指し示した。ガイが呆気にとられた間抜けな顔を晒す。
「何か?」
「あ、いや…」
俺まだ何も言ってないんだけどなぁ、と軽く頭を掻きながらつぶやかれた言葉に、確かに彼はまだルークはどこかなどとは言っていなかったなと思い当たる。もしかして早合点してしまったのだろうか。
「違いましたか?」
「え?ああ、いや。違わないよ。うん、違わない」
寝台のうえに脱ぎ散らかされたルークの上着を丁寧に畳みながら、ガイはどことなくばつが悪そうだった。ジェイドはわずかに首を傾げる。

そういえばむかし、家の手伝いもロクにせずに研究書を読み耽っていたせいで、どことなく朝から機嫌のわるかった母に怒られたことがあった。それからは気付いて手が空いているときには適当に家事をしていた。
それを知ったときの母がそういえばあんな顔をしていたなと思い出す。居心地のわるそうなあの顔だ。それ以来母に叱られることはほとんどなくなったが、同時にあまり喋らなくもなった。

(……)
ふとため息を吐いてみる。どうやらこれも、あまりいいことではなかった、らしい。


2013/07/15 (Mon) 19:56





■ぬいぐるみの行方

立派な『神託の盾』の一員だったとしても、アニスはまだ13歳、見た目もそれ相応で、つまり何が言いたいかというと、どうしたって『こども』に見られてしまうのだ。巡礼に来た人たちに同情の目や蔑むような視線を送られるのはもう慣れた。だが同い年くらいの少年少女から向けられる様々なおもいのこもった眼には、どうしても慣れなかった。

ダアトの水路に、巡礼者の少女がぬいぐるみを落とした。泣きじゃくる少女の手を引き、彼女の両親はまた買ってあげるからと優しく声をかけ続けていた。それでも少女は泣きやまなかった。案内していた教団員に泣きついて拾ってくれるよう頼み続けていた。

別に、かわいそうだとおもったわけではない。ただ落としたぬいぐるみと、再び手元にやってくるであろうぬいぐるみが、同じものではないことをアニスは理解していただけだった。服を泥だらけにして水路を駆けた。立ち入り禁止だと言われていた場所もこじ開けていった。そこまでしたが、ぬいぐるみは海に流されてしまっていた。薄汚れて帰ってきたアニスは、ただ少女の前にしゃがみこんで謝るしかなかった。少女はもう泣いてはいなかった。


はやく成長したい。こどもに見られない歳になりたい。大人にこども扱いされることを嘆いているわけではないのだ、落胆されたくない、だけどそんな、遠い世界の人間みたいに尊敬されたくもない。子供である限り、この矛盾とは無縁ではいられないのが、なによりも嫌だった。


2013/07/15 (Mon) 20:30





■食わず嫌い

非常に食べやすい大きさにカットされたニンジンが、シチューの液体のなかに転がっている。赤毛の少年は少し眉を顰めてそれを見つめた後、ゆっくりとスプーンで拾い上げた。
「残すとアニスがうるさいですよ」
既に空になった皿を前に手持ち無沙汰だったため、ついと横やりを入れてしまう。わかってるよと不服そうに返された言葉と共に、スプーンはすばやく彼の口内に運ばれた。
その様子を、わずかな感心を以て観察する。以前の彼ならば何があっても口にしなかっただろうに。残された橙色のかけらは、彼の使用人が処理するのが常だった。
「貴方も成長したんですねえ」
「イヤミだろ、それ」
「いえいえ、褒めているんですよ」
もごもごと口を動かしながらも、やはり苦手なものは苦手なのだろう、ずっと苦虫を噛み潰したような表情のまま次の一口にとりかかる。それを2、3度繰り返した。皿の中から橙色の物体は消えた。
「なんつーかさ」
そこでスプーンを止めて、徐に口を開く。
「ずっと嫌いだーって思ってて、そしたら口にすんのもいやになって、それからずっと避けてきたんだと思うけど」
相槌は打たない。ひとりごとにしては大きすぎるので、恐らく自分に向けた言葉なのだろうとはわかっていたが、ちゃんと拾ってやるかどうかは内容に依る。つくづく自分はいやな人間だと思った。
「でも、食べ物じゃん」
食えないわけじゃないんだよな。確かに食べてて嬉しいものじゃないんだけど。
「…それがどうかしたのですか」
「いやだからさ。俺がそうやって食わず嫌いしたものって一杯あるんだろうなって。確かに好きにはなれないかもしれないけど、それでも捨てたりないものにしたりすることなかったよなって」
シチューの皿をつつきながら、とうとうと語る少年の言葉には実感を伴った確かな感触があった。やはり成長したのだなとおもうと同時に、なるほど食わず嫌いは彼だけではなかったと今更わが身を振り返る。食べられないものを皿に残して、生ごみのなかにひっくり返してふたをした。そんなふうにまとめてしまうから弁解する余地もなくなるのだということも理解した上で。
「そうですね、貴方のいう事は尤もです。ナタリアの料理であるならともかく」
「…あれは食いもんじゃねえって」
「ええ。食べられるものなら食べられるということでしょう」
言いたいことが通じたのが嬉しかったのか、目を輝かせて大きく頷いて見せた少年に苦笑いで応える。そうやってこれからは、すべてをとりあえず口にしてみるつもりなのだろうか、彼は。それはそれで少々面倒なことだと思った。


2013/08/07 (Wed) 23:40





■こいごころ

祖父らしいことはしてもらった記憶がないし、いつだって孫のじぶんより音機関のことばかり優先するようなひとだったが、ノエルは祖父のイエモンが誰よりも好きだった。それは兄も一緒だ。小さいころから音機関と戯れて、弄りまわし、そして祖父と同じように技師を目指した。年頃になっても浮いた話のひとつもない自分に、ほんとうの親のように面倒を見てくれていたタマラが言った。女の子として不服に思ったりはしないのかい?ノエルは笑顔で答えた。
「私、おじいちゃんと音機関が大好きですから」


年相応なのにどこかちいさく見える、だけどとてもしっかりとしたあの背中に、あこがれを持ったときにはじめてそんな心を知った。私にもそんなものが芽生える土壌があったのかと素直に驚いた。それは想い始めた瞬間から実らぬものだったけれども、実ができるかどうかはきっとノエルにとってはどうでもいいことだったのだ。

ちっとも相手をしてくれなくっても、ノエルは祖父が好きだったように。
気付いてくれる余地がなくても、ノエルは彼が、好きだった。


2013/08/07 (Wed) 23:42

(ノエルの恋心がルークに向かったというのはひじょうに興味深いと思いました。ノエルかわいいよね)





■ころしたこえ

あれが嫌だこれはダメだ、なんで思い通りにならないんだ!喚いて当たり散らして機嫌を損ねて、自分が如何に被害者なのかを知らしめようとしてますます愚かになるこころを、なぜいましめなければならないのかが、俺にはずっと理解ができなかった。言いたいことは言わなければ、言えなければ誰もわかって なんかくれないのに、どうして言わないことと言うべきことがあるのかが。ずっと。俺は俺が思っていたよりずっと餓鬼だったし、ずっと臆病だったし、ずっと哀れなやつだったんだとおもう。

たくさんのすれ違いやたくさんのぶつかり合いがあって、とても近しい人たちですらわかりあえない世界を知った。ましてや他人だった俺たちが、それでも何の軋轢も無しに一緒に歩いていけるなんて、ありえないんだ。だから誰かが我慢しなきゃならないときがある。誰かが殺してしまった、誰かの声がある。
俺が吐き散らかしてばかりいたすべてを、ティアは、ガイは、ジェイドは、アニスは、ナタリアは・・・そしてアッシュは、いいやそれだけじゃないたくさんの俺と出会った人達は、みんな次の瞬間にはこころを抱えて新しい声を紡いでいた。さぁ行こう、行かなければならないからと。
誰にも聴かれることなく死んでしまった声が、ほんとはそこにはあったのに。いつかそんなものがあったことすら俺たちは忘れて、俺は知らずに、まるでこの痛みがじぶんだけのもののように涙を流すんだ。そんなことは許されなかった。何より俺が、きっと一番許せなかった。

部屋の隅で泣いた。誰にも知られずに泣いた。たくさんの殺してしまった声のもとで泣いた。はじめて思い知ったひとの優しさは、いつだってここに生まれるものだとこころを掲げた。


明日になれば、何事もなかったかのようにすべてが元通りになる。どんなに傷付けあっても、奪い合っても、誰かと付き合わせた顔で笑みを作る。それで元通りにならないものはこの世でひとつだけだ。俺が今も焦がれて止まないあの規則正しいリズムだけだ。


2013/08/14 (Wed) 1:11