感情に走る衝動に、意味が欲しいのはきっと俺だけ?
説明のつかない昂りを、冷静に理解したいのは。
答えのでない感覚、理解のできない行動に
理屈が欲しいのは
どっちが言い出したのだろう。ロクに覚えちゃいないが確か始まりは庭に咲く花だった。
それを見た光秀が
「綺麗なあかですねぇ」
とただただ嬉しそうにいった言葉だけが耳底に強く残った。
だから、こっちもただ屋敷の外の、川のある方向へと指を差して、
「あっちはここより咲いてるぜ。なんなら、つれてってやる」
と。それを聞いたときも、嬉しそうに笑っていただけだったのだが。
水が激しく流れる音が耳を打つ、それが妙に気分よかった。勿論、屋敷を抜けることは小十郎にはいっていない。焦るだろうな、と考えたが、あいつのことだ、もうきっと慌てふためくことはしないだろうなと思い直す。自分のほかに、自分のことをよく理解しているのはきっとあいつだけ。
「何処までいくのですか」
光秀の声に我に返る。だがそれを悟られないように振り返って、もうすぐだ、とだけ告げた。
その宣言どおり、赤い花はすぐに目に飛び込んできた。庭の隅に、肩身が狭いというように咲いていた赤い花だったが、ここでは見事辺り一面それで埋め尽くされている。
「どうだ?どうしてかこの辺にしか咲かないらしい。気に入って取ってきたが、結局庭でもあの一角のあの分しか残らなかった。そんなに気候なんて変わんねぇのにな」
「そうですか」
光秀は赤い花を長細く白い指で撫で回していた。
何が楽しいのかは全くわからないが、いつものように微笑んでいる。
(きれいなあか、か)
確かに自分も綺麗だな、と気に入って取ってきてもらったものだ。きれいだと、思う。
だが、小十郎にはいつも顔をしかめられた。
「小十郎には、理解しかねます」
そういった理由もなんとなくわかっていた。
何処をとっても薄れることのないぐらいにその花は赤黒く染まっており、そう、それは例えるなら、
「まるで、血を吸ったようではありませぬか」
(そして、謀ったようにこいつは俺の庭の片隅に生き残った)
(わらっているようにおもった 毎晩、毎朝、向き合って見るたびに)
唐突に頭の上から花びらが降ってきた。
片目を思わず瞑る。しかしそれが花びらだとわかって、ゆっくり目を開ける。
腕に、肩に、髪に、自分の至るところに、赤い紅い花びらが
「ああ独眼竜、綺麗ですよ」
頭の上から、一枚一枚切り離したのだろうか形の崩れぬ美しい赤い花びらを降らせる光秀は、屋敷を出たときと変わらずずっと嬉しそうだった。半端ない量の花びらが舞っていく。
「なぁ、」
「はい」
「あんたは何がそんなに嬉しいんだ」
どんなことをしても、彼はいつも嬉しそうに笑うだけ。
ただ、嬉しそうに、ただ、
「独眼竜が、」
意味を欲しがる自分がおかしいのだろうか。
そういうのは、理屈じゃないことを知っているはずだった。
「独眼竜が、真っ赤に染まるんですよ」
掌に、光秀は残った花びらを撒き散らした。
「何処へいってらしたんですか」
二人そろって大量の花びらを身体にまとって帰ったのを見た小十郎は、お帰りという言葉の類よりも先にそう非難をした。苦笑が堪えきれず漏れる。
「sorry小十郎。ちょっと遊んできただけだ」
そういうのは、理屈じゃないんだと
もうずっと前からわかっていたはずなのだけれども。
空にぶちまけた赤絵の具
よくわからない光秀シリーズ(?)。
政宗は全てに意味をつけたくなる癖みたいながあると思う。
理屈じゃないことなんて一杯あるんだよって。
理屈じゃなくてもいいことなんて一杯あるんだよねって。