また貧乏くじを引いたとはミラージュの言い分だったが、後悔はしていない。忙しいとかいう言葉で片付けられると腹が立つほどには忙しく甚だ面倒な仕事だ。それでも自分がやると決めたのには理由があるし、この結果がプラスになることは疑っていなかった。
(でもこういう駆け引き的なのは、マリアの方が絶対うまかったな、うん)
マリアがクォークのリーダーになってから、それまで停滞していた事項が廻り始めたり新たな協力者を得たりと、活動は円滑になったことを思い出す。それは彼女の実力でもあり、新鮮さからくるカリスマ性であったりするわけだが、その調子の良さが懐かしい。だがマリアは決して驕らなかった。それができるのは先行者が居たからよ、私の足場を用意してくれる人がね。そう言い切ったマリアにクリフの方が頭を掻いた。見込み以上の成長ぶりだった。
(いい娘を持ったもんだ)
もう一度そんな出来のいい娘に感謝されたいという気持ちも冗談半分に、今クリフは連邦の再結成に奔走している。こうして先駆していれば、自分が面倒を見てきた子供たちが帰ってきたときに足の置き場がないなんてことにはならないはずだ。
…だがやはり、腹の探り合いというか狐と狸の化かし合いというか、すっきりしない作業は苦手だ。もともと言いたいことははっきり言ってしまうタチなので、今のように頭を巡らせて言葉を作り出しているのは、正直言ってストレスになる。
(あいつから言わせてみれば、ど阿呆、ってとこか。今の俺は)
言いたいこともはっきり言わねえでくだらねえことばかりしやがって、と、罵り声が聞こえてくる気がした。すっかり想像できてしまうから笑えて来て、しばし声を押し殺してそのまま波に任せる。
それともあいつがここに居たら、あの愛想笑いの駆け引きの続く空間に、風穴一発開けてくれるのだろうか?
思った以上に疲れているのかもしれない。目的地につくまでゆっくり休んでいてくださいよと言うランカーの言葉に甘えて寝台の上で横になる。そしてふと自分を見下ろすあの赤い眼を思い出した。仰向けの姿勢を取って天井を見上げた。
上を見れば見えるのは当たり前。背が伸びればぶつけるのは当たり前。
当たり前のことをいちいち気にしていたんじゃ生き辛くもなるよなぁ、この歳にもなってそんなことを実感するのなんてみっともなくて仕方がない。だが綺麗に歩くことはもう考えないから、終わらせるつもりだった反抗期を更にこじらせてこれからも続けよう。
それでこそ天井の見えた人間というやつなのだ。
小乗の船
クリアルかくぞおもったのに全然クリアルにならず、しかしこれで方向性がある程度かたまってしまったせいでこの後もあまりクリアルっぽいものがかけなくなったとかいう問題作。
内容自体はわりと気に入ってます。