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…こんな買い出し如きで考えすぎかもしれないが。
ラダマンティスは大量にある箱や瓶や袋の列や山を睨みながら、考えた。此処には、値段は大して違わない、販売元と内容がほんの少し違うだけの同じものが所狭しと並べられている。つまり晩飯にレトルトのカレーが欲しいというだけで、選ぶ対象が十も二十もあるということだ。
選択の幅が広がることは良いことなのだろうか。その疑問は同じ場所をぐるぐる回りそうな気がするからあまりしたくない。結論を述べると、要するにAかBかという事柄があったとして、そのどちらかが上手くいくように世界はできていないということ。だからといってCやDがあればいいということでもない。どれを選んでもきっと満足などできないのだ、面倒なことに。
頭を振って、ラダマンティスはその不毛な思考を追い出した。欲しがりだしたらキリがないことなど、判りきった話なのだ。逆に言えば、だからこそ選ぶのだろう。氾濫するものの中から、その時その時で自分に必要なものを。それは残った全てのものを棄てる行為に他ならないとしても、そう思うようにするだけで随分と身が軽くなる。
だってきっと、そんな際限なく溢れる欲しいものも、それを選ぶという行為も、本当のところはそんなに大したことじゃあないのだ。
…買い出しごときで考え過ぎだ。
惑わすように並べられるものの中から、迷うことなくひとつを掴んでとっていく。少なくとも今はそんなことに時間をかけるべきではない、安易に結論を出してラダマンティスは商品の山を後にした。
番外オプション
スーパー行ったときにふと思ったこと。
ラダマンティスは滅茶苦茶吟味して選んで、選んだものを取り逃がさない感じがする。取り逃がすと凄い悔しいんだと思う。だて滅茶苦茶吟味して選んだんだから。
シードラゴンに名前を呼ばれるとよく聞こえるような気がするのは、一種の刷り込み現象的な、そういうものの所為なのだろうか。集中しているときはイオに何回名前を呼ばれても気付かないことだってあるのに、シードラゴンに呼ばれると反射的に、はい、と答えてしまうのだ。
なんか、そういうのあるだろ。と、他の海闘士達に同意を求めてみるのだが、いやないないと首を横に振られてばかり。一応、一番新顔のアイザックはわかるとして、イオなんかは自分と海にいる年数自体は大して変わらないはずだろう。何故だかムキになって突っかかってみる。しかしイオはこの間気付かなくて怒られたとか言い出して、カーサはなるほどお前シードラゴンの馬か、なんてからかってきて、クリシュナはいつも通り静かに見守っているだけだ。
バイアン、シードラゴン大好きだな。と。アイザックに言われて顔が赤くなった。違う違うそうじゃない、そんなんじゃない!生温い視線が居たたまれなくてそう叫ぶと、部屋の外からシードラゴンに呼ばれた。いつもの低い声が、バイアン、と一声かけただけですぐに調子を変えて、はい!と返事をしてしまう。
あ、またやってしまった。気付いたときにはイオが腹を抱えて笑っていた。悔しい、いやでもこれはきっと刷り込み現象なんだって!
かるがも
実は、バイアン→カノンが好きだったりする。ラブじゃなくて親みたいな。イオも慕ってるけど、ちょっとアプローチが違う感じで。
忘れないでね、って、できるだけ優しく聞こえるように言ったら、不思議そうな顔をするの。忘れたことないよって。そうね、きっと嘘ではないわね。でもいつか忘れるときだって来るわ。私は大人になって、貴方も大人になるのよ。
男の子と女の子はいつも違う世界に生きてるみたい。わかりあえないって泣いちゃう小さな子だっているの。難しいのね、大きくなってもきっとおんなじ。私もおんなじ。
忘れないでね。本当はそんなこと、仕方ないのに。忘れられるのはとても怖かった。わかりあえないことよりもきっとずっと。だから言うわ、今日もまた次のときも。忘れないでね。代わりに私も絶対忘れないから。
でも忘れても怒らないわ。だってそうだもの。きっとそういうことなんだろうって、それくらい私にだってわかるのよ。そうしてこっそりまぶたを押さえるのも、きっと私だけだってことも。
しょうねんしょうじょ
美穂ちゃんがすきです。女の子!って感じがするから
ちゃんと栄養豊富なご飯を食べて、しっかり動いて、ぐっすり眠りなさい。
人にはしつこくそう言うくせに、サガ自身は全く規則正しく健康な生活を送っていない。時間がないからと手軽にカロリーのとれるものばかり口にして慌ただしく部屋を出て、宮に参内したかと思うと次は机に張り付いて手を動かす。それを夜中まで続けたら三時間ほど椅子に座ったまま仮眠をとって、また朝になって繰り返し。
馬鹿だと頭の中だけで悪態を吐く。それでも口ばっかりと責め立てられないのは、サガが立派だからだ。それは努力の証と褒め称えられ、ますます彼はその状況に追い込まれようとする。
自虐じみている、とカノンは思う。そんなサガの姿は、カノンからしてみれば反吐が出るような光景だった。
自己犠牲で全てを彩れば美しい話になるとでも思っているなら、それは大きな間違いだ。勿論、犠牲となるサガは美しいだろう、誰よりも光り輝くのだろう、周りに醜いものばかりを残して。
カノンは誓う。自分はこんなものにはなりたくないと。須く反した存在のようにカノンは振る舞った。世界のあらゆる事項に頭を悩ますサガを、カノンは鼻で笑った。いつも慢性的に体調を崩すサガに対し、カノンは悉く健康だった。誰にも評価などされないが、それでもそうしないではいられなかった。
美談を語られたくなどない、もっと素直に、もっと正しい眼が欲しい。そう、犠牲など強いなくてもサガは美しいのに、誰もその剥き出しの美しさなど見ていないのだ。歯痒かった。いつか自分の背にまでその輝きが君臨することを、想像して背筋を震わせた。
君主
今のところ、カノンがサガに思うところの主眼点はみっつほど。
なぜ、とか。どうして、とか。口にするだけしてどうせ答えなんて要らないんだろう。受け入れられないから喚くだけ、その身勝手さと純粋さが羨ましくて、何よりも嫌いだ。カノンは唇を噛む。まだ、ミロは泣いている。
泣いたら、誰かが慰めてくれたのか。優しくどうしたと尋ねてきてくれたのか。ちゃんとうまく言葉で返せば、抱き締めてくれたのか。それらはもう憶測の話だ、カノンはもう泣けないし、ミロは涙を堪える術を知らない。人間であることは同じなのに、どうにもこうにも違う生き物のようで。それはどこかカノンの目には、神聖なものにも、または卑俗なものにも見えた。比較に意味はないが、この生き物に比べたら自分など、薄ら冷たい半死体と同じで、うまく呼吸もできずにただここで茫然としている。
誰が聞いているだろうか、誰でもいいから聞いていてくれないだろうか。思うのだ、この甘ったれが、なんてこと。泣きたくないと願ったわけじゃないのに流せない命が、この生き物に牙を剥いている。でもそれと同時に、もう巻き戻せない時間という時間が、この生き物を守ろうと両腕を広げる。
血が滲むまで噛み殺して。
カノンは結局、何もしない。一頻り泣いて何事もなかったかのように笑うミロに、いつも通りの口を利くだけで。そしてまたこの生ぬるい感覚が舌を侵食する頃に、カノンは思う。ぼろぼろと溢れて尽きることを知らないそれを眺めて、ただひとつ。
どうして、それの流れる場所が、己の両眼ではないのだろう。
涙の痕
最近もう一度カノミロについて私の中で必死に整理して、結局ここに居座った。カノンはミロが好きだけど、それは許されたことへのひとつの憧憬であって、私は恋情であって欲しくない、それこそ愛情であってほしいと思う。
…そろそろ私はカノミロの看板をおろすべき。うん
カノンは電化製品が好きらしい。買い出しに街へ出たときの一番の楽しみは家電を見ることなのだそうな。勿論ラダマンティスには1ミリも理解できない話である。だって家電なんて使えれば何も問題ないのだし。しかもそんなに簡単に買い換えるものでもないので、頻繁に調べておく必要も特には感じられないわけで。
なので今、正に目の前でふたつ並んだテレビを真剣に睨んでいるカノンにどう反応してやったらいいのかがわからない。更に気が遠くなるほどずらりと揃えられたパソコンやら印刷機やら、挙げ句の果てには冷蔵庫や洗濯機に到るまで、カノンは性能だか何だかを黙ったまま眺めてはなにやらひとりで納得したように頷いている。しかも何か気になることがあったら店員を呼んでまで確認しないと気が済まないらしい。買う気があるかも怪しいのに見積もりまで始める。
これはどうやら、自分は完全に蚊帳の外の存在であるらしい。カノンはまるでラダマンティスなんて初めから後ろに付いていないかのように、さっさと歩いていってしまう。ちょっと待てと言う間もない。
当のカノンは、楽しそうな表情こそ見せないものの、機嫌が良いのだけは明らかだった。
この冷たい人工物の一体何がそんなにもカノンを夢中にさせているのだろう。カノンが店員とすっかり盛り上がってしまい、手持ち無沙汰になってしまったラダマンティスは、じっとこのおとなしく並んだ二つのテレビを睨んでみた。無論、無機物が何か応えてくれるはずもない。逆にそれがなんだか妙に腹の立つ話だ。…というより、これではまるで、自分がこのテレビ達に嫉妬しているみたいではないか。馬鹿馬鹿しい。それならまだカノンと親しいものたちを羨んでいる方がマシというものだ。
「なんだ、お前そのテレビ欲しいのか?」
いつの間にやら話し終えていたカノンがひょいと横から顔を出す。すぐさま否定した。やることがなくて、しかし店内でぼんやりしているのはあまりにも不審であるからこうしていた、と半分正直にそう答えるとカノンが笑った。
「まぁお前はテレビなんか滅多に見ないだろうしなぁ。宝の持ち腐れになるか」
平素以上に機嫌の良いカノンを、此処が店の中でさえなければ、今すぐにでも抱き締めてやるのに。結局のところ、楽しそうであるならそれでいいのだ。その楽しそうな隣に自分を置いてくれているという事実だけで満足すべきなのだ。…そう言い聞かせている自分が情けなくて参る。
そしてカノンは、またいつの間にやら電子レンジに夢中になっていた。
家電聖闘士
なんだかラダマンティスが情けないことになってしまった。
ゆやなぎは別に家電好きでもなんでもないですが、家電好きになる気持ちはもんのすごくよくわかります。あれは楽しいよな…