俺がこの世で反吐がでるほど嫌いなものがみっつある。
ひとつは綺麗事、ひとつは他人の無責任な応援、そして最後は女神の護衛の任務だ。

別に任務自体はそんなに嫌いじゃあない。こなせば終わりだ。これでもサガの治世の時は他の黄金聖闘士達よりもコキ使われたもんだから、体力もかなりある方だと思っている。
だが女神の…アテナの護衛の任だけは戴けない。今更何を隠そう、俺はあの女が大嫌いである。
いや、女という生き物は好きだ、寧ろ愛している。あの女は女でも神だから、俺の中では女の部類に入らない。


俺もまぁ一応蟹座の黄金聖闘士だ。女神を敬い女神に忠誠を誓い、女神を守る聖闘士だ。別に無碍に扱ったりしているわけでも何でもないんだから構わないだろう、心の中で何を思っていようと。俺は、女神様を手放しに崇拝できるほど、何も知らない餓鬼じゃない。





なのにどうしてわざわざ俺が護衛の任につくことになってしまったのか。
いつもしつこいぐらい『アテナの護衛は私が』とか何とか言ってくるあのサガの弟はどうした。
「今日は海界のようですよ」
じゃああれだ、アルデバランとかアイオリアは。
「パーティーに出席しなくてはいけませんから。アルデバランやアイオリアは苦手でしょうし」
こんなときに限ってカミュはシベリアだし、教皇補佐達は仕事に追われてるし、ムウは図ったようにジャミールへ向かうし…!
「そうだ蠍の奴がいるじゃねぇか」
「ミロは昨日から休みを取っています。この間食べた貝にあたったとか」
あいついっつも肝心なときに役に立たねえ。

しかも何?パーティー?さっき普通にスルーしかけたが聞いてねえぞおい。
「それにミロはこの間一緒に来てもらいましたから、順番的にも貴方ですよ、デスマスク」

今とんでもなく舌打ちがしたい気分になった。女神様はいつも通り俺を見てにこにこしていらっしゃる。何がそんなに面白いんだか、ただの男前だろう?…と、いう冗談も面倒だから口にしない。





私情はいろいろあるが、俺は真面目な聖闘士なのでイヤイヤながらも任務はこなす。
一般人(金持ち)ばかりのパーティーなんなら金ピカ聖衣なんて着ていったら当然浮く(ん?ある意味違和感ないのか?冗談だ、冗談)。冠婚葬祭用の礼服を久しぶりに引っ張り出して身に付けた。
「とてもよく似合っているわデスマスク」
「合わなきゃ買わんでしょう、普通」
ちなみに、俺のこの礼服姿を見て薔薇男は『馬子にも衣装』とかいいやがる。つくづく失礼な奴だ。山羊男はあとあと面倒だから同調はしないが否定もしない。あいつにも相当腹が立つ。

「準備は?しっかりできたんでしょうね女神様」
「ええ勿論。…そうだ、久しぶりにお兄様も顔をお出しになるとか。貴方に会えるのを楽しみにしていましたよ」
「へぇ」
まさか図られたんじゃなかろうか。別に盟の奴と会うのは嫌じゃないが、腹立つ。兎に角、腹が立って仕方ない。




ゆっくり教皇宮から十二宮を下っていく。その間、俺はひとっっっことも口を利かなかった。女神サマと話すことなんてありません。そりゃ女神様の方にあるならきちんと相手はするが。俺は真面目な聖闘士なんで。

「デスマスクは私のことが嫌いなんですね」
へぇ、まぁ、そうですね。
「それがどうかしたんで?」
「何が気に入りませんか?」
「気に入らないも何も…」
そういうところが嫌いです、とは流石に言い難い。
「大体女神様の護衛なんて俺向きじゃないんだって、」
「では私が“女神”じゃなければいいのですね」


…今仕事に追われているであろう教皇補佐達さんよ。礼服着てアテナつれて教皇宮を出て人馬宮まできてまでなんだが、やはり降りさせてくれ。只の聖闘士の俺には神様の考えることなんかこれっぽっちも解んねえ。お手上げだ。


「この間、カノンとお姫様ごっこをしたのです」
何してんだあの二十八歳。
「あの時は時間があまりなくてほんの数十秒しかできませんでしたから…デスマスク、今から私は女神ではなくお姫様です。さぁそのように扱いなさい」

まず数十秒でお姫様ごっこて、どんなんだよ。と突っ込みそうになるのを抑える。どうやら女神様は勘違いをしているらしい。胸に手を当てて誇らしげに「さぁ」と目が語る。俺はもう何か発言する気を全部削がれて、深い深ーい溜め息だけを吐いた。
「駄目ですか?」
アテナはお前と仲良くなさりたいのだよ、と薔薇男が言っていたが。やはり根本的な部分で女神は間違えている。欠点を全て潰せば相手に好かれるようにできてるなら、もっと単純だろう、恋とか愛とか友情とか。自分で言ってて寒くなった。



「別に女神様のままでいいです」



棒読み投げやり。サガが聞いたらギャラクシアンエクスプロージョン。だが女神はにこにこと笑っているだけで。『やっぱりその服、よく似合っていますよ』と俺の背中に寒気がするほど優しい声で言った。

アイオリアじゃないが、もういろいろ面倒だ。さっさとパーティーとやらも終えて、護衛の任を解いて欲しい。
俺は重たいもんはあんまり背負いたくない主義なんです。使命も正義も信念も、愛も命も同じだ同じ。ひとつ守るだけで精一杯だ。

任務はこなす。何度もいうが、俺は真面目な聖闘士だから。だが女神様が嫌いだということだけは何があっても曲がらない。忠誠を誓い、守ることと相手が好きであるかどうかは全然違う。俺は女神様という重たいものを背負える器の人間じゃあないというわけで。





まぁ、あんたが俺と仲良くしたい、そのおおよそ神様らしくない気持ちぐらいは汲んでやってもいいかね。









プリンセスプリンセス
withデスマスク




女神と問題児の組み合わせがいいよねって話を姉上としてました。
カノンとか、でっちゃんとか、シャカとか、そのへん。