飲食店
席は窓側がいい、というのは、珍しく三人で一致する意見だった。かといって毎回窓側に座れるかどうかは完全に店の都合なのだが、店員が席案内をするときは三人揃って期待の目で見てしまう。そしてその意に反して店のど真ん中に案内されてしまうと、妙な失望感が生まれてしまうのだ。
甚だ勝手な話だという自覚はある。表に出なければいいだろうと、三人で互いに口にしたわけではないが、三人揃って同じように言い訳をしている。
頭の中を覗き合っているかのように三人意見がぴたりと合うのはこの時だけで、その後は、頼むものも、そのものの食べ方も、食事しながら何処に視線を置くかも全く噛み合わないのだが。
「あ」
食後のデザートを頬張っていたアフロディーテが、ガラス越しに見える表通りに何か見つけたように顔をあげた。
「なんだ?」
「あれだよ、あそこ」
「…ああ」
もくもくと立ち上る煙が視界に飛び込む。人が忙しく行き交っているから、一歩外に出れば喧噪の渦に耳を打たれるだろう。
「ごしゅーしょーさまってな」
デスマスクはそうどうでもよさげに言い放ち、アイスコーヒーを啜ったが、目線をその行き交う人々から放すことはなかった。三人の中で一番食べるのが速いシュラは手持ち無沙汰を解消するかのように外の様子をじっと見回している。
緩やかに過ぎる昼食時間、ガラスを隔てて向こうとこちら。
大声で何かを罵る人々、警官隊に圧されて転がり倒れ込んで頭を踏まれて、それでも止まない喧噪の渦をただ眺めるだけ。ガラスのこちら側には届かない。向こう側の手も、音も。
「…平和って奴は」
「あ?」
「どこにあるんだろうね」
口元を布で拭い、冷たい水で喉を潤す。
「神様と戦争なんかしてなくても、人間は争ってばかりじゃあないか」
アフロディーテは些か楽しそうにそう口にした。逆にシュラの表情は明らかに険しくなる。デスマスクだけはやはりガラスの向こうから視線を外さない。
強い衝撃が店の建物を襲う。それでも僅かにテーブルの上のカップが、がた、と音を立てるだけ。
「…あるだろ、ここに」
少なくとも時間を気にせず、金が許せば自分の好きなものを好きなだけ食べられる。薄く透けた壁を一枚隔てた、この狡い空間には。