マンホール





この地面の下には怪物が潜む。暗闇の中に差す一筋の光を求めてやまない、醜い怪物が。








「…で、受けたのか、その任務」
「仕方ねぇだろ、仕事なんだから」
下水道の中を調査するとかいう、不可思議な任務。
「何でも、そういうところに秘密組織とやらは身を隠したりするそうですよー……ってそうですよーじゃねーよ何が悲しくて地面の下なんざ潜らにゃならんかったのかさっぱりだぜ」


人ひとりいないのに道を照らすライト、絶え間なく流れる人工の川。地下の息苦しさは異常だった。地上では何の問題もなく機能する方向感覚は間も無く失われ、替わりにいつまでも抜け出せない迷宮への道をぽっかり開けられたような気分になる。どこまでも続きそうな景色、外の様子を窺える要素は何一つなく、たった30分程でかなり長いときを其処で過ごしているような錯覚を起こす。






暗く狭い地面の下。







「…冗談抜きでな」
「ん?」
「人間っつーのは、明るいとこにないと生きていけねーもんなんだって、実感したな、本当に」
「それは良いことじゃあないか」


台所から美味そうな匂いが漂ってきた。いい具合に空腹を刺激する、柔らかなそれに深く、息を吐く。
「こんなときって、シュラの飯ごときでも滅茶苦茶安心するもんなんだなァ…」
「…悪かったな、不味くて」
不味いとは一言も、という前に容赦なく頭を小突かれ、小さなうめき声を堪え切れなかった笑い声と共に洩らした。








地面の下の、醜い怪物。