カップ
つい昨日、サガの気に入っていたカップのソーサーが割れた。教皇宮での仕事中、アイオロスがうっかり不注意で落としてしまったのだ。そのときのサガの怒り振りは凄まじかった。これがアイオロスではなくミロなどであったらそこまで怒らなかったのかも知れない。その日一日、サガはアイオロスと口を聞いてもくれなかった。
明くる日、海界から戻ってきたカノンとまた些細な事で喧嘩したサガは、今度は自分でお気に入りのカップ自体を割った。これにはカノンが狼狽えた。何をしているサガ!と酷く驚いたように口にしていた。アイオロスは現場を目撃したから知っているが、サガは勢い任せに、床へコーヒーの入ったカップを自分で投げつけたのだ。
所詮、ソーサーも欠けてしまったそれに、もう興味はないという意思の表れだったのか、或いは自分が選んで割ったものに間違いはないということなのか、区別はつかないが。
サガが大事にしていたものをサガ自身の手が壊すという場面はあまり見たくないものだなぁ、と。アイオロスはそう思っただけである。あと侍従達がコーヒーを淹れるときも不便だろうなぁ、代わりは沢山あるにしろ、サガの神経質さを知るが故に。
事態を招く原因をつくったかもしれないと思ったアイオロスは、次の休みの日にはサガに新しいカップとソーサーを買ってこよう、と心に決めた。床に散らばったカップの残骸が虚しい。兄弟喧嘩を余所に、アイオロスはその破片をひとつひとつ丁寧に拾い上げた。