教会
昼間だというのに、建物の中は酷く暗く、人ひとり影すら見当たらない。これはまた、とんでもない穴場を見つけたもんだ。隣で茶化した奴の口笛がやたらと大きく反響した。
別に、お祈りなんてしにきたわけじゃない。ただ建物を見に来ただけなのだ。太陽の光を一身に受けて色鮮やかにきらめくステンドグラス。神の声のひとつも拾えそうなほどに高く吹き抜けられた天井。傲慢さと謙虚さの入り交じったその建物は、驚くほどよく人と云う生き物を表している。いや、そんな皮肉にも大した意味はないが。
「観光地のくせして人がいないなんてな」
「人がいない方がいいって言ったじゃねーか」
「それでもこれはないだろう、これは」
まるで信仰者も失って忘れ去られた神の家。世界中では未だ崇拝され尊ばれていても、こんなに寂れた小さな家に降るお告げを誰も聴こうとはしない。建てられたときはもっとひとで溢れて、もっと多くの祈りで満たされていただろうか。全く意味のない想像を巡らせた。
自分達は、この家に住む神に頭をさげる人間ではないので。
「…まぁ、折角だし。手だけでも合わせていくか?」
「…いいのか」
「ちょっとぐらい構わないさ。私たちの女神は寛大だから」
サガ辺りが聞いたら苦い顔をしそうな軽口を、ステンドグラスの光の下で叩き合う。
「ほんの少しの間だけ、孤独な神様の話し相手になるんだと思えばいい」
きっと、愚痴さえ言わないだろう。人間の勝手な傲慢と勝手な信仰で建てられた建物なのに、神はそのとおりにずっと美しい。忘れ去られて息絶えても。嗄れた手は訪れるものを変わらず愛するのだ。
そんな優しき神に、こんなに不遜な自分達が手を合わせるのも、何だか奇妙でおかしな話だが。
「お、正午だ」
指差した先から、この薄暗い部屋の中が照らし出されていく。たったそれだけの一連に目を細められるなら、無駄な話ではきっとない。