線路





その脇には、花束が置かれていた。否、置かれているには無造作で、また放置されてから随分と時間が経ってしまったらしい。萎れてばらばらになった葉と花が、土に汚れた包み紙の上に撒き散らされいる。

そこは駅からは離れていた。地平線に向こうに消えた路は、人の気配を全く感じさせないこの荒野の途中にも敷かれて、静かに時を刻んでいる。シュラはその場に屈み込み散らばる花びらを手にとる。ぱり、と乾いた音がした。砕けて更に細かくなったそれは呆気なく指から溢れ落ちた。





「どうした、シュラ」
アフロディーテの声がした。周辺の調査が終わったと言いながら、シュラの横に立つ。花びらが風に流された。
「…どうした?」

きっと、長い時が過ぎたから。もう何の痕跡もそこにはなくて、誰も通り過ぎるだけの場所へと成り果てたのだろう。首をどちらに回しても路は続いているように見えて、どちらも果てがわからないまま消え失せる。







「おい、汽車くるぞ」

後ろから首根を掴まれて強く引かれた。路からからだが大きくはなれた瞬間、物凄い風圧と共に萎びた花びらが包み紙ごと車輪に轢かれた。シュラは大きく目を見開いた。

「なに感傷に浸ってんだてめーは」

だってあそこには、人が居たのだ。誰が見向きもしないまま通り過ぎるそこにだって、見えなかっただけで。



伝えず、唇を引き結んで振り返り、デスマスクの見下ろす目を見た。肩を竦める彼はその手を離して踵を返す。アフロディーテが顎をしゃくってその後に続いた。一瞬だけ両目を閉じてシュラも歩き出す。きっともう二度と、あの場所に人を見ることはない。