ブランケット
暖房が壊れたなどと馬鹿なことがあってしまった所為で、カノンは大変に機嫌が悪い。ソファーの下に座り込んで体を小さく丸めている。寒いのが死ぬほど嫌いなやつだから、今日はもう帰れと体調の心配も含めてそう言ってやったのに、不貞腐れたまま聞かず黙ってテレビの前を陣取っていた。
何も言わない、何を伝えに来たわけでもない。しかし此処にふらりとカノンがやってくるときは、大抵例の偏頭痛だ。故にラダマンティスもあまり強くは出れずに、機嫌の悪いカノンの様子を側で窺うのみに留まる。しかし寒いらしい。自分は普段からこの冥界で生活しているためこの程度我慢できないことはないが、聖域は雨期も明けて今は随分と温暖だ。
寒さで死ぬような奴ではないし、いざとなれば、少々疲れはくるが小宇宙を燃焼させればそれなりに暖はとれる。何時もならすぐにでも行うであろうそれもしないのは、やはり痛みが酷いからか。
ラダマンティスは無造作に衣服類が放り込まれたクローゼットの扉を開いて、中を漁り始めた。出てきたのは薄手の布地だった。まだ一度も使われたことのないそれを二、三回叩いて埃を確認し、そのままソファーの方へと放り投げる。丁度、布地はカノンの頭に被さった。
声なく、視線でラダマンティスを咎める。
「ないよりマシだろう」
薄手のわりに、肌が触れればあたたかいそれを示してラダマンティスが返す。
本当は、もっと気の利いたことをしてやれたらいいのだが。
残念ながら壊れた暖房機は戻せないし、頭痛を和らげる術もラダマンティスは持っていない。それくらいはカノンだってわかっていて、それでも機嫌を損ねているのだろう。
頭に引っかかったその布を広げて丸めた体に巻き付けるが、その決して小さくなどない体全てを覆い尽くすことは当然ながらできなかった。だが無いよりマシだ。いつものように、ほんの少しだけ、その痛むらしい右側頭部を撫でて顔をしかめた。