ケーキ





『もうすぐ誕生日だな、ミロ』
「ああ、だがまだ二週間も先だぞ。お前にしては気が早いな」
『今年は帰れそうなのだ、お前の誕生日に』
「本当か!?」

電話越しのカミュの声は国際電話だから少し遠い。それでもしっかり耳に届いた言葉にミロは目を輝かせた。

『ケーキはまだ注文していないな?』
「当たり前だろう、まだ二週間以上も先の話だ」
『お前の為にケーキを持って帰ろう。さぁなにがいい?』

ミロの声は当たり前のように弾んでいたが、カミュの声も心なしか弾んでいる。昔から、カミュは誰かに自分から進んで施しをするのが好きだった。それを少し思い出す。
『白いスタンダードなものだけじゃない、チョコレートが良ければそれもある。タルト生地やプリン生地など生地の変わったもの…上に沢山果物が乗っているものもいいな。レアチーズ風味なんかもあるぞ、生クリームが控えめがいいならそれも任せろ。好きなケーキをいってくれ』
カミュは今、ケーキ屋の前にでもいるのだろうか。ミロは苦笑いした。
「わかった。ならばカミュ、白い生クリームのパン生地で、苺が上に円を描いて乗っているのがいい」
『なに?』

楽しそうだったカミュの声が訝しげなものに変わる。
『普通のケーキがいいと?』
「ああ、普通のがいい。蝋燭と添えるチョコレートだけは忘れないでくれ」
『ミロ、私を馬鹿にしているのか?何でも好きなケーキにしろ。無くても、頼み込んで作らせる』
珍しくカミュがちょっと怒っている。怒らせたかったわけではないから、ミロは慌てて弁解の言葉を探した。


「いや、いい。お前が帰ってくるのに特別なものなどいらん。普通のでいいから、約束通りちゃんと帰って来い」
弁解だったが、嘘ではない。むしろ本音だ。
『ミロ、』
「楽しみにしているぞ、カミュ」


暫し、電話の向こうの声が消えた。切れたわけではない、ミロは返事を待つ。じゃあな、を云わなければ、ミロは電話を切る気はない。



『…ああ、楽しみにしておいてくれミロ。愛している』
長い間を置いて、ゆっくり吐き出すように告げられる。ミロは満足そうに目を細めて、俺もだ、とはっきり口にした。