ボール



気付けば、元気な笑い声が響いてきた方向へと足を向けていた。緑色の柵の向こう、広い空き地で自分よりもほんの少し小さな子供達がボールを投げ合っている。ボールを取ったひとりは近くにいる誰かを当てようと躍起になり、周りにいる誰かはそれを避けようと散り散りになっていくのが見えた。あと三機!とか叫ぶ声を耳にして、ああテンカか、と星矢はひとり納得した。



そういえば、何であれテンカっていうんだろう。ていうかテンカって何だ?どう書くんだ?天下かな、でも意味わかんねえな…



気になりだしたら色んなことが気になり始めた。ドッヂボールのドッヂって何だとか、鬼ごっこのバリエーションの無駄なまでの豊富さとか、スポーツのルールとか。

ふと我に返れば、自分と同じぐらいの子供達はこの柵の向こうの子供達と同じように駆けずり回って遊んでいて。毎日毎日退屈な日常を厭わんで小さな冒険を積み重ねて。不思議だ、と思った。このまるで他人事のような感覚がどうにも。




不意に、星矢の目の前に投げられたボールが飛んできた。あ、という声が聞こえてきたけれど、当然のようにボールは立ちはだかる柵にぶつかっただけで、星矢のもとには届かなかった。柵ががしゃんと派手な音を響かせる。跳ね返って手前に落ちたボールは、すぐさま駆けてきた少年によって拾い上げられ、そのままテンカは続けられていた。




少し、首を捻りながら。

あの向こう側は幸せで平和で、だけど退屈で、それでも何だか、自分にとってはとんでもなく当たり前の場所だということ。別に分けて考える必要性とかないよなと思いつつ、星矢は柵の前から去った。今日はあの孤児院に向かうつもりだ。