なんでもそうだが、物を作る、直す、組み立てるといった作業には集中力が不可欠だ。手元が狂うなどもってのほか、違うことに気を逸らしていては正確な物などできはしない。ましてや、聖衣には命が宿っている。聖衣を修復するということは、単に物を直すにとどまらない。例えるなら医者と同じだ。ミスはイコール、手術を施す対象の傷や死に繋がる。







邪魔はしない、と言うが、そこに居るだけで十分気が散るのだ。貴方だって失敗などと喜ばしいことではないでしょうと促しても彼はこちらへ顔を向けている。いつも通り目は開かないが、こちらの様子を窺っているのは一目瞭然だった。

「なら血を提供しようかムウ」
「なんですって?」
「私の血を使うといいと言っているのだ」
「結構です」


そもそも、今修復中の聖衣は血が必要な程傷付いているわけではない。まだ生きているのだ。ただ自己修復の機能が著しく悪化しているため、こうして手伝ってやっているに過ぎない。
必要ないのだと説明するが、ならば保管でもしておけば、なんて返事で返される。それもノーだ。そもそも血は管理が非常に難しい。それを集めて置いておけるだけの設備がこんなところにあるわけもない。病院ではあるまいし。



「一体何の気まぐれなのですか」



昔から、この男の気まぐれにはほとほと呆れると、しかしようやく慣れてきたとも思っていたのだが。どうせ只の好奇心だ、退屈なのだ、そうわかっていながらわざと訊ねる口調で非難した。退屈だといいながら手術室にずかずかと土足で踏み込まれて、隣で喧しくできることはないかと素人に口を挟まれる。同じことをしているのにこの程度のあしらいで済ませているのだから、つくづく自分も人が良い。





「生かす仕事とは如何なるものかとね、体験してみたくなったのだよ」
「軽々しく言うものではありませんよ。…命を扱う点では、戦闘を行うことと大して変わりはありません」
「だが、命を守る行為だ」





本当に、真面目に言っているのだろうか。だとしたら皮肉だ、戦場で生き長らえば、また次に赴くも戦場だろう。例え生かしたとて人は死ぬ。命は尽きる。
「…やめておきなさい。命を守ることは、命を奪うことよりも余程勇気の要る行為だ」
貴方には無理ですよ、言葉を飾りも回りくどくもせずにはっきり口にすれば、彼は珍しく困ったように笑った。









正確な手元



特に意味はないのに何か意味ありげにかいてしまった