師匠がよく嘆いていた。

「男ってのはなぁ、女が居て初めて完成する生き物なんだよ。原初宗教の多くに性行為を神聖視する信仰があることは前教えたよな?男の精神的未熟さは女が性行為を持って補ってくれるんだ。わかるな?お前ならわかってくれるよな盟」




別に師匠は色魔だった訳じゃない。ただ純粋に男として、女を愛していただけだ。とんに秀麗な顔をしていても男なら師匠は絶対に惹かれたりはしなかった。逆にじゃあ女なら見境が無かったかと聞かれればそれも違う。妙に目が肥えていて、理想の女にはやたらと煩かった。

そんな彼のもとで育ったから俺も立派な女好きだ。彼を人一倍尊敬していたから女にはちょっと煩い。世の中に女は溢れているが、それなら特に、イイ女にありつきたいものだろう?見た目良し、性格良し、器量良しのイイ女。















「あれー、ユーリいないのかぁ」
脇に持ち出した史料を抱えてわざと間の抜けた声をあげた。持ってきてあげたのに、なんて演技過剰にひとりごとを言うと、後ろから頭を何か軽いもので叩かれた。
「余計なことしないで」
振り向いて見た顔は仮面に覆われ、表情は窺えないが恐らく面白くないと如実に語っているのだろう。おどけたように謝って、ああでも、持ってきてあげたよと机の上に置けば溜め息を吐かれた。
「おかげで貴重な時間を喰ったわ」
「あれ、お礼は?」
「差し引きゼロでしょう」
口だけで残念だと言いながら、席に座る彼女の向かいに膝を着いた。仮面の所為で顔は覗き込めないが、きっと目にあたるだろうその場所を見つめて、自分でも胡散臭いと思う笑みを浮かべる。
「邪魔よ」
冷たく彼女が言い放つ。
「見てるだけだろ?」
「私の仕事をわかって言っているのかしら?雑兵の貴方に見られていいものじゃないの」





真面目だなぁ、と。肩を竦めて大人しく踵を返して部屋を出た。廊下を進みながら大きく欠伸をして腕を頭上へと伸ばすと、
「盟ー!」
煩い声と共に腰辺りに何かがタックルしてきた。思わず潰れたような声が出る。
「〜星矢かッ」
「おうよ!」
何をそんなに自信満々なのかはわからないが、親指を立てて得意気な星矢は上機嫌に盟を覗いた。
「何だ、あんま元気なし?」
何があったんだよ〜と歩き出した盟の隣に駆け寄って何度も何度も尋ねかける。あーもーうるさい!と大きな声を出したら、星矢ではなく近くに居た雑兵がびくっ、と肩を震わせた。

「教えろよー」
「良い男はみだりに自分のこと喋ったりはしないの」
「別に聞くくらい良いじゃん。減るもんじゃなしに」
「いーや減るね。大いに減るね」
「何だそりゃ!」
「ガキにはまだ早い」
「ふたつしか変わんねーっつーの!」




ムキになる義弟の頭をがしがしと乱暴に撫でてやりながら、盟は胸中だけでほくそ笑んだ。そう、ガキにはまだまだ早すぎるさ。男が女を見つけたら始まるのは静かな駆け引きに違いない。









ボーイズアンドガールズ



盟ユーリかきたいっす。あ、ダ・ヴィンチ・コード読んでるときに書いてたせいでこんなことに。おやまぁ。