シャカは実に扱いにくい子供だ。これがサガの第一印象だった。やたらと素直に言うことを聞くと思えば全く実践していなかったり、勝手に自己判断で行動したことを咎めても反省せず、罰を与えても全く苦にしない。顔色ひとつ変えず堂々としているのだ。それでいて同年代の子らとは話が噛み合わず何かと問題を起こすし(尤もその原因は主にミロやアイオリアが作っているのだが、火に油を注ぐようなものだった)、それを悪びれた様子も見せない。

放っておくのならば、これほど楽な子供もいないと思うのだが。我が侭を言わず文句も言わず、駄々もとくに捏ねずに大人しくしている。ただ外に連れ出すと駄目なのだ。もしやただの出不精なのかと最近は疑っている。








そして何より、一番困るのはこれだ。


「なぜ、女神を信じなければならないのかね」




女神の聖闘士候補として聖域に連れてこられた身だというのに、この子供は頑なにそう言って馴染もうとしないのである。彼の生まれたインドの地には独特の土着宗教や仏教などが存在するから、とは確かに理由として納得が行くが、これでは些か不味いことになりそうだとサガは頭を抱えた。シャカは乙女座の、黄金聖闘士の候補生なのだ。そして他に候補生がいない今、小宇宙の扱いに関しては他のものたちと頭ふたつぶんも飛び抜けた才能を持つ彼が、間もなく乙女座の聖衣を戴くであろうことは明白だった。



「…シャカ」
「さぁ答えたまえよサガ。その答えも説明できぬのに、私にまだ見えぬ女神を信じろと言うのではあるまいな」

このまま女神への不敬を抱えて聖闘士となっては、聖域の結束に関わる。故に、サガは頭を悩ませた。この小生意気な子供を如何にして説得するべきか。
「…アテナはこの地上を守る神であらせられる。人々の人間としての生を守るため、その身を挺してこの地上を、他の神々からお守りになるのだ」

言葉は慎重に選ばなければならない。何故ならシャカは、時に思いもよらぬ方向から疑問をぶつけて足下を掬おうとしてくるのだ。
「我々はアテナに守られているのだ。遥か神話の時代から今までに、地上が人の手にあるのはアテナのお陰なのだよ」
「だから星に選ばれた私に女神の戦士となれと?」
シャカは不服そうに首を振った。
「私は別に、聖闘士となることに不満があるのではない。サガ、君は何故女神を信じるのだ?私は理由が聞きたいだけだ」

サガは考えた。女神は偉大だ、この地上の正義であり得る。何れ聖戦が近付き再びこの地上に降臨なさる彼女の戦士に選ばれたことは、サガのひとつの誇りだろう。




だが、本当にそれは自分の想いだろうか?





「…女神は」
「うむ」
「この地上を愛で守られる」
「愛?」
「そうだ。それは人であっては決して為し得ない、分け隔てのない至上の愛だ」

言って、サガは俯いた。シャカが下から見上げている。

「…と言っても、まだわたしも彼の方の愛を目の当たりにした訳ではないのだがな」








苦笑いしたサガを、いつも閉じているその目を開いてシャカが見つめる。ようやく聴きたいことが聴けたと尊大な声で伝えた彼は、少しだけ眉間に皺を寄せてみせた。









見えざる至高



乙女座考察にサガ考察。
ようするに、サガは真実の絶対性を信じていて、シャカは真実の絶対性に人の相対性を信じている・・・みたいなことを考えてたけど全然反映されなかった。あいたたたた