一番あたたかいところを探している。
まるで赤ん坊が母親の優しいてのひらを求めるように、しかし女のように柔らかくも小さくもないその体の中と外に、あたたかいものを求めている。理由はよくわからなかった。考えたことは一応ある。うまれてはじめて出逢ったその時に、まず一番に行ったのが拳をぶつけあうことだったから、だろうか。だがそれが一体どんな曲折を経て追求につながったのかなど、わかるはずもなかった。
カノンは、思っていた程もあたたかくはなかった。
体温の話をすれば、ラダマンティスよりもずっと低く思われる。訓練などで体を動かしたのちは当然体温もあがるのだが、それでもラダマンティスが想像する以上にはいつもあたたかくはなかった。首を捻る。なのに自分は、ずっとカノンがあたたかいのだと信じ込んでいるのだ。
「あたたかいのか?」
いつもカノンに引っ付いている蠍座に尋ねてみたことがある。彼は一瞬で盛大なしかめ面をしてみせて、何を言い出すか、とも言いたそうにラダマンティスを睨み付けた。
「何がだ」
「カノンが」
蠍座はますます機嫌を悪くさせる。
「当たり前だろう」
今しがた席を外した男の向かった方を横目で見ながら彼は頷いた。抱き締めたこともあるし、逆もある。戯れではあるが拳を交えたことも何度となくある。いや、そんなことよりもっと何てことのない理由で、彼は頷くことができる。
「人間ではないか」
そうか、人間か。妙な納得感を持ちながらラダマンティスは腕を組んだ。人間だからあたたかくて当然だというか。
ならば何故、想像した程あたたかくないなどと、自分は残念に思うのだろう。
もっとあたたかな、熱と質量を持ったものだと思い込んでいる。振るわれた力を受け止めきれずに自分が無様に地へ伏すくらいにはきっと。穿たれた箇所が焼け爛れて骨まで砕け散るほどにもきっと。実感まで架空に持てるくらいに信じているのに、未だカノンは熱を持たない。まるでそれをどこか明るい場所に落としてきたかのように、すっかりカノンは海に浮かんでいる。
「カノン」
どうにもならなくなって、手を取った。やはりあたたくはないそれは、驚いた顔と同時に固く閉じられた。先の方から首の方まで何度も往復するラダマンティスの指に、カノンが居心地悪そうな表情を作る。軽く手前に引いて、その柔らかい束縛から抜けようとするのを、逆に手を引き返して阻止しながら、心中躍起になって指を一本一本開かせて、露になったてのひらに触れた。
「…どうした」
低く咎めるような声を無視して撫でたそこは、じんわりと熱を孕んでいた。
やはり、思った以上にはあたたかではないのに。
その微かな熱が嬉しかった。ようやくカノンが人間であるという証を見つけたとでも思わんばかりに。そんな確認などしなくたってカノンは自分の目の前で呼吸をしているというのに、ただそれだけでは満足しきれなかったのだろうか。そのてのひらを見つけて、ラダマンティスは珍しく頬を綻ばせた。が、カノンは訝しげに眉を顰める。
「何なんだお前は」
人の手弄くり回して笑うなんて、気味が悪い。
尤もだ。しかしこのてのひらを見つけることができたから、自分は今酷く安心しているのだと。どうやってうまくカノンに伝えれば良いのかは見当もつかない。
熱を持つ脈
ラダマンティスがカノンの手を掴んだり唇を寄せてみたり額に当てたりしてる図が何故かめちゃくちゃ好きです。理屈も理由もなく。
そういえばわたしのラダカノは此処からはじまったんだったなと思って。