※今更ですがかなり血みどろです
※聖戦後復活時、カノンがもし生きてたらこうなるよなと












お前はよく泣くなぁミロ。
喉の奥を鳴らしただけの掠れた声が、ミロの耳に届いた。その酷く落ち着いた感慨深げな声にカチンと来た。
目の前には血溜まりと、その中心に沈む体。身に着けている服の薄い青は既に大きく変色し、また応急処置のために破った部分も多く、服としての機能はほぼ果たしていない。
ミロは乱暴に目元を拭い、出来るだけ尊大な声を出した。

「何がいけない。人間涙が出るときは意識せず出るものなのだ。お前だっ、て泣くだろう」
最後に少ししゃくりあげてしまった。その無様なさまをカノンは焦点の合わない目で見ている。こうなったら開き直りだ!そう思う気持ち半面、今はそれどころではない気持ち半面。
別に、悪いとは一言も。
其処まで唇が形を作ってカノンは激しく噎せた。
「おい喋るな!」
脇腹から血が噴き出す。骨に響いたか、全身に痛みが走ったはずだった。だがカノンの喉は変わらず空気を通すだけで悲鳴はあがらない。
慌ててカノンの気管を確保してやろうとするが、べっとりと纏わりつく血が邪魔をしてきた。手を生温い感覚が絶え間なく襲うのに耐えられず、ミロの掌はただカノンの上をさ迷うだけである。
「大丈夫だ、直ぐにアイオリアが皆を連れてくる。だからそれまで耐えろ」
言いながら、耐えなければならないのは自分か、と思い知る。
皆?生きているのか、サガも?
カノンの小宇宙が少しだけざわめいた。
「ああ勿論だ。直ぐに会わせてやる!」
まだカノンはしっかり生きている!ミロは夢中になって叫んだ。


「帰ってきたんだ!皆帰ってきたから、お前も帰るぞ!サガに会いたくはないのか!?女神も待ちくたびれていらっしゃる!俺も、お前のことを知らない奴らにお前を紹介するときが楽しみで堪らんのだ!そうだ、誇張して紹介してやろう!お前は紛うことなきアテナの聖闘士だと!地上の正義の為、立派に戦い抜いたと!お前が二度と悪さなんぞできんようにな!!」


カノンの喉が鳴った。また噎せたのかと思ったが、違った。カノンは笑っていた。幸せそうに笑っていた。それを確認して、ミロの目からはまたも涙が溢れ出してきた。とにかく何とか出血だけでも止まれ!血止めの真央点を突いても気休めでしかない、既に流れ出た血は元には戻らない。血が足りないのだ!早くしろ!
「笑うな!!何がおかしい!!死にかけていることか?それともやはり俺が泣いていることか!?泣くのだ、泣くものだ人間は!!お前も泣け!帰ってきたといって泣いてみろ!!」
最後の方はほとんど泣き叫んでいると同義で、何を言っているのかミロ自身にもわからなかった。一頻り叫んで、ミロは急に寂しくなった。
カノンは笑うのを少し止めて何かを言った。よく聞き取れなくて耳を口元へと近付けるが、空気がひゅうひゅうと鳴るだけだった。
涙がカノンの頬に落ちる。固まってこびりついた血は涙なんかでは落ちてくれなかった。カノンは随分長く何かを呟いていた。


ああ速く、早く来てくれ。血が止まらないのが恐くて仕方ないのだ。最悪の事態は考えたくない、口にもしない、だから早く何とかしてくれ。情けなくもミロはそう何者かに願った。血に染まるのも構わずに、聖衣からマントを取ってカノンに被せ、ミロは待った。珍しく待った。








遠くからアイオリアの大きな呼び声がした。複数人の急ぐ足音が聞こえる。走り寄ってきたカミュが、大丈夫か、と涙の止まらないミロに問い掛けたが、ミロは返事を返せなかった。カミュはすぐにミロをアイオリアに預け、凍気で熱を下げ始める。シュラやアルデバランが運ぶ準備を進めていく。ムウが冷静に処置を施す中、改めて見たカノンの惨状、特に焼け爛れたような右半身に、ミロはようやく意識を手放した。










(ミロ、泣けるときに泣いておかないとな、いざって時に涙が流れてこないもんなんだよ。悲しいんだか嬉しいんだか、そうじゃないんだか、体がわかんなくなってな。今の俺がそうだ。
勘違いはしてくれるな。俺は今、多分嬉しいんだと思う。笑って悪かった。ちょっと羨ましかっただけなんだ。なに、お前が俺を紹介してくれるときまで死なないようにするから、安心しろ。それとありがとう。
あと聞こえてないだろうから大丈夫だと思うが、今言ったことは全部忘れろよ。あれだ、全身が痛いのと、見つけられたって思って気が抜けた。傷の熱で頭が茹で上がったんだ。ああ、もう大体そういうことにしといてくれ。頼むぞ)













次にミロが目を覚ましたとき、そこは天蠍宮だった。頭ががんがんと響く。低くて小さな声が耳底にこびり付いていた。死んでも忘れてやるものか!寝台から跳ね起き、ミロは自宮を飛び出した。









涙の喜劇



何だろう、勿論カノンがミロを大事にするのはスカニー事件が発端ではあると思いますが…まぁいいじゃん。捏造万歳。なんちゃって
実はこんな血みどろなネタではなかったのに、何処からこうなっちゃったんだろうか…カノンの口調が全く安定していないのも痛みと熱の所為でいいですか。

私はやはりミロを何処か悟空のような存在として見ているらしい。カノミロっていうかもうカノンがミロを大事にしてるだけでお腹一杯です。そのネタだけで充分過ぎる程リア充です。