もうすぐ産まれるんだってねぇ、この大きなお腹から!ちょっと信じられないような思いを見せて、大袈裟に口にするのは簡単すぎてつまらない。いやでも全く大したもんなんです。こんなに重たいもんを何ヵ月と抱えて歩いてるんです。たったそれだけでおったまげる話なのに、最後は出すんですよ、ねえ、真似事でも信じられない話じゃないですか。
「そんなにはしゃいで、こどもみたいね」
だってよ、パルティータちゃん。産まれるんですよその中から。俺たちの愛と努力の結晶!未来に向けて羽ばたく希望の光!俺たちの期待を一身に背負った赤ん坊がさぁ!





いとおしそうに何度も自らの膨れた腹を撫でる彼女は、すっかりひとりの母親だった。彼は日に日に大きくなっていくそれを数ヶ月間、傍目で眺め続けてきたが、何とグロテスクで美しいハナシなんだろうねぇなんてにやにやして、彼女のにこやかな鉄槌を喰らったりもした。母親は強い。例え力の差が歴然としている相手でも、母親は絶対に負けたりなんてしないのだ。彼女もいつかそうなる。

子供にかけてやる情など彼にはこれっぽっちもなかった。ただその中から顔を、体を出す瞬間をいまかいまかと待ちわびているだけだった。なぁなぁパルティータちゃん、いつかなぁいつかなぁ。いつまで待てばいいのかなぁ!焦らないで杳馬、ちゃんとうまれてくる準備ができてから出てこないとせっかくうまれてきても駄目なのよ。外は危険もいっぱいなんだから。




そのやりとりも段々飽きてきて、彼はまた駄々をこねるようにその腹へ、準備できたら突き破って出ておいでよ、なんて囁いた。彼女は笑っていた。いきなりそんなことができるようになっていたら私なんか要らないじゃない。冗談にして笑い合った。俺はねぇ、待つのは案外得意よ、楽しそうなことなら色んなとこに転がってんでして。しかし随分と待たされるから。こんな数ヶ月、何てことは無いような期間のはずなのに、期待の所為か妙に長い。ちゃんと育ちさえすればいいんだから、自分が腹を裂いてやってもいいんだけれども。



まだかなぁ、まだかなぁ。



「本当に、こどもみたいね。待てっていわれたら律義にご褒美が来るのを待って、でも遅いってぐずるでしょう」
「ありゃりゃ、いつの間に俺にもオカーサンになっちゃったのパルティータちゃん」

相も変わらず綺麗で可愛い彼女です。そうそう俺にゃもったいないくらいの美人さんなんです。頭まで撫で出して俺もすっかり、彼女にこども扱いです。

腹に耳を傾けたら、何か中で暴れてんです。わぉ、超元気だなぁ。いいねぇいいねぇ、神のひとりやふたりは殺せそうじゃないの。とんだ暴れ者でも構いやしません。立派な母親もいることですし。



「でもあれだなぁ…うまれちゃったらそれはそれでさみしーなぁー」
「あら、どうして?」
「だってオカーサン横取りされちゃいそうだもん」

こんな腹の中の生き物にかけてやる情はない。愛情なんてものを大切にする神はアテナだけで十分だ。この世を舞台と称するなら、演出家の彼にとって役者は脚本を演じる駒であり、こども、も。



彼女は笑っている。

「なら、あなたもこの子を愛してみたらどう?」
手をとられて膨れた腹にあてられた。変わらず元気な期待の星は、彼の手を強かに蹴り上げた。痛くも痒くもない。姿は見えないがそこにある。
「あなたにも、こうしていた時期あったのよ」





それは?それは皮肉じゃあないのかいパルティータちゃん。





もうすぐだとまだ待たされて、はやくはやくと急かしながら夫婦ごっこに飽きないまま。次は親の真似事かい?
…まだかなぁ。
こんなに暴れ馬なのに、母親の腹は突き破れない、やっぱり母親は強くて狡い。









道化師と真似事




突発なのでよくわからん文章になってしまった。夫婦たまらん