最初に海の中だか火山の火口だかに放り込まれたときは、とんでもないところに来たと思ったものだ。聖闘士を甘く見ていたかな、なんて呑気に言ってもいられず、ただただ生き延びることに必死になった。

自分だけじゃないさ。

多くの自分と血を分け合った兄弟達が、同じような思いをしているのだと言い聞かせてとにかくもがいた。生き延びなければならない。生き延びなければ、自分には聖闘士の資格はないということだろう。



























急に首根を掴まれて、水の中から引き上げられた。体が宙に浮く。ようやく与えられた酸素を目一杯吸い込もうとして噎せた。足が地面につかない。どうやら何かに吊り下がっているのだとそのとき気付いた。

「へぇ、まだ生きてたか。案外タフじゃねぇの」
すぐ後ろから声がした。どうやら自分の首根を掴んでいる人物のものらしい。此処に来たとき自分を迎えた聖闘士、圧倒的に色素の薄い髪色に赤目が特徴的な男だった。嫌な笑い方をする人だ。まだ幼い自分にもそう思わせるぐらい、おおよそ『女神に仕える戦士』には似つかわしくないひと。
「いいねぇ、気に入ったぜその根性。そうでなくちゃなぁ」
お前名前は?と不躾に尋ねてきたその男の赤い目を見る。此処に来たとき教えた筈なのだが、忘れているのか初めから聞いていなかったのか。
噎せた喉では声が出ず、唇だけを動かした。たった二文字の簡単な名前だ。男はにやにやしながらそれを把握して、なるほどなるほどと頷いた。

そのまま、掴まれていた首を放されて地面に激突する。大した高さではないが下は岩だ。一瞬意識が遠退きそうになるのを押さえ込み、足に力を込めて立ち上がった。
「へぇ」
感心したように男が声を洩らす。
「お前はモノになりそうだな」
すると今度は腹から抱え上げられた。荷物を運ぶように肩に担がれる。男はそのまま歩き出した。自分はそろそろ疲労で限界にきていた。次はどんなところに放り込まれるんだろう。何処へ連れて行かれようとも生き延びてやるつもりだが、流石に今はもう体の感覚も鈍って瞼も降りそうだ。ただ、今ひとたび眠れば二度と目覚めないだろう。だから必死に目を閉じないよう体を強ばらせる。途端、腹の虫が呻いた。



「まずは飯だな」

聞き間違いか、と耳を疑う。自分を運ぶ男にその虚ろな目を向けるが、相変わらず男はにやにやへらへらしているだけだ。

「好きな食いもん言ってみろよ」

そんなのとっさには思いつけない。

「食わねーと生きていけねぇからなァ」




黙ったままでいると、男はそうひとりごとのように呟いた。それから、自分に話しかけているのだろうか、随分とでかい声で知らない料理の名前をひとつ、ひとつと取り上げては説明をした。うまく働かない頭でそれを聞いて、僅かに相槌を返してみる。途中で気付いた、この男は自分が意識を失わないようにしているのだと。その真意のほどは窺えないが、まずは自分にも聖闘士の資格はありだと自惚れても大丈夫なのだろうか。




そのとき、急に肌寒さを感じた。思えば水の中から引き上げられて濡れたままだ。何故今まで気付かなかったのか、辺りはすっかり暗くなっていて、気温も下がっている。頭を持ち上げて見た夜空には星が幾つも並んでいた。うまれてはじめて、輝く星の限りないことを知った。









存在する輝きを




なんとなく蟹師弟。ちょっと盟が大人びすぎな気がしないでもないが、こんなのきっと一輝兄さんに比べたら大したことないだろう。・・・っていったらなんでもいけそうな気がする兄さんクオリティ。