鳥がチュンチュンと鳴いている。カーテンから日差しが零れ落ちている。うるさい目覚ましを叩いて止めて、温まっている布団に体を巻き付ける。
冬は寒くて、覚醒しても起き上がる気にはなれない。あと五分、というよくある文句をむにゃむにゃと頭の中で呟きながら、星矢はごろりと寝返りを打った。
次の瞬間。
「朝だよ星矢!!」
布団が勢い良く体から離された。驚いてぎりぎり端の方を掴むも起き抜けで力が入らず、あっさりと足下に持って行かれてしまう。冷たい空気が肌を撫でた。カーテンも全開にされて眩しい太陽とご対面。爽やかに鳴いていた鳥もばさばさと飛び立っていく。
ベッド脇には花のような笑顔を浮かべた瞬が顔を覗き込んでいた。
「何すんだよ瞬!」
「おはよう星矢。寝坊はよくないよ、此処は沙織さんのお屋敷なんだから」
そう、昨日から星矢は城戸邸で寝泊まりしていた。護衛という名目で沙織の仕事に付き添い、滅多にお目にかかれない高級食材を食べてちょっとテンションを上げたまま、用意された客人用の豪華なベッドに転がったのだった。
「寝坊って…まだ8時にもなってねぇじゃん!」
「駄目駄目、8時になったら洗濯の時間なんだ。ほら起きて、着替えて、それ洗濯機に入れておいてね」
瞬は城戸邸に居候の身である。沙織の計らいもあり、別に家事など自分で行わなくても使用人が勝手にやってくれるのだが。
「今日はね、凄く良い天気なんだ。ついでだし星矢の分も洗うから、ほら早く早く」
『住まわせて貰っているんだから自分のことは自分でしないと。』
そう言って、洗濯だけでなく掃除や食事も、瞬は殆ど自力で行っていた。食事だけは沙織たちと共に取ることもあるそうだが、基本的には自炊だという。
そりゃあ、星矢もひとりで家事ぐらいはこなせるが。自分のことは自分でしろというのが修行時代からの鉄則だ。しかし折角誰かがやってくれるんだから、今日ぐらいは解放されてもいいじゃんと思ってしまう。だってそれぐらい、家事というのは面倒くさい。
星矢は渋々着替えを始めた。その間に瞬はてきぱきとベッドを整え、さっさと部屋の片付けをし、星矢の私物は部屋の備え付けと分けて、鞄の近くにわかりやすく固めてある。瞬は特別世話焼きでもないのだが、さり気ない気遣いが非常に上手い。
が、一方ではちょっと強引というか。
「う、…さむううう!」
突然、窓を全開にされてしまった。さっき布団を剥がれたときに感じたものとは比べものにならないような冷気が星矢を襲う。
「瞬、冬だろ朝だろ寒いだろ!」
「なに言ってるの。今日は晴れてて日差しが凄く暖かいんだよ」
「せめて着替え終わってからにしてくれよ!」
幾ら日が当たってあったかいといったって、風は吹き付けるし気温が大きく変わるわけでもないし。文句を連ねればちゃんと閉めてくれた。瞬は寒さでばたばたと忙しなく着替える星矢を見てくすくす笑っている。もしかしたらわざとだったのかも知れない、と気付いたときには既に眠気が覚めていた。
「じゃあ洗濯機回すから。そうそう、朝ご飯できてるから食べたいときに来てくれって、辰巳さんが言ってたよ」
「ん、わかったさんきゅ」
心なしか楽しそうに、瞬は踵を返して扉を思い切りよく開けた。冷気が入り込んでくることを覚悟していたが、その心配は無用だったらしい。流石の城戸邸、廊下にもきっちり暖房が入っている。
「瞬は食べないのか?」
「僕?あとで食べるよ。先に洗濯したいんだ」
だってこんなにいい天気なんだから。
にこにこ返事する瞬に、へんなの、と正直に肩を竦めながら、鞄の上に乗せられた上着に袖を通す。脱いだ服を片手で鷲掴み、瞬に対抗して星矢もにやりと笑ってみせた。
「じゃあ俺も、一緒に食おうぜ瞬!」
窓からは、直視できない明るい太陽。
I feel the sunshine of your love
是非、某くるりとユーミンの曲をBGMにどうぞ。
洗濯って、実際にやると面倒なんですけどね。