普段は散々に振り回されている所為でうまく自覚できないけれども、今のように静かな時間が流れている間は不思議と意識が醒めてくる。こうして眠っている間以外は、よく疲れないな、と漏らしたくなるぐらい騒がしいコレについて。

ミロはそういう奴なのだ。どういう奴かって、自分勝手で爆走気味で、馬鹿で子供で我が儘で。なのに情に人一倍弱く、相手を振り回す傍ら非常に自然な形で相手を尊重する。その全てに嫌味がないから嫌われない。全力だから愛される。そういう奴なのだ、ミロという奴は。














さてどうしたい?と質問は既に聞き飽いてしまったように思える。この男が無意識に振り撒いたものは本当に沢山あって、もうこれ以上自分は何を望むというのだろうと自問した。恐らく、ない、と思う。確信をもって言い切るには至らない、何故なら欲しいものとそうでないものの境界線など基より曖昧で、自分でもうまく判別できないからだ。



例えば、例えばだ。愛してるとしよう。よくあるB級の映画のように、側にいてほしいとしよう。ミロがそれを許したとしよう。事実、今でも自分たちは一時の気の迷いでは片付けられない程には身を繋いで馬鹿みたいに反省しない関係が存在しているわけだが……其処で裏切るのは、間違いなく自分なのだ。だってどうせいつかそれは嘘だとわかる日が来る。だったら初めから、拗れないが絡まない、倒れないが寄っ掛かられることもない、そんな場所に立っていた方がいいに決まってる。














比較的落ち着いた気持ちでそこまで一気に思考した。小さく息を吐く。ミロの寝息は、彼がうつ伏せなのと距離が僅かに遠いおかげで耳には届かない。自分はおとなしい人間では決してないが、相手がおとなしいとこっちもおとなしくなってしまうようだ。いつものように馬鹿なやり合いをしているのとどっちの方がいいのかはわからなくて、居心地の悪さだけが募る。

(人間は、幸福のある方向へ、歩いていきたがるらしい)

ミロに導かれていく先は、幸福だろうか?

(…別にそこには興味がない)

寧ろ、自分が導く先が幸福であればいいと思う。それと矛盾するように、愛する親友を持つミロと不毛を重ねながらも、それはあたかも親が我が子の幸せを願うかのごとく、素直にそう信じていた。



どうありたいとか、具体的な理想があるわけではない。ひとつ確かなのは、ただ大切にしておきたいだけなのだ、ということ。

















(だがなぁ…)

眉間に皺を寄せながら、

(…持て余している)
飽和状態、と一言で纏めてみた。

(だのにそんなことも構わずお前はまたばらまくのだ)





だから、矛盾を犯すに違いない。指の隙間からぼろぼろ落としていくことを、一切後悔したくなくて。愛しているとは嘘だろう、だけど思っていることは嘘じゃないのだと伝えることがどうしてこんなにも難しいのか。


















(勝手な奴め)
うつ伏せて穏やかに眠るミロの頭上に両拳を翳して、てのひらの中の何かを落とすようにそれを開いた。考えねばなるまい。嘘を吐いて連なっていくには、ミロは正直すぎて辛いのだ。だけど放棄できないのなら、考えるしかあるまい。


静かに目を閉じてみた。この醒めた意識のままの状態が、あともう少しだけ続けば上等だ。どうせ自分とミロの関係などそんなもので、こんなに小難しく悩んでいるのだって所詮、自分だけだろう。そう思うとちょっと楽になれた気がした。









無為のてのひら




カノミロの犯した矛盾はふたつある。ひとつは、ミロがカノンに与えたものを考えたら、カノンはミロを意地でもカミュのもとに在らせるべきだという矛盾。もうひとつは、ミロがカノンに与えたものを考えたら、ミロはカノンに安易に応えてはならないという矛盾。

しかしうちはラダマンティスもカノンも誰かとの関係性についてぐだぐだ悩みすぎだと思うのだが…そこには大きな隔たりがあるといえども。