「あだっ!」
「いっ…!?」


くだらないことで始まった小さな取っ組み合いのあと、喉が渇いたとカノンは立ち上がるが、何かの力で後ろに引っ張られた。頭に走る微妙な痛みに思わず声が出る。同時にまだ座り込んでいたミロも大袈裟に声をあげた。
「どうした?」
離れたところで先に水を摂取していたアイオリアが訝しげに尋ねる。彼の位置からでは何があったかがよく見えない。
「か、…髪の毛、髪の毛絡まった!」
ミロが叫ぶ。近付いてよく見ると、ミロの右肩あたりにかかる髪の先端が見事にカノンの髪に絡まっていた。
「と、取れんぞっ!どうなっているんだこれは!」
「あだだだだっ!おいこら無理矢理引っ張るなやめろ!アイオリア鋏!鋏持ってこい!」
またしても取っ組み合いが始まりそうな予感がしたので、アイオリアは冷静に鋏をカノンに手渡した。手早く受け取ったカノンはそれを左手に持ち、盛大に絡まった髪の先をちまちまと切り落とす。




程なくして、二人の髪は完全に分離した。




「しかし凄い絡まりようだったな」
アイオリアが鋏を片付けながら言う。
「びびった……」
「お前はテンパりすぎだ」
「俺ぐらい短ければそんな事態も起こらんだろうに」
確かに。アイオリアの髪の長さでは絡まりようがない。反してミロもカノンも相当な長さに加え、かなり毛先が傷んでいる。櫛通りの悪さは言うまでもなく、ミロはよく髪に櫛がぶら下がるという。


「そうだな、そろそろ切るか」
溜め息と同時に、カノンの面倒くさそうな声が洩れる。
「え、切るのか?」
それを聞いて、ひどく驚いたようにミロがカノンの顔を見る。
「お前も切るか?」
「嫌だ」
間髪入れずに返した。
「カミュが、俺のこの長い髪が好きだというからな、意地でも切らんぞ」
そう言ってもう何年も切ってないんじゃないか?と心中でカノンは突っ込んだ。勿論自分のことは棚上げする。
「…まぁ好きにしろよ。俺は切る」
「今からか?」
「思ったときにやっておかんと、後でやる気が起きんからな」
なるほど、とアイオリアは納得して、片付けた鋏をもう一度出してきた。が、
「ああ、鋏は別にいい」
と言ってカノンは徐に立ち上がり、物置へ向かおうとした。
「待て、どこへ行く気だ」
訝しんだミロが引き止める。歩きながら、カノンは首元あたりの自身の髪を引っ付かんでいた。
「ナイフ取ってくる」
「ナイフ?」
「鋏なんかでちまちま切ってられるか。ここから切り落とす」
一理有りだ。何と言ってもカノンの髪は相当な量がある。床にビニールシートか何かを敷いておかなければ悲惨な事態になりそうだった。それを一房でばっさりやってしまえば被害も少なくて済むだろう。じゃあどうぞ、と言わんばかりに二人は黙ったが、一方で、なんかそれ有名なゲームのワンシーンみたいだなぁ、と思ったのは内緒である。









断髪式の五分前



ばっさりやればいいと思いました。カノンが髪切ったらルーク(TOA)みたいになるのかな。後ろのとこ。
サガは切っちゃうと何かもったいない気分になるけど、カノンは切っても全然おかしくないのが不思議なところです。
あ、でもラダマンティスが凄い落ち込みそうですね。うちのラダマンは特に。