規則正しく上下する肩。静かに息をする音が耳を擽る。背中には決して小さいとはいえない二十歳の男、しかも聖闘士。



両腕に大量の袋をぶらさげて、すっかり更けた夜道を歩く。しばらく聖域を空けていて、久しぶりだからまぁちょっとぐらい付き合ってやるかと安請け合いをしたのがいけなかった。いや、「今日一日買い物に付き合え」と言われた時点で察するべきだったのだ。こいつが、今カノンの背中で何とも気持ちが良さそうに眠っているこのミロが、外出を買い物ごときで済ます筈がないのに。

大量に買い占めた生活用品に加えてどうでもいい諸品。さらに親友のシベリアからの贈り物に何か返したいとか言い出す始末。お陰様で両手は塞がり、肩にも幾つか袋が引っかかる。

夕方まで歩き回り、帰りによく行くらしいバーに連れ込まれ、挙げ句の果てに酒が入って寝落ち。どうしてやろうかこの最大の荷物。見かねた店主が近くのホテルを教えてくれたが、寝込みを襲うような趣味を生憎と持ち合わせていなかったカノンは大量の袋を両腕に、荷物を背中に背負いあげた。








諦めるのはカノンの十八番。聖域までの道のりは決して近くはなかったが、それでも連れて帰ろう、そう考えた。
しかし男、大人、しかも聖闘士。買い物袋も相まって流石に結構重たい。


「……重いな」
文句でも悪態でもなく、ぽつりと呟いただけ。


そういえば自分は、こんな風に誰かを背負って歩いたことがなかった。特に眠っている奴というのは、全体重をかけてのし掛かってくるものだから尚更重たい。足はほぼ二倍近くの負荷がかかってなかなか速くは進めないし、上半身を前倒しにしなければ落ちてしまうので姿勢が悪くなる。
「……重かったかな」







幼い頃に一度だけ、サガに負ぶって貰ったことがあったことを思い出す。理由は忘れた。自分と体格の違わない弟を必死に背負って、サガは歩いた。滅茶苦茶歩いた。そして多分、歩き疲れた。








「……重たいな畜生」
けれども背中に心臓の音が響く。他人の温度が直に伝わる。自分が生きていることよりも確かにわかる、他人の命があることを。知ることができたなら足を引き摺っているのだってきっと楽しい。何故だか喉の奥が痛んできたので、そういうことにしておこう。









ここにはひとつの太陽



ぴーん、ときてばばーっ、の典型的な話。ものすごい速さで仕上げたのでまたも文章が荒い…
だが私はずっとこういうのが書きたかったのではなかろうかと、書いた後に思いました。きっと↑でぐるぐる手探りしてたことのひとつの答えかなぁと。

理不尽がきたら、次は重さ。これも私的なキーワードのひとつです。

題名はセメルパルスのあのフレーズ。あれが死ぬほど好きでたまらないです。どうでもいい話でした。