仕方ないとはいえ、教皇という立場は大変不便なものであった。まだ女神の降臨しない聖域において実質頂点に立ち、聖闘士達を管理、まとめあげなければならない。近隣の住人達の信頼を獲得することも、聖域の執り行うべき儀式、または聖域の解決すべき問題、事件を捌くのも重要な仕事だ。そして何よりも、毎日の星見で聖戦を予見することは、欠かしてはならない最も重要な事項であった。
教皇シオンがムウを弟子としたとき、ムウはまだ赤ん坊だった。その先日まで、星見をするたびに高まる聖戦の可能性に不安を覚えていたシオンは、ようやくひとつの希望を見出したのである。
弟子とした、といってもシオンはほとんどムウの面倒を見てやれなかった。当然のように、多忙だったからだ。世話は他の神官に任せ、修行は物心つくまでは他の黄金聖闘士達と共に行わせた。それでも空いた時間にはしっかり訪れ、技と同時に聖衣の扱いを叩き込んだ。
シオンはあまりムウに優しくしてやった覚えがない。相手をしてやる時間が短すぎたというのもある。教えなければならないことが多すぎた。まだ幼いムウに無理難題を押し付けて放置すること多々あった。
しかしムウがシオンに、その件について文句を言ったことは一度としてない。ムウは元来大人しい性格であった。自分からシオンに話し掛けることも稀であり、子供らしく笑うことも殆どなかった。シオンはそれを、自分の所為ではないかとたびたび考えた。
「ムウよ。何か欲しいものはないか」
ムウが六歳になろうとしていた年のことだったろうか。飲み込みが早く、誰の目から見ても優秀だったムウに、お前は立派だという意味を込めて褒美をやろうとそう尋ねた。
「何も」
しかし、おおよそ子供らしくない穏やかな調子で、きっぱりとそう答えられた。
「はやくシオンを手伝えるようになれたら、それで」
賢いことは良きことか、二百年以上生きてもわからないことはわからない。シオンは、黙ってムウの頭を撫でてやった。
かしこいこども
羊師弟が突然かきたくなりました。温度が低そうなイメージがあります。シオンには逆らえないとかそういうのがあるくらいですからね、威厳とか凄そうですね。
ムウ様は結構ひとりでぽんぽん解決してしまいそうな人だと思います。
「本当に悩んでることは口になんてしないんですよ。そして私はくだらないことで悩んだりしません」
そういう感じ。おとな!