ラダマンティスはこの上なく不機嫌だった。


「…何故貴様等と貴重な休憩時間を過ごさねばならんのだ」


地獄の底まで響きそうな低く重たい声を発してみても、目の前の同僚二人は変わらず薄ら笑いとにやけ顔である。腹が立つとかいうレベルではない。殺意が沸く。




「いいじゃないですか少しぐらい。偶には手を止めて同僚と語らう時間も悪くはないでしょう?」
「何をぬけぬけと。貴様等が全く仕事をせんからおれに全部回ってくるんだろうが」
「あ、ミーノス俺砂糖とミルク三杯な。あとアイスじゃないと飲まんから」
「注文が多いですねぇ」

ぶつくさ言い合いながらも、ミーノスは指定通りにコーヒーを机に並べる。ラダマンティスのものは勿論何も入れないブラックなのだが、目の前に置かれたカップを疑わしげに見た。
「失礼な、何も入れてませんよ」
向かいでアイアコスは何の躊躇いもなく飲み干している。
「ぷはっ。なんだよラダマンティスはご機嫌斜めか?折角仕事からちょーっと離れる時間つくってやったってのに」
「そもそも貴様等が真面目にやればおれも其処まで張り付けにならんで済む話だ。…何故『おれのためにしてやってる』ように云われねばならん。絶対付き合わんぞ」
出来るだけ苛立ちを収めて冷静にあしらおうとラダマンティスは努めた。言い放って席を立つと、アイアコスが菓子を噛み砕く不快な音に混じってミーノスの深い溜め息が聞こえてくる。



「ああ、やはり貴方はこの貴重な休憩時間を、あの愛しい双子座の男に捧げようというのですね…」
「…は?」


ラダマンティスは扉の前で固まった。


「いやはや、恋とは罪深いものです」
「おい、ちょっと待て」
「うぇーへもほほほほーひはろ?…っんぐ、ラダマンティスまじ頭おかしいんじゃねーの?」
聞き捨てならないミーノスの言葉にアイアコスが菓子を口に入れながら応じる。ラダマンティスは二人の顔を交互に見た。
「…何が恋だ、おれはカノン相手にそんなものをした覚えはない」
「じゃあ何ですか、彼が足繁く貴方の元に通うのは愛のためではないというのですか」
「寒気がするようなことをいうな」
「ひゅーひゅー、ラダマンティスひゅーひゅー」





頭のどこかの糸が一本、ぶっつりいった。

「…アイアコス、今日は本気で潰すぞ…」
「お、やるか?まぁ勝つのは俺だがな」
「言ってろ。一撃で決めてやる」
「はぁ、血の気が多くていけませんねぇ貴方たちは」




結局、休憩時間の終了までそこで言い争いを続けてしまった。休憩の筈なのに全く休んだ気にならないまま、ラダマンティスは大量の執務の前で、地獄の底から聞こえてきそうなほど忌々しげに舌打ちをした。









最悪なコーヒーブレイク



あまり書いたことのないのを書いてみよう第二弾。冥界三巨頭。
年中組といい、三人組はバランスがいいです。こいつらも三人入り乱れても誰が喋ってるかすぐわかりますね。