「…そういえばお前は左利きだったな」
リビングで筆記をしていたカノンを見て、サガは突然感慨深げにそんなことを言い出した。何を今更、とカノンは眉を顰める。幼い時分からずっとそうであったというのに。
「それがどうした」
「いや、しかしお前は左利きであるのに、訓練の時に使用するのはいつも右ではなかったか」
「そうだな」
「昔は左を使っていたのに。両利きだったのか」
「いや」
カノンは生まれてこれまで、右利きであった時代など皆無である。
「戦いに於いては、右も使えんかったら不便だろうが」
「それもそうだな。…私も、この左がもう少し役に立てば楽でいいのだが」
サガは紛うことなき右利きだった。スプーンを持つのもペンを持つのも、瓶の蓋を開けるのにも敵を殴るのにも右を使う。
「…別に、右で事足りるなら構わんのではないか」
カノンが左利きな理由は、何とも馬鹿馬鹿しいものだった。単純に右利きのサガと向かい合ってその真似をすると、鏡のように己が左利きとなるだけである。けれどそうやって身に付いた己の利き腕は、生活の殆どを其処に依存する重要なものとなっていた。
だからカノンにとって右腕は、犠牲の腕なのだ。思えば怪我をするのも骨を折るのも常に右だった。意識した覚えはないが、いつも左腕は綺麗な様相をしていた。それはある意味、憎悪を蓄積し続けたあの13年間、カノンが生に執着した何よりの証拠だった。
全てを懸けたあの聖戦が終わった今、カノンはもう二度と戦いに左腕を使うことはないだろう。
それはこの先、サガが左利きにはなれないことと同じくらい確かなことに思われた。
ひだりて
相変わらず題名が投げやりですみません。双子の利き腕について。てか、私が左利きだからそう思うだけなのですが。
だからうちのラダマンティスはいっつもカノンの左手ばっかり掴むんですよね。無意識に。