黒山羊さんが体調を崩してしまったよと聞いたので、優しい俺様は黒山羊さんにご飯を作ってあげることにしました。なんだかんだ云ってますが、俺と黒山羊さんはトモダチなのです。俺はこうみえても結構トモダチ思いの男なのです。

意地っ張り黒山羊さんは、どうやら今回も体調が悪いのにくだらない見栄を張って、いつも以上に動き回っていたんだそうな。お馬鹿さんとしかいいようがありません。でも俺様は優しいのでそんな黒山羊さんの気持ちを汲んでやるのです。つまりそこを非難するのは敢えて避けてあげましょうということです。







ベッドに沈んでいる黒山羊さん。俺様を見るなり滅茶苦茶睨んできました。なんと人相が悪いのでしょう。でも俺様はちょっと顔をしかめただけですまします。もしかしたら睨んでいるわけではないのかもしれない、と今までの経験から何となく察していたからです。
「飯つくったぞ」
台所を使っていい許可なんて、勿論貰っていませんが。
「喉は通りそうか?無理なら蓋して置いとくから好きなときに食えよ」

返事はありません。するのも億劫のようです。これは結構重症そうだなぁ、とぼんやり、でも多分ここまで参ってる原因は他にあるようです。そういうことも、俺様は悟って気を遣ってやるのです。

「アイオリアが大層心配してたぜ」
「……っ」
「いい加減受け入れたらどうだよ。サガじゃあるまいに。そんなにぐるぐる考えるような性質か?お前」



アイオリアっていうのは、体だけはでかいライオンさんのことです。黒山羊さんとはちょっと関係がぎくしゃくしています。ライオンさんのお兄さんであるお騒がせ半裸人馬も関わってくる面倒な話なのですが、俺はこのライオンさんが嫌いじゃありません。傍観者だからかもしれませんが、ライオンさんが真っ直ぐに黒山羊さんとのぎくしゃくした関係をなんとかしようとしているのを見ると、背中を押してやりたくなるのです。ライオンさんはちょっと頭が弱いですが、決して悪い奴ではありません。だからといって正義一辺倒でもありません。現実の厳しさをその身をもって知っています。だから俺はライオンさんが嫌いじゃないのです。

でも黒山羊さんは当事者なので、そう簡単には行きません。別にライオンさんが嫌いとかそういうんじゃなく、罪の意識が強すぎるのです。もう気にしなくていいんだよ、と言ってもそうそう綺麗に割り切れるものではありません。何故なら黒山羊さんはもう13年も、その罪の意識を抱えてやってきたからです。今更どんな顔をして放り出せばよいのでしょう。








でも、まぁ、それに関する答えを、この俺が持っているはずもありませんので。








「まぁ、ゆっくりしろよ。たまにはな」
俺は黒山羊さんにご飯を作ってやるだけです。こういうことは傍観者が口出しすぎない方がいいのかもしれません。傍観者が一番適当だと思うことが、当事者にとっていいことかどうかはまた別なのですから。トモダチ想いの俺様にできるのは、どす黒いオーラを隠せない不器用な黒山羊さんの、愚痴や本音を汲み取って笑ってやることです。それ自体には全く意味がなく、むしろ停滞の悪い例なのでしょうが、俺ぐらいはそうやってやったって構わないでしょう。そうでなくとも宮から一歩でれば、世界は俺達に大きく牙を剥いてくるのですから。立ち向かう前に怠惰な休息を取るのも悪くないでしょう。









蟹さんと黒山羊さん すりー



蟹が山羊の考察をする図が好きです。決してカップリングではない。言い張る。