ハッピーバースデー、私。今日からよろしく相棒。黄金の聖衣を目の前に、私は小声で呟いた。両目からは止めどなく水滴が流れている。別段どうにかしようとは思わなくて俯けば、ぱたりぽたりと床を打った。その事には嫌悪した。
「おい」
入り口の方から無粋な声がかかった。私は振り向きも返事もしない。
「何だシカトか?折角祝いに来てやったってのに」
「残念だが、私は嬉しくもなんともない」
「相変わらず可愛くねえ。……おめでとう、今日からお前も黄金聖闘士の仲間入りってわけだ」
「賛辞など、心にもないことを」
十二もある聖域の宮、最後の双魚宮。今日から此処は私のものだった。過酷な訓練を乗り越えた。私は汗をかくのは好きじゃないし、誰かと組み合って相手を傷付けるのも好きじゃない。争いなんて反吐がでるほど嫌いだ。
だけど。
「しかしやっぱりっつーか、お前が一番遅かったな」
「煩い。別に早く得たからと言って何だ。実力に差が出るわけではない」
魚座の聖衣を承りに、先程教皇宮を上った。仮面で顔を隠した教皇の前に跪いた。側仕えのものが形式ばった言葉を読み上げ、私に聖衣を授ける。私は頭を下げたまま、決まりきった文句を述べた。遂に私が御前を去るまで、教皇が口を聞くことはなかった。
私は、絶望した。
「今更お前達と同じ時分に聖衣を手に入れたかったなんか、言ったって仕方ないだろう。もう過ぎた。私の欲しかったものはもう二度と手には入らない。悔しくてたまらないが、それも今だけだ。私はもう、子供じゃあ、ないのだから」
ぱたり、ぽたり。床に水たまりができていく。泣き叫ぶような馬鹿な真似はもうできそうになかった。誰かに慰めて欲しかったが、あの人でなければ嫌だ、ましてや後ろで今舌打ちをしたこいつなんかは死んでも御免だと思った。
世界が不変であるはずがない。変わることは怖いことじゃない。だけど真理が自分にとって優しいことは決してないのだ。
「私はただ、サガにおめでとう、と言われたかっただけなのに」
遂に、聞くことはできなかった。
背後の気配が動く。振り返らなくても、元来た道を戻っていくのがわかった。私は乱暴に目元の水を拭い、床にできた小さな水たまりを忌々しく踏みつけて立ち上がった。今全部流れて枯れてしまえば良かったものを。思っていたより流れなかったそれは、この冷え切った心と同等だろうか。
ハッピーバースデー、私。もう何も期待するな。必要なのは、あの人の役に立つための力。甘くて幼い気持ちは此処へ全て置いていけ。今日うまれた新しい私への、古い私からのプレゼントはこの心だ。ありがたく受け取るがいい。
ネクストデイ
アフロディーテがナチュラルにサガが好きな図が好きです。
年中組は一番俺全開話がかけて楽しい