『アテナの護衛』と言う名の観光旅行の時期がやってきた。しかも今回はなかなかの大人数でいけるとのことで、珍しく誰が行くかで激しく揉めた。
聖域管理の為、サガはもともと行くことにはなっていない。またカミュは今回もシベリア行きで欠席だ。ムウもここしばらく貴鬼をつれてジャミールへと赴いており、カノンは海界出張中である。勿論老師は五老峰だ。
つまり残る黄金聖闘士は八人。うち、六人が今回の『任務』に参加するということだった。
「……なぜだ……なぜ負けたんだぁぁぁぁぁ!!!!」
そして今、旅行権利争奪戦に負けた二人が処女宮にて向かい合う。ミロとシャカである。同年代であるのに反りが合わないということで滅多に会話もしない二人だが、流石に他に誰もいないとなれば、シャカはともかく、ミロには耐えがたい事態であり、結局先刻から処女宮に居座って喚き続けている。
シャカはいつもと変わらず、目を閉じて坐禅を組んだままだ。
「じゃんけんなどと…じゃんけんなどとアイオロスがいうからぁぁぁ」
「君はさっきからそればかりだな。他に言うことはないのかね」
「うるさい!召集がかかったにも関わらず教皇宮に参上もせず不戦敗となったお前に、一人負けというあの屈辱はわかるまい!」
ただでさえカミュがシベリアに行っていて寂しい思いをしていたのに、その上このような仕打ちを受けるとは。ミロはぶっちゃけ屈辱のあまり死にそうだった。
シャカは、ふむ、と呟く。
「…前に、アンドロメダが置いていった遊戯場のチケットがあるが」
「遊戯場とはテーマパークのことをいっているのか?この俺にひとりでジェットコースターに乗れというのか?寂しいにも程があるだろう!」
「ならば、氷河がいうに今シベリア行きの飛行機が安いらしいぞ」
「断る!カミュはやるべきことがあってシベリアへ赴いているのだ。邪魔はしたくない」
「ふむ」
「…シャカよ」
ミロはシャカを睨み付けた。
「…まさかそれで俺を慰めようとしているのではあるまいな?はっきりいうぞ、カノンも相当慰めるのが下手だと思っていたが、お前はそれ以上だ。何なのだそれは」
その時初めて、目に見えて明らかにシャカの表情が変わった。相変わらず目は閉じたままだったが、少し驚いたように眉を顰めた。
「君は、私が慰めているように思ったのかね」
「…なんだ、違ったのか?」
ミロの意外そうな物言いに、シャカはゆっくり首を振る。
「いや、他人に慰め方を非難されたのはこれが初めてだったものだから、なるほど、と思っただけだ」
そう言ったシャカは何故か先ほどよりも僅かに嬉しそうであった。ミロはそれがどこから来たものかわからず、訝しげに首を傾げる。そして『やはりわけのわからん奴だ』と無理矢理結論付けて、再び話を観光旅行へと戻していった。
掬いあげるもの
慰めるのが下手くそなシャカ第二弾です。