※ふたつ気持ちセットです。兄弟。
思いがけず、アイオリアは兄アイオロスと二人で過ごす時間を得た。特別儲けようと思って手に入れたわけではないのだが、折角だから、ということでアイオリアは買い出しに付き合ってもらうことにした。アイオロスは快く引き受けた。
「今日は良い天気だなぁ」
爽やかな青い空に白い雲。こんな日のアイオロスは大抵機嫌が良い。突然聖域の周囲をパトロールも兼ねてランニングしたり、聖闘士候補生達の訓練所に顔を出して全力で手合わせをしたり、サガ相手にいつも以上にちょっかいをかけて異次元へ飛ばされたり。愉快な人だ。
アイオリアは兄の行動が理解できないときも多々あったが、別に理解しなくても兄は兄だろうと思っている。今も昔もアイオロスは、アイオリアの尊敬する自慢の兄だ。
気付けばアイオロスは歌を歌っていた。そこまで大きな声ではないが、相当機嫌が良いらしく、気持ちよさそうに歌っている。しかしアイオリアは盛大に顔をしかめた。
「兄さん、歌へただな」
思わず口から滑り落ちてしまう。アイオロスは歌うのをやめ、自身の頭を掻きながら、困ったように笑った。
「サガにもよく言われる。『音程が無茶苦茶だ!リズムがあってない!テンポを動かすな!何の曲だか既に原型を留めていないではないか!』ってね。やっぱり下手か」
「いいや、俺もへただからおあいこだ」
アイオロスは驚く顔をした。そのとき見開いた目の奥には、僅かに好奇心の輝きが潜んでいるのが窺える。
「リアも歌がへたなのか?」
「ああ、そのことでよくミロにからかわれる」
「ははは!そうか、リアも下手なのか!やっぱり兄弟だからかなぁー」
果たしてそうなのだろうか。同じ人の血が流れているから、歌が下手なのも同じなのだろうか。十三年も離ればなれだったのに、歌が下手なのは同じなのだろうか。
十二宮を下り、ロドリオ村に向かう。アイオリアが日用品を買い求める隣で、アイオロスはずっと下手くそな歌を歌い続けていた。それに合わせてアイオリアも同じぐらい下手くそな歌を歌った。同じ歌を歌う同じ下手くそでも、その不協和音が耳に心地良く聞こえることはなかった。
Sing a Song!!
verロスリア兄弟
下の双子とセットで。ただの思いつきです。歌下手そうだなと。下手だけど風呂とかで気持ちよさそうに歌うロス兄が想像されます。リアは下手な自覚があるからあんまり歌いません。
余談ですが、きっとミロは歌が上手。だって関さんだも(ry)。カミュはあんまり得意じゃなさそうだなぁ。年中組はうまいと思います。シュラとか自分から歌おうとはしないけどきっとうまいよ。ムウ様は歌わない。多分普通にうまい。アルデバランは発声が凄そう。双子はうまいけどあんまり曲知らなさそうです。
シャカは…うまいとかへたとかの次元超えてそうだ…
月に一度、聖闘士や候補生達の前で教皇が演説をする日がある。ギリシャの厳しい日差しの下、長時間立ちっぱなしで大して面白くもない教皇の話を聞くのは、正直とても辛い。いくら聖闘士と云えども生身の人間、鍛えているから熱中症だの日射病だのにそう簡単にやられたりはしないが、教皇の話を子守歌に眠ってしまうことは頻繁にある。
だからカノンはこの時期、仕事と銘打ち海界へと赴いて帰ってくる、とかいうセコいことをして何とか演説会を避けてきた。これは結構上手くやっていたのだが、やはり何時かはボロが出る。演説会の直前の日に海界から帰ってくる日程になってしまっていたらしい。サガにまで「たまには参加しろ」と言われ、カノンは渋々ながらこの演説会に出席する羽目になったのである。
しかしこの演説会。教皇の話も長いがそれ以外も尺が長すぎる。何やら大事な儀式らしいが、15年間軟禁生活アンド13年間海界育ちのカノンには全くわからない。
途中から上の空になってぼうっとしていて、唐突に全員で歌を歌い出したときはかなり慌てた。しかし隣のサガが歌うそれをよくよく聞いて、カノンは眉を顰めた。それはカノンも知っているものであった。聖域で隠れて暮らしていた頃、どこからともなく聞こえてきた謎の歌だ。何度も聞いているうちに覚えてしまっていた。あれはこの儀式の歌だったのか。
演説会が終わり、双児宮に戻ったカノンは直ぐに楽な服装に着替え、二人分のコーヒーを淹れる。
「サガ」
「何だカノン」
リビングで書類を眺めるサガにそれを運びながら、カノンは口を開いた。
「あの歌なんだが、」
「歌?…ああ、そういえばお前は知らないのだったか」
「いや、知っている。そうではなくてだな…」
サガは首を傾げた。カノンが言い淀むこと自体はそんなに珍しくもないのだが、今のように照れくさそうな、というか妙な気恥ずかしさを持って微妙な表情をするのは珍しい。
「どうしたのだ」
「…いや、やはり双子というのは同じなのだなと思ってな…」
「は?」
何を今更、当たり前だろう。同じ遺伝子を持って生まれてきたのだから。それと歌と何の関係があるのやら、サガにはまるで見当がつかなかったのだが。
「途中、音があがるときに少し上擦りがちになる癖まで同じとは思わんかったのだ」
続くカノンの言葉で納得し、サガは少し笑った。そうか、私は音が上擦る傾向にあるのか、いいことを聞いた。そんな自分と同じ癖を持つ弟がそんなことを言い出したことがおかしくて笑った。
「…まぁ、双子だからな」
一方カノンは複雑そうな顔をしている。13年も離れて過ごしたのに。13年も聖域の歌を聞いていなかったのに。その歌を歌うサガを見たのは今日が初めてだったというのに。同じ遺伝子とは恐ろしい。悔しいような、嬉しいような小さな発見が胸の奥に渦巻いていた。
Sing a Song!!
verジェミニ
上のロスリア兄弟とセットで。ロスリア兄弟のを思いついてからこっちもぽん、と浮かんできました。
聖域なんだからきっと色んな式典とかあるよね、と思いつつただの月例朝礼です(笑)。ミロとか寝てんじゃないか普通に。でっちゃんとかこっそり耳栓つけてるんじゃないか。