「真面目という評価は、些かどうかと私は思うのですよ」
部屋に入ってくるなり、ミーノスはそう言って当然のようにソファーへ腰かけた。机に向かっていたラダマンティスの顔がゆっくりとあがる。その表情は大変険しい。
「何をしにきた」
「忠義に厚いというのも甚だ疑問です。いえいえ、決して間違っていると言っているわけではありません」
「邪魔をしにきたのか」
「ただあなたへの評価はそんなものではないだろうと。真面目で忠義に厚いというのは、いわばあなたと云うものに付随してきた一表面に過ぎず、本質とはまた別物だと思うのです」
「話をきけ」
ラダマンティスの非難を意にもせず、ミーノスは喋り続けている。しかもどうやら話題はラダマンティスのことらしい。ミーノスのことだ、どうせ碌な事じゃないだろうが。その内容の半分も、ラダマンティスは聞いていなかった。
「そこで私が考えるに、あなたは要するに執念深い人なのでしょう」
もうミーノスのことなど気にせず執務に戻ろう、と再び筆記具を手にとったラダマンティスの背に、叩きつけるようにミーノスは言葉を発していく。
「たったひとりの主に仕え続けること。自分に託された任を完璧に全うすること。一度決めたことを曲げずに貫き通すこと。或いは、自身にもたらされた立場や地位を誇りとし、それに拘り傷付けられのを厭うこと。
それらの全てが、あなたという人間の持つ強い執念より生まれた結果なのでしょう」
つらつら、とうとうと。冷静に自己分析を語られるとこんなにも不快になるものなのか、とラダマンティスははじめて知った。
内容は、実のところどうでもいい。自分を語られる、というその部分に強い嫌悪感があるのだ。
「…だからなんだというのだ」
「いえ」
ミーノスの口が笑みを作った。
「だからあなたはいつか、自分の執念の前に倒れるのかとね、思っただけです」
「馬鹿な」
吐き捨てるように口にした。
「おれはそんな愚かな真似はせん」
ミーノスが声をあげて笑いはじめた。素早く睨み付けると、ああ失敬、と大して悪く思ってもいなさそうに言われた。
それきりミーノスは口を開かず、しばらくしてから黙って部屋を出て行った。
あとに残ったのは、彼が否定も肯定もしなかった言葉の、小さな疑念。
冷たい考察
ミ様がかきたくなったので、ラダマンティス考察をしてもらいました。