左手と右手を広げた範囲。それ以上は掴めない筈だと信じたから、そこから急いで逃げ出した。高い塀を飛び越えて、あの目すら届かないところまで走り抜けたかった。



動かすな!その命令を発したのは何時だった?気付いたときではいつも遅い。だからもう、思い込んで逃げ出すしかないのだ。俺は弱い。弱いから狡くて、馬鹿みたい。
五感までを全て断て!六感なんて忘れろ!七感だけを大事に抱えて、八感の中へ飛び込め!








サガは俺のことなんかどうでもいいんだろう、そう思い込んで左手と右手から逃れよう。










でも嫌われたかったわけでは、ないらしいのだ。それだけは言えてしまえるらしいのだ。こめかみに電鋸でも入れて俺の頭を見てみたい。パカッと開いた其処から黒いものがはみ出したら、それだけ引きずり出して燃やしてしまえ。


動かしてはならない。これは命令だ。上から見た世界と下から見た世界は、此処から見る世界と全く違うんだってことを忘れちゃいけない。俺はサガの一番ではないと、思い込んでまた逃げよう。








一番になれないのは、サガにだけじゃないが、あらゆる全ての事項において、狡い俺が一番になれる場所は、多分ないが。なくて結構、思い込みで尊大になれ。つまり俺を一番愛してるのは俺と思い込め!




















そうしているうちに、全部本当になるから、さ。




















大丈夫、救いはある。俺がサガの一番でなくとも、俺にとっての一番はサガで有り得ること。逃げ出した先の場所で、俺はサガを信じていられるし、兄として、たったひとりの肉親として愛していられる。そうすれば動かない。命令は一生守られる。
嫌われたいわけではないのだ。何者からも。ただどうしようもないなら逃げるしかないと、そういうこと。左手と右手を広げた範囲、人間はそれ以上を掴めない筈だ。思い込んだら、笑って逃げよう。














「カノン!」

五感を断て!その声を聞くな!あの目を見るな!手のひらの感触を忘れろ!甘い舌の味を唾で飲み込め!優しい残り香を振り払え!動かすな!
捕まえられたら、もうどうしようもない。




(でも嫌われたいわけじゃないんだ。全部嘘だけど、それだけは信じて欲しい。)

いつか逃げ遅れたら、思い込みに助けて貰えるように。









1/2逃走中



双子カテゴリーでずっと書いてきたので、こう、ちゃんとサガカノっていう形で書いてみたらどうなるのかなーと思いまして。サガカノというか、カノン→サガですね。

サガカノは好きですが、サガからカノンの方向に兄弟以上のものを組み込むと、他のカップリングと並行させられないので私にはちょっと無理かもしれないなぁ…とちょっと思いました。弟だからカノンを大事にしたいサガでないと駄目というか。逆に、カノンからサガへはどんな感情が流れててもおかしくはなさそうだ。
でも結局カノンのお兄ちゃんなサガが好きなカノンだと、死ぬほど可愛いと思います。