「こらシャカ、何をふらふら歩いているのだ任務なのだぞ!」
前方からアイオリアが叫ぶ。前後左右から他人の視線。改めて目を開いて確認するまでもなく、此処は人里の中心。
「君は些か落ち着きがないようだ。少しは自らの体裁を気にしたまえ。見ろ、馬鹿みたいな大きい声を出すから皆の注目を浴びてしまったではないか。これはもう拝んでもらうしかあるまい」
「何を訳のわからんことを言っている。お前がさっさと歩かんのが悪い」
久しぶりの任務だった。シャカは、別に女神や教皇にそう希った訳ではないが、他の黄金聖闘士と比べて圧倒的に任務の量が少ない。それは、密やかに、幼い時分より彼の面倒を見てきた教皇補佐達が敢えて外しているのだが、当の本人はそのことに気付いているのかいないのか、これ幸いと自宮に隠って瞑想ばかりしている。
だがシャカとて外界に興味が全く無いわけではない。また比較となるが基準(ここでは仮に、青銅聖闘士である星矢たち、などとしておこう)と比べるとかなり他者や物事に無関心な方ではある。だが彼なりに『興味を惹かれるもの』または『興味を持てる時期』は存在するようで、しかも一度気になりだしたらなかなかしつこい。
「私はあまり処女宮から外出をしないのでな。生活水準が並の人々の暮らしぶりなんぞは珍しくて仕方ない」
「ならばせめて任務が終わってからにせんか!」
「この私と君とに頼むということは大した任務でないのであろう?もし小宇宙を必要とするような大事であれば、私に付き添わせる人物はカミュか、もしくはムウか、あるいは一人で向かうようにサガならばするはずだ。ならば君と組まされた理由はひとつ、これは、アテナが気分転換の為に与えてくださった任務に違いないということだ」
どうやら、『自分にご機嫌取りのような任務は無理だ』という自覚はあるらしい。
「だがどんな任務であっても手を抜かず、常に全力で挑むことが重要だと兄さんもよく言っていた。その態度、姿勢こそを人が、アテナが見るのだと。信頼とはひとつの大きな事象ではなく、幾つもの小さな事象から成り立つのだ」
そんなシャカに一足たりとも引けを取らず、アイオリアは何とも誇らしげにそう言い張った。ふむ、とシャカは少し納得した素振りを見せる。
ようやく真っ直ぐ歩きだしたシャカに満足そうな表情を浮かべたアイオリアは、踵を返して前を歩き始めた。









終わった頃にはもう夕方、何とか無事にことを終わらせた2人は聖域への帰路に着く。
再び通る人里の中。既に店は閉まっており、表を歩く人も疎らだ。見るべきものも大して無かろう、しかしシャカは行きと同じように、ふらふらと、あちらこちらに首を回しながら歩いた。
またも間のあいた前方と後方に、またも前方側が痺れを切らす。
「ええい、シャカ!確かに帰りにしろと言ったがもう日も暮れる!いつまでそうやってふらふらしているつもりだ、真っ直ぐ歩けんのか!」
怒号を物ともせず、シャカは楽しそうに答えた。



「アイオリア、人間とは元来真っ直ぐ歩けない生き物なのだよ。短い人生を送る過程で、清く正しくありたいと心から願っても、環境や運命がそれを許さぬときは多々ある。かたや始めから善や正義を知らずに育つものもあり、或いは敢えてそこから目を逸らすものもあり。常に擡げる煩悩に惑わされ、身に迫る恐怖に全てを捨て去り、またはそうして起きた罪から逃げるため殻に閉じこもる。この世に生を受けた瞬間からそれを全うするまでの間、ただの一度も道を外さず真っ直ぐに歩ききったなどという完全無欠の人間など居るだろうか。いや、そもそも“道”とは何だ?自らの定めた正義を守ればそれは達成されるのか?信じているものが間違いである可能性は?」



畳み掛けるように舌を回したそれは、明らかにシャカの挑発であった。成る程、ムウやカミュならばそう理解したかもしれない。だがアイオリアは真剣な面持ちでそれを聞い届けた。楽しそうなシャカの表情も、距離の所為もあってあまり見えていないようだ。
「…シャカよ。お前の言い分はよくわかった」
「ほう」
わかったのか、と心の中で突っ込みを入れる。
「確かに人は真っ直ぐ歩けんかもしれん。何が真っ直ぐの道だか区別はつかんかもしれん。だがそれと真っ直ぐに歩こうという努力もせんのとは、また違う話だ!俺は俺なりに真っ直ぐ歩くぞ。最後に行き着く場所さえあれば、それはもう正義なのだ!」







日が西の地平線に沈む。シャカは薄く目を開いて吹き出した。何だ、何がおかしいと首を傾げるアイオリアがその顔を覗き込む。
そう世界中が、そんな風になるのなら。恐ろしいことを考えた。世界は秩序どころか混沌の底に沈むだろう。だがそれはまた面白い、どうせ人間のすることだ。

「私は今、君に非常に興味があるよアイオリア」
「??そうか、それは光栄だな」
多分明日には無くなっている。何故かそう確信している。









真っ直ぐ歩け!!



なんか、ふっと思いついたとかいう
この組み合わせも結構好きです
ただ、カップリングとしては大して興味がなかったりする
友達というには微妙な気もしますが
知人?