海の見える坂道、下り坂。普通は自転車で一気に駆け下りている、とかそういうシチュエーション。しかしミロは自転車なんて生まれてこの方乗ったことがない。カミュだって勿論ない。
だから、並んで歩いて下りていく。
「あれ、気持ちいいだろうなぁ」
脇を軽やかにすり抜けていく自転車にミロは興味津々だった。今や複雑化した沢山の機械製品が氾濫する世の中。もともとかなり機械音痴なカミュにとって、あの車輪やブレーキの関わり方がよくわからない電子記号によるものではないというだけで、自転車は親近感の湧く乗り物である。乗ったことはなくとも。
「確かに、風が気持ちよさそうだ」
「だろう?」
爽やかな台詞だったが、カミュはすり抜けていった人の髪の毛を眺めながらそう言っていた。
「カミュ、カミュ」
不意にミロが思い付き顔になる。どうしたと振り向くと、ミロは海側に設置された道のガードレールの上によじ登り、綱渡りをするように両腕を広げて歩き始めた。
「おお!やはり思った通りだ、下よりも風が気持ちいい気がするぞカミュ!」
カミュは困った顔をした。
「駄目だミロ、それは危ない。そっち側に落ちたら海に真っ逆様だぞ」
心配で心配で実は腕を掴んで引きずり下ろしたかったのだが、下手に触れて本当に海に落ちてしまってはいけない、とカミュは必死に説得する。
しかしミロは、カミュの好きな満面の笑みを浮かべて、
「心配するな。俺はカミュの方へしか決して落ちないから」
と、また元気良く歩き始めるのだった。
説得するのを諦めたカミュはただ少し微笑んで、ならば何時でも抱き締めてやれるようにしておかなければ、と、ミロと同じように両腕を広げて歩くことにした。広げた場所から風が拾える気がするほど心地よかった。
爽やかな全て
自転車に乗る姿が想像できませんでした。ていうか乗ったことないよね、コマ付きしか乗れないよね。
これぐらいぬるいカミュミロなら幾らでも書ける気がしました。