虚ろな視界に近付く小さなグラス。この辺りから嫌な予感はしていたが、実際に来た衝撃は覚悟していたよりも凄まじかった。

「っ!?おぇっ、げほッ!」
「すまん、大丈夫か」
「だ、ぁっいじょ、ぶ、なわけあるかっ、あぁ!」

思わず上半身を勢い良く起こし、カノンは大いに噎せた。水が気管を直撃したようだ。息継ぎもうまくできず、鼻にまで痛みが響くのでかなりしんどい。げほげほと苦しそうな咳を繰り返すカノンの背中を、まだほんの少し水の入ったグラスを机に置いたラダマンティスがさする。
「…き、さま…下手くそにも程があるだろう…!」
「言われた通り、ゆっくり注いだ筈なんだが」
「ふん、ならばお前は相当な不器用なんだな!」
眠くてだるくて起き上がるのも面倒だったので、『喉が渇いた。水くれ』と頼んだらこの様だ。面倒くさがらずに初めから体を起こせば良かった。口の端から飲み切れなかった分が零れてきたのでそれを乱暴に拭い取り、カノンはラダマンティスの前に左手をずい、と差し出す。
手のひらを天井に向けて出されたそれを、ラダマンティスは何の疑問も持たずに右手で握り締めた。
「違う!手拭きだ手拭き!」
ああ、と納得して左手を机の上へと伸ばし、丸められた白いタオルを掴む。そしてそのまま寝台のカノンへと投げた。カノンはそれを右手で容易く受け止める。
「お前病人の世話とかしたことないだろう」
「確かにそうだが、別に今のお前も病人ではないぞ」
「当たり前だ病人であってたまるか」
タオルを広げてもう一度口元を拭う。ついでに左手をラダマンティスの右手から引き抜こうと手前に引いてみるが、逆に凄い力で握り返された。
「あだだだだ」
思わず声をあげて抗議する。
「大丈夫か」
「それを言うなら放せ」
そう言うと案外素直に左手を解放されたので、ちょっとカノンは拍子抜けしてしまった。いつもはもっとしつこい筈なのだが、何か心変わりでもあったのだろうか。離れた手を無意識に目で追っていると、その視界をラダマンティスの掌が覆ってきた。当然、真っ暗になる。

「おい何だ」
突然の暗闇にカノンはあからさまな嫌悪感を示し、その手を退けようと手を翳す。が、それよりもはやくカノンの唇に何かが重なり、口内に大量の水が注ぎ込まれた。

「〜っ!?お…ぇえぇっ!」
驚き焦ったカノンはその水をうまく飲み込むことは疎か喉に通すことすらできず、逆に吐き出す形で口から零した。唇に重なった何かは吐き出す前に離れており、吐いた水はそのまま布団の上にぶちまけられる。



「大丈夫か」
「……」
視界は未だ、ラダマンティスの掌で閉じられたままだ。
「…貴様、なにがしたいんだ本当に」
「嫌なら、自分で起き上がってくるといい」



不遜な物言いにとうとう頭にきた。上等だこの餓鬼!などと心中で滅茶苦茶に罵倒しながら、閉ざされた視界の中でラダマンティスの顔に当たりをつけて思い切り殴り飛ばした。上手くヒットしたらしいそれのお陰でようやく暗闇から解放される。ラダマンティスは寝台の脇で頬をさすっていた。ざまぁみろ。
「調子に乗るなよラダマンティス。この俺の上に立とうなど百万年早い」
出来るだけ尊大に、且つ低く脅しをかけた声で言い放つ。ラダマンティスはカノンの目を覗き込むように顔を上げた。反射的にそこから目線を逸らす。
「初めからおれは、調子に乗ったことなど一度もないがな」
淡々とした返事が返る。そして次の言葉を待つことなく、ラダマンティスは寝台の上に投げ出されていたカノンの左手をもう一度握り締めた。









無題



…??なんだこれは…わけわからん…(汗)。何も考えずに書き出してこの様…反省。
とにかくラダカノが書きたくて仕方なかったようです。それにしても血迷いすぎだ。