※全然えろくないですが、そういう話です。苦手な方は注意してください。
ラダカノ
カノンは基本、下になるのが嫌いな性質である。
何が嫌かって触られるのが嫌なのだ。いわゆる前振り。完全に性行為へと移り変わるまでの愛撫の時間が嫌で嫌でたまらない。勿論自分が上をやるときは、雰囲気を汲んで相手に愛撫ぐらいするが、『やる』のと『やられる』のは大きな違いだ。自分が上なら主導権は自分だし、やるんだったらさっさとやって出して終わり!カノンはもとよりそういう感覚の持ち主である。
聖闘士として鍛えた体は、こういうときに大変な自信になるなぁと思う。例え下になるような羽目になってもひっくり返せばいいのだ。性行為中も何処かカノンの頭は冷えていたし、耐えられなくなったら溺れる前に体勢を入れ替えるのは容易いことだった。
だからこの状況は受け入れがたい。ていうか嫌だ。何というか、嫌だ。ラダマンティスは嫌だ。あ、別にラダマンティス自体が嫌なわけじゃない。ラダマンティスとやるのが嫌なのだ。
何を勘違いしているのかラダマンティスは、その気になると当然のようにカノンの上にのし掛かり、当然のように上で行為を始めるのである。下になるのが嫌なカノン当然は滅茶苦茶抵抗するのだが、相手の力が思いの外強く、これがただの力比べになってしまう。しかも圧倒的にカノンの体勢の方が不利だ。そうしてそのまま下になってしまうという状況が多々あった。
カノンとしてはこうなる前に何とかラダマンティスより優位に立ちたいのだが、いつ、どんなときに、もしくは何にラダマンティスがその気になるのかがさっぱりわからなかったために、先手の打ちようがなかった。
そうだ。もしもカノンが百歩譲って下を認めたとしよう。しかしラダマンティスとは嫌だ。理由はもうわかるだろう、愛撫がしつこいのだ、この男。
「何でそんなに嫌なんだ」
あまりにも嫌がるもんなので、ラダマンティスは度々そう尋ねてきた。
「だ、ってお前、前振り長いんだよ」
「だがお前だって上になるときはやるだろう」
「自分がやるのと相手にやられるのとは全然違う」
「我が儘をいうな」
何が悲しくて五歳も年下の男にそんな諭されにゃならんのだ!とカノンはいつも思うわけなのだが。
屈強な男の体を触って何が楽しいんだかカノンにはさっぱりわからないが、ラダマンティスは平時からカノンに触れるのを好む傾向にある。下手をするとずっと暑苦しく手を握られたまま過ごす日も少なくない。今更恥ずかしいだの言い出すには勝手にさせすぎため、それに関しては文句のつけようがなくなってしまったが、情事は別だ。胸とか首とか腹とか足とかどうでもいいからさっさとしてくれ。…と、何度か本音をぶちまけるも、どうやら言えば言うほど時間が延びる仕組みになっているらしいことに最近気付いた。
もうこうなったら無心だ、無心になろう。固く目を瞑って両腕で顔を隠し、なるだけ違うことに頭を働かせる。別に醜態を晒すこと自体は大して気にしていない。詰まるところ、単に触られるというその感覚が気持ち悪くて嫌なだけ。なので、今触られているという意識を頭から追い出せば、少しは耐えられるだろうと思ったのである。
が。
「カノン」
「………」
「カノン」
「………」
「顔を隠すな、目を開けろ」
「……だぁぁぁぁっ!!」
しかしラダマンティスは、わざわざ行為を中断し声をかけ、顔の前に置いた腕を外し、目を開けさせて無心になるのを全力で阻止してくる。普段は驚くほどカノンの言うことやること全てを尊重し、悉く後手に回る癖にこんなときばかり全く譲ろうとしない。
しかも普段の無駄なまでの紳士っぷりはどうしたのやら、いざやるとなったらこの翼竜はとんでもなく獰猛だった。
行為自体が激しいか否かはこの際棚にあげたとしよう。ラダマンティスは最中によく噛んでくる。いや、噛まれること自体はミロによくやられるので大した問題じゃあない。問題なのは加減だ。ミロと初めて喧嘩をして腕に噛みつかれたときも相当ショックだったのに、今はあれが何だかとても可愛らしいものに思えてきた。ラダマンティスは肌を喰い破る。想像せずともわかるだろう。これが正気でいられない程に痛いのだ。カノンもそんなに丁寧にやる方ではない。だが相手を痛めつける趣味はない。前振りが長いだけでも拷問なのに、その後もそれ以上に覚悟が必要なのだ。たまったもんじゃない。
あまりにもしつこく催促してくるので仕方無く腕を外し、薄く目を開けるのだが、肌を這う手の気持ち悪さに身が竦む。視界の端に映るラダマンティスの姿に激しい屈辱すら感じてやはり目を閉じてしまった。
それでもこうして受け入れてやってるのは何故なのか。考えたくもなくて別のことに思考を飛ばそうとすると、ラダマンティスが肩に噛み付いた。唐突の痛みに目を見開く。既に傷が幾つも走るそこを思い出して、何度となく繰り返せば慣れてくるものなのだろうか…とぼんやり考えてしまったカノンは自己嫌悪で死にたくなった。
見上げる憂鬱
吉くしなければそういう話も書けるんじゃなかろうか…と思い…色気とか皆無です。もとよりあんまり求めてないみたいです、私が。
どれだけ理解に努めて普段は丁寧に扱っても、結局ラダがカノンに持っている感情が執着心なら容赦はないよな、と思ったのと、カノンは基本は攻め気質だよなってことがかきたかったらしいです。多分。
もしカノミロだったら上下ひっくり返すカノンになるんだろうなぁ…ミロごめんよ