「腹が減ってきたなあ」
アイオリアがそう宣言すると同時に隣のミロの腹が爆音を鳴らした。しかし床に散乱したDVDやCDディスク、本に雑誌といったそれらを、ひとつひとつ確認する作業の手は止まらない。
「はやおがいいか?」
「おお、ならばあれだ、真っ黒クロスケ」
続けてアイオリアの腹も鳴る。こちらも相当な爆音だ。宣言した通り、随分腹が減っているらしい。
「俺はもののけがいい」
「あれは…何かいろいろ飛ぶではないか、俺は苦手だ…」
見慣れたDVDパッケージは、その様子をソファーに寝転がって眺めているカノンが自宮から持ってきたものだ。サガの私物なのだが、忙しい彼にはゆっくり鑑賞している暇がないということで、前々から何か暇つぶしになるものが欲しいと言っていたミロを思い出し、カノンがごっそり天蠍宮まで運んできた。
「カノンは腹が減っていないのか?」
そうこうしているうちにとうとう矛先がこっちに向いてしまった。ミロもきらきらした目を見せつけるように顔をあげる。何だそりゃ。何を期待してんだ。いやもう半分くらいわかったけど。
カノンはソファーからいかにも面倒くさげに身を起こした。
「…何がいい」
「おお!作ってくれるのかカノン!」
「いや下りて買って、」
「俺はギロピタがいい!」
「はぁぁあ?」
「まてミロ、パンがなかった筈だぞ、確か」
「その前に肉もなかったぞお前の冷蔵庫の中…だから買って、」
「代わりにチーズは沢山あっただろう」
「ああ、あれどうしたんだ?」
「カミュが置いていったのだ。どうせ冷蔵庫はスカスカだからな、預かってやろうと」
「……」
玄関へ向かおうとしていた足を方向転換。整理も掃除もロクにされてない台所に足を踏み入れる。本人が宣言していた通り、冷蔵庫にはチーズが大量に入っていた。あと申し訳程度に野菜。これも間違いなくカミュが親切心で置いていったものだろう。…野菜は日持ちしないのだが。
「ギロピタは我慢しろ。この貧相な冷蔵庫の中身じゃイエミスタとサガナキぐらいしか作れん」
「俺はそれでも構わん」
食えりゃいいらしいアイオリア。
「じゃあ仕方がないな」
もとはこいつの所為なのだが、何故か諦め体のミロ。
とにかく腹が空いているらしい。DVDを漁っている二人の腹の虫が再び蠢いた。
リビングルームから聞こえるよくわからない談義をBGMに、カノンは黙々と料理を続ける。勝手のわからぬ人の台所。鍋を見つけるのにまず一苦労があったのだが、見つけた鍋の汚さに更に深い溜め息が出た。オーブンの電源は抜かれているし、洗剤は残り少ないまま放置だし。慣れた行程を着々とこなしつつ、この他人様の台所を掃除したことは言うまでもない。
二人にやたらと促されたが、特にカノンは料理が得意なわけではなく、レベルで云うと『生活に支障がない』程度である。聖域内では、シュラやアフロディーテがこの部類に入る。ちなみにミロはほぼできないに等しく、アイオリアはできるが味の保障はない。どんな生活を送ってきたんだと言いたくなるほどアイオリアは味に疎く、食べれるものなら何でも食べてしまう。ミロは自分で作れないくせに味には結構煩い。
手を止めることはないが、何でまた俺が飢えたあいつらのためにわざわざ飯を作ってやってるのだ、と自らに突っ込まざるを得ない。ふと此処には調味料もなかったりするのかと思ったが、それは流石に大丈夫だった。すっかり出来上がる彼らのための料理に、あれ、これしたらまた頼まれるようになるんじゃ、と気付くがもう今更遅すぎる。またまた深い溜め息、まぁいいか、諦めるのは最早カノンの中で一番楽な手段となっていた。
自分は損な役回りかもしれないが、少なくとも二人、喜ぶ奴らは此処にいる。なんならそれだけで充分な話だろう。
なかなかに仕上がった料理を前に、カノンの腹もとうとう音を立てた。
天蠍宮にて、三人
この三人好きなのにあんまりかいてないなと思い。
この為だけにギリシャ料理をウィキさんで引いたのですが…間違ってたらごめんなさい。間違ってたら鼻で笑っといてください…