言葉は便利だ。感情を込める前に相手の方角へ向かって突き刺さる。俺は正直、自分のことをわかってもらおうと苦心して言葉を発するのが嫌いだった。俺にとって言葉は武器、それ以外の何物でもない。
だから面倒なとき…特にサガが俺の言動にいちいち文句を付け出したとき…なんかが格好の使いどころだ。サガは案外放っておくと何も言わなくなる。いや、サガに限った話ではなく、大抵の人間はそうだ。だって何回言ったところで意味を為さないなら時間の無駄だろう。それを経験で知っている俺は、煩わしくなったら適当に突き放す言葉を発することにしている。


しかしまぁ、言葉というのが武器ならば、当然それは思惑とは違った方向に活躍することだって勿論あるわけで。あれが何時だったか、或いは繰り返した中のひとつであったか、まぁまぁ兎に角。
例のごとく煩いサガに、俺は例のごとくそのとき思いついた台詞をずけずけと口にするが、何だかちょっとどころかかなりしつこいサガに俺も段々苛々してきた(多分一番苛々してたのはサガだろうが)。その時思わず、
「今更兄貴面すんじゃねぇ」
だか
「誰がお前の指図なんぞ受けるか」
だか
「偽善者は相変わらずか兄さん」
だかなんだかとりあえずサガを罵倒しまくった、あとで。
サガの、俺を哀れむような、若しくは何かを悔いるような、複雑な表情を見て、俺は『言わなきゃよかった』と柄にもなくうなだれた。その後三日程、俺はサガと顔を突き合わすこともなく。サガが何をそんなにしつこく俺に説教していたのかもすっかり忘れた。しかもその沈黙の三日間の後、サガが突然『女神から休暇を戴いたから旅行に行くぞカノン』とか訳のわからんこと言い出して、俺はますますうなだれた。



ちなみにその話を聞いたラダマンティスが、『武器の扱いを知らずに振るえば、自分に当たるのは必然だろう』とか言ってきて腹が立ったからとりあえず殴ったのは、その旅行から帰ってまた三日程後の話。









当たり所の悪い言葉



いっちばんはじめに書いたもの。
ある意味、この先書くものの方向性をつけたかなと
双子がすきです(しってる)