before 11hours

無駄だとわかっていながらも慌てて宮を飛び出してカノンを探した。“居ない”人間の名前を呼んでいては不審なために、必死に首を回し五感を使って彼を探した。手にはあの小さな箱に入っていた首飾りを掴んでいる。十字架の形に作られた石に丸い穴を開け、紐を通しただけの簡単なものだ。
何をどうしてきたのか、聴かなければならなかった。例えば、これは誰かがお前に誕生日の贈り物としたのか、或いはお前からわたしへの贈り物のつもりだったのか。どうせ夜にもなれば腹を空かせて此処に戻ってくるに違いないと、わかっていても探さずには居られなかった。






















結局その日、カノンを見つけることはできなかった。

before 10hours






















9hours ago

ソファーから身を起こしてふらふらともう一度部屋を見渡して。サガは立ち上がった。律義にノックをしてからカノンの部屋に入り、居ないことを確認してから宮の外に出た。






8hours ago

「あれ、サガ?」
獅子宮を抜けようとしていると、ミロに出会った。ミロはサガを見て数度瞬きをした。
「今日は1日非番だろ?夜まで休んでろよ」
その後ろからはアイオリアとシャカが顔を出した。少し遅れてアルデバランも出てくる。その中に、探している姿はなかった。
「皆で集まって何を?」
「何って、恒例の宴会準備」
そういえば、誰かの誕生日には宴会を開くのがもう常になっていたのだったか。今更それを思い立って納得の声を洩らす。
「カノンは来ていないか」
「カノン?」
「朝から姿を見ていないのだ」
ミロは皆と顔を見合わせ、頷いてから知らないと口にした。







before 7hours

誕生日は特別なのだと、何度伝えてもカノンは知らん顔だった。生まれてこなければ何もなかった、偽善でも頭の沸いた平和な話とでも、何と言われてもサガはそれを自らの中で覆すつもりはなかった。







7hours ago

あの日あの手に握ったあの十字架は、今もあの箱の中に仕舞ってある。誰のものかもはっきりしないまま、誰のものにもせずに残してある。
聴かなくてはいけなかった。聴かなくてはいけなかったのだ。聴かなくてはいけなかったのに、全部、全部。

抱えた荷物の隙間にお前が何を考えていたのかを。わたしに似て卑屈で傲慢なお前が、わたしの何に反発し続けていたのかを。そうして繰り返した中で、誕生日を、誕生日をと歌うわたしが、いったい何時お前に祝いの言葉を投げてやったのかを。お前の知らないわたしの形ばかりに頭を抱えて、いったい何時お前からの声を耳に入れたのかを。


























6hours ago

「お帰りカノン」
夕焼けを背負って宮の入り口に現れた弟は適当な格好なまま、右手に袋をぶら下げていた。サガの姿を確認すると少し目を細めて訝しげな顔をした。
「何処へ行っていたんだ」
「…別に何処だって構わんだろう」
「いいや駄目だ。ちゃんと教えろ。わたしは今日お前と1日過ごしてやろうと思っていたのだぞ」
「アホか」
「アホとは失礼な」
何を買ってきたのかと袋を覗けばビールが幾つも入っていた。
「…今夜は、ミロ達が宴会を開いてくれるそうだが」
親切心から教えてやるが、知ってる、と素っ気ない返事をされた。朝、町に下りる前にムウに言われたのだと。
「なら何故買いに行ったのだ」
「無くなったし、暇だったから」
「暇、」
文句を言おうと開いた口は寸で止まった。暇。そうだ、自分も執務がなくなってしまって一日ずっと暇をしていた。

一度もカノンにおめでとうと言ったことはないのに、あの十五年の歳月の間、自分はカノンと祝いごとをするためだけにほんの一日我が侭を頼んだのだ。



ビールを冷蔵庫の中へ乱雑に突っ込んでいくカノンの背を見ながら、サガは再びソファーに座り込んで思案顔をした。
「なぁカノン」
「何だよ」
「今日はわたしたちの生まれた日だな」
カノンは相槌も打たない。
「女神が許されたとはいえ、わたしたちは罪人だ。生まれた日を祝うなど不謹慎かもしれないが。皆が祝ってくれるのも、おめでとうと言ってくれるのも、有り難いと同じくらい申し訳がないが」
「おいサガ」
音をたてて冷蔵庫の扉を閉めたカノンが振り返ってサガと向き合った。
「お前、誕生日にまでそんなくだらん話を俺に聴かせる気か」
「…いや、そんなつもりは…そうだな、すまない」
我に返ったような謝れば、カノンは食卓の椅子の方にどっかりと座って軽く溜め息を吐いた。時間は刻々と過ぎる。
「そんな面倒なことを考えずとも、祝われたなら素直に喜べばいいだろうに」
事も無げにそう口にしたカノンに、サガは少なからず驚きを見せた。その言葉はそっくりそのまま自分に跳ね返るのではないかと思いつつカノンの表情を窺う。カノンは瞼を下ろして欠伸をしていた。
「なぁカノン」
「何だよ」
「お前は、今でもわたしが嫌いか」

5hours ago





















before 4hours

薄汚れた布を頭からすっぽり被って、カノンはこそこそと町を歩いていた。この辺りは聖域の名を知らない者ばかりだから、正直こんな異教を示す格好などせずとも怪しまれる心配はないのだが、戻るときのことも考えるとやはりこのままの方が好ましいだろう。
左手には、硬貨を数枚握っている。さきほど質屋であるものと交換してきたのだ。確か二年前の誕生日にサガから贈られたものだった。

何を買うかは既に決めていた。その店に向けてかなり早足で界隈を抜けていると、何かを蹴飛ばした。足下に目をやると、林檎が転がっていた。
徐に拾い上げて首を傾げる。と、同時に少々腹の虫が鳴いたために、まぁ転がってたんだしいいか、とそのまま持って行こうとすると声がした。
「ああ悪いね、拾ってくれたのかい。ありがとう」
顔をあげるとひっくり返った荷車が目に飛び込んできた。その周りには同じように幾つも果物が転がっている。それらと自身が手にした林檎とを見比べていると、声をかけてきた中年の女が腰を屈めて手を差し出してきた。おとなしくその手のひらに林檎を落とす。
「手伝おうか?」
ほんの気まぐれでそう口にした。女は笑ってもう一度ありがとうと言った。



全ての果物を荷車の上の籠に戻して、カノンは両手を叩いて少し得意気な顔をした。力持ちなんだね、と褒めながら女はひとつ小さな籠を取り出して、その中に幾つか果物を詰め込んだ。
「ご褒美さ。お代はいらないけど、こっそり持って帰るんだよ」
握り締めた硬貨に果物いっぱいの籠を抱えて、カノンはちょっと困ったように目を泳がせた。
「気にしないで持ってお帰り。一緒に拾ってくれたお礼なんだから、親に怪しまれても堂々としていればいいさ」
僅かに頷くと、女は頭を撫でて荷車の後ろについた。重たい音をたてながら少しずつ動いていくそれを見送りながら、カノンは声をあげた。
「今日、兄貴の誕生日なんだ」
荷車が止まる。
「喜ぶかな」
「きっとね」


before 3hours





















before 2hours


いつも貰ってばかりだからたまにはくれてやろうとか、たったそれだけの事を毎年考えていただけなのだ。なのに毎年様々な理由で投げ出され続けてきた。半分は自分が悪い、もう半分も、めんどくさいから自分が悪い。






いつも自分が上だって必死がる、その姿勢が嫌いだ。自分たちは自分たちの味方だと当たり前のように考えている、その純粋な心が嫌いだ。なのに正しいことばかりを口にする、その態度も大っ嫌いだ。

「…いきなり何を言い出すんだお前は」
冗談で流そうとしたが、それを許さない空気がサガにはあった。首の後ろを掻いて少し頭を捻って。
「言っとくがな、俺はお前への評価をこれまでも変えたことはないし、これからも変えるつもりはないぞ。どうせどうあったところで、お前が同じ顔をした人間だという事実は変わらんではないか」
カノンが壁にかかった時計を指差した。ミロが言っていた宴会の時間だと云う。そういえば時刻までは聞いていなかったが、まぁ妥当な時間だろう。言い逃げするように椅子から立ち上がって部屋から出ていくカノンに続いて、サガもソファーから腰をあげる。

1hour ago























for one hour



眠たくないよ、と主張しても、駄目だ、寝ないと明日起きられないよと宥められて。起きたくないよと駄々を捏ねる、本当の理由なんて誰も知らない。誰もが貴方を祝福する、そんな夢のような日が終わらないで居て欲しかった。

でもそれは夢だから、どうせこの身はいつかも誰かに嫌われて、いつかも誰かに憎まれて。

それでもいいんだ、いいから、また来年も此処で、貴方が微笑む様を、貴方が幸せでいる様を。


















「なぁカノン」
「何だよ」
「そういえばすっかり遅れてしまったが、

共に産声を挙げた兄弟よ。

たんじょうびおめでとう」
「…おめでとう。確かに遅いな」

うっかり十三年も聞きそびれたぞ、と、今更笑えるようにわたしたちもなれたのだろうか。








ステップ バイ ステップ



双子誕生日おめでとう!!遅刻してごめんね!!
そしてこのように双子をお祝いできる場を設けさせていただき誠に嬉しい限りです。ありがとうござます!

もう何書いてんだが書いてる本人にもよくわかりませんが、言いたいことはおめでとう!そしてこれからもよろしくお願いね。ひみっつひっみつ!


20110530(20110531)