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※やっぱり大した解説はないです。
※雑多なので注意。





■おくりもの(双子)

贈り物というものはいつも私を悩ませる。一年でもっとも美しく、大切な日に渡すものであるならそれは尚更だった。知識だけは豊富な頭を捻って出せるだけ出した候補の中から、たったひとつを選びだしてもやはり迷った。喜んでくれるだろうか、こんなもの渡されて迷惑ではないだろうか、使われずにおいておかれてしまっては意味がない……そうしているうちに時は過ぎて、私は次第に物を遣るのが億劫になっていた。

私の誕生日に、弟が私に何かを投げてよこした。その弟も今日が誕生日だった。
「なんだこれは」
「たんじょーびプレゼント」
「プレゼント?これが?」
「なんだよ、前にインクないってぼやいてたじゃねえか」
「…いったいいつの話をしているんだ」
執務机に置かれた、真新しいインク壺のことを思い出す。つい先日届けさせたばかりのものだ。あのくらいは私がわざわざ買いに下りずとも、買い出し担当の神官に頼めばすぐに持ってきてくれる。

「……」
けれども私は、この乱暴に扱われた小さな容器をきつく手の中に封じ込めた。私は嬉しかったのだ。必要もないものをもらったというのに、私はとても嬉しかったのだ。
それがすべての答えだったと、今更気付いたことをどうか伝えさせてほしい。


2013/05/30 (Thu) 9:57

(双子おたおめ)





■生存肯定(カノン)

死んでいるように生きているだけなら、いっそ生まれてこなかった方がましだったんじゃないかとか、昔はよく考えた。その不毛さに今ならすぐに気付いて恥じることができるのだが、視野も狭ければ自分のことしか見えていなかったあの頃の自分に、気付けというのも無理な話だったのだろう。ただ当り散らすことしか知らず、自分にないものを持って堂々としている奴の顔に泥を塗ることに喜びを感じ、それを詰られ責められたら殻に閉じこもって自分を守る。それの繰り返し。

こころというには未熟な器の真ん中で、ずっと死ぬことばかりを考えていた。痛みを想像して、苦しさを想像して、そしてたったひとりの肉親以外には誰もそれを気に留めることのない事実に勝手に絶望して。



今ならそんな愚純な自分に指摘してやることができるだろう。俺は生きたかったのだ、死を想うことでしか正当化できない己を省みて、ただひたすら呼吸をしているだけの世界を抜けて、ただひたすらに。
今の俺はそれを知っている。


2013/07/07 (Sun) 9:15





■不穏(ルネとアイアコス)

気に食わなかったから殴った。全く悪びれもせずに言い放つアイアコスに、俺は思わず額を指で押さえた。これで一体何度目だと思っているんだと言えば、そんなのいちいち数えているわけがないだろうと返ってくる。そんなことだろうとは思いつつ、やすやす容認してやるほど俺は甘くない。

「ルネ、お前も見ていたのならあいつを止めてくれ」
この調子では士気に関わる。ハーデスの私兵として、既にその魂には烙印が刻まれているだろうが、それでもそのすべてがもともとはただの人間のものであったことを忘れてはならない。従えるのにも抑圧するのにも、術があるのだから。
「申し訳ありません。しかしアイアコス様が機嫌を損ねても仕方のない輩であると判断しましたゆえ」
つまり、正当な制裁だったと言いたいらしい。
「冥府の裁判官がそんな私怨で裁量を決定してどうする」
「…それもそうですね。自覚が足りなかったようです」
珍しく罰が悪そうに頭を下げた男がくるりと身を翻す。現場の入り口にひとつ影が浮かんでいた。ミーノス様、と誰かが声をあげたのを聞いてようやくそれを把握する。
「おやおや。私の不在中に何かありましたか?」
またアイアコスが、と俺がため息まじりに切り出そうとする前に、すかさずルネが、いつもの淡々とした口調で告げた。
「いいえ、ミーノス様がお気になさるようなことは、何も」

表に出せなかった言葉を飲み込んで、俺は思わず舌打ちをした。


2013/07/07 (Sun) 9:28





■おとうと(ロスサガ)

少し重たくなったけれどまだ立って歩くことのできない小さな弟を抱えて、俺はサガと出くわした。指をくわえてサガを不思議そうに見つめる弟を、サガは感動したようにやさしく目を細めて眺めて、わたしにも抱かせてくれないかと頼んできた。俺はもちろんといって弟をていねいに渡した。サガもていねいに受け取った。
慈しむように、壊れ物を扱うように、指に触れて小さな手を擦り合わせた。何かを懐かしむように何度もそれを行うと、弟がきゃっきゃと笑い出した。笑って、サガの指を掴み返した。サガは少し驚いた表情を見せたが、すぐにやさしく微笑んでその指を握り返した。うつくしい光景だった。

・・・はずなのに、今俺はそのことを思い出すとなにかとてつもなく悲しい気持ちになるのだ。思い出のなかの光は眩しくて、正しいすがたはもう見えない。


2013/09/14 (Sat) 14:00





■家畜(ミーノス)

すきなもの?きらいなもの?なんの話です?ええ

よく吠える犬はきらいじゃないですよ、うるさいと敵いませんが、しょせんは犬ですから。口に放り込むビスケットにはレモンでも仕込んでおきますか?
猫、ああ猫。きらいじゃないですよ。気まぐれで一向に懐かないやつはなかなか折り甲斐がありそうなプライドを持っているではありませんか。ええ、良い音が鳴ってくれそうです。
従順な馬?いいじゃないですか、鞭を打てばそれだけで思い通りに動いてくれるなんて。暴れ馬でも構いませんよ、餌は空中にでも吊っておけばみっともなく涎を垂らして走り回るでしょうから。
なんの役にも立たない愛玩のうさぎ?ふむ、使い道ならたくさんあると思いますが。じわじわと身も心も削らせて縋らせるというのもありではないでしょうか?やさしく撫でて「待て」をしてあげますよ。そういえばさびしいと死んでしまうのでしたっけ?

なんですか、急に家畜の話をし出してため息を吐くなんて。ところで、いったいそんなことがどうかしたのですか?


2013/09/23 (Mon) 1:40





■あまやどり(ロスリア兄弟)

強くなる雨を、石造りの屋根のしたで眺めては、やんだら歩こう、やんだらいこう、きっと待ってくれてるからと、したり顔のじぶんと不安そうな弟と。傘をもってこなかったのは、いま俺たちは空の裏切りにあったからだ。灰色の雲がすっぽりと青かった隙間を埋めてしまった。
もうすぐ雨脚も弱まるよと、一向にその気配のないそれを見上げて頭を撫でる。嘘を吐いても、弟はこっくりと頷いてみせるだけだ。今は訓練中でもなんでもないのにこの子は自分に甘えたり楯突いたりしてこない。ちょっとさびしいと言えばさびしかった。

まだ、家という安全の殻のなかにからだがないからだ。まもっている、このつめたい雨から己を。吹き抜ける風を避けるようにして、ふるえる弟を抱きしめた。こころごと抱きしめた。


2013/09/23 (Mon) 2:02





■許容(ルネミ)

コーヒーに入れるミルクと砂糖の量を間違えた。珍しく意識が違うところに飛んでいて、少し指が震えただけで。ルネは一瞬表情を固めた。そして徐にカップを傾けた。
「おや珍しい。さじ加減を間違えましたか?」
「失態です。どうかお許しを」
「構いませんよ。コーヒーが甘くなるくらい」
そうだろう、とルネは心のなかだけで呟く。たった1グラムにもならない差だ、味に変化など殆どない。上司の、ミーノスの機嫌をとるのにこの差は問題にはならない。つまりルネはミーノスのために量りを用意したわけでは一切なかった。

何かを言われたい言わせたいそんな願望すら持たない。何もかもいつも通りで動かないことしか望んでこなかった。これからも。時間の概念も曖昧なこんな場所で、地上でいう朝と昼と晩の三回、必ずコーヒーを一杯を彼の人が所望するのなら、それを毎回彼の人が望む通りにしてみせること。ルネが行っているのは義務だった。
「どうぞ」
「ご苦労。有り難く頂戴しますよ」
当たり前のようにカップとソーサーを受け取って、当たり前のように喉に通して。ミーノスはなにも言わない、ルネは仕事の話をする。何事もなかったかのようにカップは空になる。そうでなければならない。

ミーノスが嬉しそうにそれを許しても、今日は少し甘いですねという一言をルネは一度たりとも許してはならないのだ。


2013/09/27 (Fri) 0:40






■はっぴーなめいかいばーす(ラダカノ)

「へ?あ?たんじょうび?あ、あれっ」
話題に上ってそこではじめて、ぼんやりしていたカノンの意識が覚醒した。珍しく相当に慌てたように頭を掻いて、あーだのうーだのうめき声をあげてから、すまん忘れてたと正直に口にした。
「お前も言えよ、3日前にあったじゃねえか」
「いや、もうこの歳にもなって自分から誕生日を言いふらしにいくのもなんだかな」
「その台詞、未だに触れ回ってるミロやアイオロスにきかせてやりたいぞ…」
ああでも、ああしまった。先ほどからそんなことばかり呟いてカノンは頭を掻いた手を眉間に置いたり膝に戻したり、かと思えば首の後ろへ持って行ったりと忙しない。そんなに気にしなくていいぞと少しフォローしてみたら、いやそうじゃなくってと小さな声が返った。
「嫌がらせで贈ってやろうと思ってたものがあったのに、無念すぎる」
「…別に過ぎてから贈られてきても文句は言わんが」
「だめだ、漂う二番煎じ感が消せんではないか。ああくそ、なんたる失態だ!」
この男はひとの誕生日をなんだと思っているんだとは言いたかったが、なぜだか無駄に落ち込んで自己嫌悪に陥っている男を突く気にはなれなかった。代わりに、ついと肩を叩いて顔をあげさせた。
「だったら今、ひとつくれないか」
「ああ?何をだ?」
「おめでとうと言ってくれカノン」


2013/10/31 (Thu) 23:41

(最高の嫌がらせを用意しようとした、意趣返しにもならないだろうが。ラダマンティス誕生日おめでとうみごとに遅刻しましt)




■墓と花(蟹と魚)

墓地に花は不可欠だろうと言って足繁く花を抱えて歩く。どれだけ薔薇のにおいを漂わせていたって、血のにおいまでは騙せないだろうにお前相変わらずアホだよなぁとけらけらしたら、案の定足が飛んできた。おとなしく蹴られた。
「お前みたいに常時死臭まき散らしてる方が問題だよ。公害も甚だしい、少しは礼儀と嗜みを覚えたらどうだい」
「俺にこれ以上イイ男になれってか?そりゃあいい冗談だ」
並べられた石のまわりに花弁を散らす、正面には束を置く。手を合わせる。死者を弔う気持ちが本当に男にあるのかどうかは、知らないし、知らなくていいと思っている。どうせあったところでやることは変わらない。俺たちはまた手を汚す。大義と信仰とその力の名の下に、誇りの代わりに心を減らし、魂を研ぐ代わりに身を落す。

「なあ」
「なんだ、静かにしろ」
「俺たちの墓には誰が花を持ってきてくれんのかねえ」
墓石の前に膝をついた男からの返事はなかった。


2013/11/23 (Sat) 15:49





■くりすますいぶなんだそうです(ロス兄さん)

拝啓、皆様。こちら聖域。珍しく雪が降りました。ほわいとくりすますになりました。今年初だったこともあって、ミロやアイオリアなんかはバタバタと騒いでいます。珍しくシベリアから戻っていたカミュが巻き込まれました。ムウはそれを横目にアルデバランと雪かきをしています。アフロディーテが庭の花を心配していました。シャカは今日も処女宮から出てくる気配はないようです。シュラはこんな中でも修練を欠かしません。昼はデスマスクがあったかいものを作ってくれるそうです。サガが相変わらず教皇宮にこもって書類と格闘していると、五老峰の老師から美味しいおまんじゅうが届きました。シオンさまが嬉しそうに3つも一気に食べてしまいまして、俺の分はなかったのですが、俺はちっとも悔しいとは思いません。カノンは年末まで海にいるみたいで、なんだかちょっとだけさみしい気がします。

明日は、アテナが聖域にもどってきてくれるそうです。
精一杯の敬意で迎えたいと思います。俺は、私は、多くの時間を失っても尚、変わらぬ営みと優しさを、ただひたすら尊んでいたいと、それが願いです。


2013/12/24 (Tue) 13:35





■くりすますいぶなんだそうですその2(海界)

シードラゴンが言うんです。彼の神の子と言われた御仁の誕生日はこの日なんかじゃなかったし、これは後から他の宗教と結びついてこうなったんだとかなんとかで、だからお祝いするなら彼の御仁にかこつけずに堂々と異教らしくやるべきだって。意味はよくわからなかったけど、とりあえず今シードラゴンがご機嫌ななめだってことはよくわかった。バイアンに訊いたら、「多分、クリスマスなのにどこにも行けないのが悔しいんだろ」とのことだったので、しょうがないからテティスたちに頼んでケーキくらいは見繕ってやることにした。うんと豪華なやつにしよう。シードラゴンは派手なのがわりと好きだ。憂鬱な気分もくだらない感傷も、全部ぜんぶ見えなくなってしまうくらい、豪華で美味いものにすれば、雪が降っているらしい外とも隔絶されてしまったこんな海の底でもきっといい祝節祭になるはずだから。


2013/12/24 (Tue) 13:50





■くりすますいぶなんだそうですそのろく(冥界)

「あれだろう?ルネの誕生日」
「ええ、ルネの誕生日ですね」
柔らかい紅茶の香りと、並べられた色とりどりの菓子がどうにも、この死の国には不釣り合いなほどなだらかな空気を演出している。それを挟んであちらとこちら、座り心地の良いソファーの背もたれにどっしりと背中を預けきったまま、菓子を口に放り込んでいる男と、優雅に足を組んでカップに口をつける男と。
「まぁ俺たちには誕生日とかを祝うという習慣もあるわけではないから、全然意味なんてないけどな」
「まぁそもそも予定が作れるほど暇がもらえるわけでも。上と違って、こっちは一日に決まった数だけ決まった時間のあいだに裁けばいいというわけではありませんし」
「お前がやればいいんじゃないのか、ミーノス」
「残念ながら、あの仕事は彼が好き好んでやっていることなので、私はなんとも」
楽でいいですけどね、と微笑みつつ、でもケーキだけは用意してみたんですよほらと離れたところに置いてあった箱だけになったそれを示す。お、あれ有名なやつだってきいたことある。お前らのとこのやつか?ええそうですよ。わざわざ予約までしたんですから。部下想いのいい上司でしょう?一頻り笑ってそれは良い冗談だと言えば、向こうもクツクツと笑っていた。
壁の柱時計が重い音で哭いた。休憩時間も終わりかと立ち上がったとき、ああそうだアイアコス、皿とカップを片付けながら男の声が届く。次の時間にはラダマンティスも引っ張ってきてください。あいつも?ええ、実はあの子、あまり甘いものを食べないので。
「へえ、そりゃ初耳だな」
了承しながら部屋の扉を足で蹴り開けた。はしたないですよという、まったく咎めの色を含まない簡素な声に手を振る。相変わらず此処は死んだ世界だが、今日は紅茶と菓子のにおいがしてきそうだ。


2013/12/24 (Tue) 22:14