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※やっぱり大した解説はないです。
※雑多なので注意。
■夏だー
背中を蹴飛ばされた。衝撃に身を竦ませると同時に、目の前の水たまりに転げ落ちた。幸いそこまで深くもないそこからすぐに顔を出して、蹴飛ばしてきた張本人の名前を叫ぶ。またお前はそうやって、そうやって?なんだっけ?
そいつは陸に座り込んでけらけら笑っている。
「どうだ、涼しいだろう」
ぎらぎらと照りつける太陽の光は、確かに苦手だ。自分が冥王に仕えるものだから…といったことも除いても。けれども水の中だって異世界だ。奴がなんのためらいもなくそこへ沈んでいこうとするのを、見ながらいつも、こいつは違う生き物だなんて思う。
「なぁ向こうの岸まで競争するか」
「…お前の方がはやいのは目に見えているが」
「でも泳げないわけじゃないんだろ?だったらやろうぜ」
言うがはやいか、自分もざぶんと水たまりに飛び込んで水面から顔を出す。
「勝負、っていったら?やらないわけにはいかないんじゃないのか?」
そういってにやりと笑う顔が心底好きだと思ってしまうから、このまとわりつく水も暑さもどうでもよくなってしまう。
2012/07/17 (Tue) 12:03
■さて
ならばここは君に任せよう、と、案外さらりと言ってのけた。正直少々拍子抜けだった。いつも鋭く己の行動を非難してくるやつが、この無謀ともとれる提案に賛同するとは思えなかった。
「いいのか、俺は相手を倒すことしか考えんぞ」
「言を撤回するのは好きではないのだよ。君に任せるといった、だから信頼しよう。必ずやここで食い止めてみせてくれるとな」
猪突猛進。向こう見ず。勇者と見れば勇敢、愚者とみれば愚直。
「打算や計算ばかりの作戦よりはいいだろう」
いつも理屈で俺を責めたてるくせに、こんなときに限って都合のいいやつだ、ほんとうに。
2012/07/21 (Sat) 19:57
■桃
桃は丸齧りができない。
今、アイオリアとミロの手のひらにちょこんと乗っかっているそれは、女神からの賜りものだった。もともと甘い果物が大好きだと意気揚々としているたミロと、甘いものはそんなに得意ではないが女神からいただいたものだからありがたく食そうとしきりに頷いていたアイオリアと、ふたりして今は椅子に座り込んだまま無言。
「…なぁ、やっぱり意地を張らず誰かを呼んできた方がいいんじゃないか」
「なにを言うかこの馬鹿猫。こんな桃ひとつに!」
「いや桃自体はふたつだが」
包丁は、ある。ひとつだけ。まな板も、ある。なぜかふたつも。
「じゃあお前から切り始めてくれ」
「なっ、…なぜだ!」
「なぜって、包丁もまな板もお前のものだろう」
ここは天蝎宮。ミロの家。そういうことだ。
「…い、いや俺はもう少しこいつを観察する。幸い、香りもいいしな桃は
」
「……なら俺もしばらく香りを…」
「…………」
「………………………」
痛々しい沈黙が続く。そう、もう一度言うが、桃は丸かじりができないのである。
2012/07/22 (Sun) 13:46
(確か桃を貰ったときにかいた)
■薔薇
戦いには、美学がある。聖闘士が行う戦いは決して殺し合いではないのだ。それを時折理解できない奴らが、聖闘士になるだのなんだのいって修行地に赴いてくるのがアフロディーテは気に入らない。
弟子をとらないのか、という質問に対し口にしたのがそんな言葉だった。それに子供は好かない。小宇宙を扱えるようになるためには、幼いころからの修行が不可欠であるし、弟子をとるならそれこそ本当に年若いものを選ぶことになるだろう。そんな人間を一心に育てる意思はないどころか、嫌気すら差した。まだ見ぬ相手に、ではない、それを行う自分に、だ。
教皇宮の前に敷き詰めた薔薇をじっと眺める。
戦いには、美学がある。彼にももちろんあるし、聖闘士と認められたものには多かれ少なかれ、何かを持つ必要があると考えている。ただ相手をいたぶり、殺すことを考える輩は、やがて星の導きを失うだろう。決して己の力のみを過信するなかれ。昔から散々に言われ続けた言葉だ。
「………」
本当にくだらないのはどっちなのだろう。
幾ら美学を唱えても、戦いの果てに決まるのはどちらかの、あるいは互いの死だろうに。たとえ星の導きが絶えたとて、力があれば死は免れ、その先を見据えることもできるであろうに。
戦いを美しくとらえる権利はとうに亡くしたと、わかっているのに未だ、
(自分が薔薇の似合う人間でありたいだなんて)
馬鹿馬鹿しくて仕方がなかった。やはり戦いを勘違いしてここに来る輩どもも、憎くてたまらなかった。すべてが矛盾していて、咲き誇る薔薇だけが厚顔なまま風に揺られ続けている。
2012/07/26 (Thu) 9:23
■続々煙草
もういつのことだったかは忘れたが、部屋に来ていたヤツが放り出していたそれに何故かついと手が伸びて、それに火を点けてしまって、それからずっと何かがあると吸ってしまっていた。体によくないし、何よりその匂いがいけない。アフロディーテの忠告は強いものではなかったが、快く思われていないことはよくわかった。
体によくないなんて。どうせ俺たちが長生きすることなんてありえないだろうに。
それでも聖域の、人目につくところで吸うのは憚られて、いつもひとり、誰にも迷惑をかけないところで吸っていた。本数も回数もまだ少ないほうだったが、立派な中毒者だった。
「それは、」
あるとき、アイオリアに見つかった。
「……あまり好きなものじゃない」
とてつもない罪悪感に襲われた。こんなものに依存しはじめていた自分の、醜い自虐精神に、そのたった一言で気付かされた。それから、小さな箱ごと買っていたそれを、全部燃して捨てた。煙で涙が出た。そんな思いをしたのに、またそれに手を伸ばす自分を想像してうんざりした。
2012/08/01 (Wed) 10:37
■鷹
どうせ死ぬならこの日の下がいいと、言い続けた十三年間、瞼の裏にまで描いた光景とは程遠く、弔いがわりに頭上を過ぎ去る鷹の目には映らず
(つまりそれが死ぬってことだ)
2012/08/07 (Tue) 4:48
■レクイエム
かつて、岩陰に隠れて海に飛び込んだ女に、いまさらながら贈る鎮魂歌。
「なぁ蟹」
「んだよ魚」
「お前、歌へたなんじゃないか」
「うるせえ、高音キツいだけだっつの」
2012/08/20 (Mon) 10:19
■甘いケーキ
カノンはケーキが好きだった。丸い大きなホールケーキは、ただ上に苺が乗っかっているだけのものでも特別に見えた。カノン、今日はおみやげがあるんだ。そう言って優しく微笑むサガが机のうえにそっと置く四角の美しい箱は、いつもカノンを喜ばせた。切り分けたそれの一片を夢中になって頬張れば、向かいに座ったサガはにこりと笑って、お前のために買ってきたんだよと自分の口にもケーキを運ぶ。
カノンは知っている。カノンのためということでしか、特別なものひとつ手にすることもできないかわいそうなサガを知っている。そんなかわいそうなサガにはならないが、それを指摘するわけでもなく、建前のように与えられたそれを、ただ無邪気に喜んでいるしかない自分を知っている。
・・・甘いケーキを挟んだあちらとこちら。
2012/09/09 (Sun) 8:57
(日付が誕生日の次の日だから、たぶん誕生記念でかいたんだろうけどそれにしては話が不穏)
■携帯ロスト
唐突に、カミュはその右手から四角い金属のそれを引き剥がしてきた。
「カミュ?」
不審そうな声を出したミロだったが、他ならぬ親友のしたことだ、意味のあることだろうと無理に取り戻そうとはせず、ただ首を傾げる。
しばらくの沈黙の後、カミュはやはり唐突にそれを海に向かって投げた。
「カミュ!?」
さすがに驚いて思わずフェンスから身を乗り出すミロの肩に手を置いて、カミュはそのままミロを振り向かせる。
「ミロ」
なぜか満足そうな彼はそのままミロを抱き締めた。邪魔をするものはもうなにもなかった。
2012/10/02 (Tue) 4:01
(バカップルが懐かしくなったんだけど、うちのカミュとはちょっと違う気がしなくもない)
■しんじてます
ソファーに転がっていたら、急に背中へ重みを感じた。ミロだった。確認するまでもなくこの部屋には今、自分とミロしかいない。背中にうつ伏せの形で覆いかぶさっている。上半身の体重をすべてかけてきているから妙に重くて痛い。
「おい何だ」
先ほどまで反対側で眠っていたはずだった。先日まで任務に出ていたらしいから気を遣っておとなしくしていてやったというのに。
「カノン、俺はな、信じているぞお前を」
「はぁ?」
「いいかカノン、信じてやっているんだからな」
背中でもごもごと何か寝ぼけたことを言っている、くらいにしかとらえられなかった。何をまた突拍子もなく。何かあったのかと思うが、追及するのは趣味じゃないし何より面倒だ。聞いてみたからといってなんだという。
「おまえは裏切ったら許さんぞ」
「…他の奴ならいいのか」
気の利いた返事がしてやれないのは、その言葉に頷いたときに裏切りを覚悟してしまうからだろうか。
2012/11/19 (Mon) 8:33
(ミロを大事にしたいカノンさん、ふたたび)
■安眠
「カノン、ソファーで寝るのはやめろ」
「……」
「こらカノン」
べしべしと頭を叩いてみても、反応が薄い。寝つきがいいのはうらやましいことこの上ないが、無視されるのは少々気に食わない。でかいマグロが横たわってるみたいだ。確かこんな比喩をデスマスクやアフロディーテがよく使っていた。
「……」
「…………」
頑なに体を起こすそぶりを見せず、本来は寝転ぶためのものではないその家具の上を陣取るたったひとりの不肖の弟。
「…そんなにここがいいのか?」
ベッドよりもずっと狭くて寝苦しそうなのに。
「……」
少し気になりだしたらとにかく気になって仕方がない。はやくそこからどいてもらわねば。自分だって、とにかく安眠がほしいのだ。
2013/01/21 (Mon) 22:12