every30minute ログ 3
※やっぱり大した解説はないです
※☆矢にあまり関係のないものや語りはログにしてません
■山羊が黒いもの
生きていくために正当化した自分を、許したいとは思っていない。許されたいとも思っていない。力という正義の前に踏みにじったものたちは、自分がどれだけ頭を垂れても帰ってくることはなく、これ以上に言葉を発することもなければ既にそこから一歩たりとも動くこともない。
そして同時に、最終的には自分が望んだ結果とはいえ、この全ての引き金をひいたあの男のことも。自分は許す気など毛頭なかった。どれだけあの善なる表情で涙を流し謝罪の字句を述べたとて、決して許したりなどしないのだと、強く拳を握りしめていた。
だのに今、目の前で。悲痛という言葉だけで表現するのも足りないほどの激痛をその身に抱えて、ただひたすらに女神の訪れを待っている彼を、殺せない自分がいることが。我が身も裏切る自分がいることが。許さないなどと口の中だけで豪語しながら、結局この一瞬に、次の瞬きで、いつまでもこの男を許したままの自分がいることも。
2011/04/23 (Sat) 20:40
■あかいはな (双子)
サガが貰ってきたとかいう小さな花束は、見たこともない赤色をしていた。黄金聖闘士になったからと、連日村のひとや神官たちから渡されるのだとか、困ったような笑みを浮かべてサガは説明してきた。
またそんなもの、もう花瓶なんてないぜ兄さん。お人好しもいい加減にするんだ。生ける場所がないんだすまないって兄さんが笑ってやれば大概の奴は納得するだろうさ。
毎日言ってやっているのに全く数の減らない花ばなを、ひとつひとつ花瓶やら酒の空き瓶やらしまいにはバケツにまでとにかく萎れないように突っ込んだ。更に毎日様子を見て、必要があれば水を入れ替える。たまったもんじゃない。しかもそれをやるのは貰ってきたサガではなく関係のない自分なのだ。馬鹿らしいにも程がある。
どうせそうやって何も無下にできない自分を守ろうとするだけで、サガは何もしないし見ようともしないのだ。それがひどく腹立たしい。いつかこの花が枯れて茶色く汚れる様を見て、喉を震わせるのは自分なのだということも、わかっているのが尚更憎い。
花瓶ごと床に投げ付けて踏みにじってやりたい衝動を抑え、今日も花に水をやる。サガはまた花を持って帰ってくるに違いない。あの白い腕に、優しい胸に、赤い花を抱えて笑みを浮かべて。
2011/04/24 (Sun) 10:20
(Coccoの美しき日々、がカノンっぽいなぁ、とか考えてたら双子に赤い花の取り合わせにむらむらした。だけの話)
■私が神様だったら (魚)
無力さを嘆いて手を合わせ、天を仰いで呪文を唱える。誰もがこの先に見えない幻想を掲げて不安は笑顔で慰め合うだけだ。その渦巻く心に埋もれて芽を出すものには目もくれない。力を過信して名乗り出た愚か者を罵るために声をあげ、いつまでも部屋の隅にうずくまったまま、どれがマイノリティかメジャリティかなんて議論に白熱し、抜け落ちた輪郭が地面に高く積まれていく。
花火はどこかで弾けて消えた。夜な夜な始まる狩りに誰もが狂喜して、不特定多数に紛れて罪を犯す。流行り病は仕方ないと頷かれた。身を汚して坂道を転がり立ち上がる足を奪われて。この曇り空のした、今日も誰かが息を止める。
その手にもし、小さな御守りが握られていたのなら。
私は思う。涙も嗚咽も噛み殺したまま。こんな世界は要らなかったと。
2011/04/24 (Sun) 12:55
(チャットモンチーの世界が終わる夜に、が凄くすきです。ちなみにイメージはたぶんアフロディーテ。)
■蠍
思えばミロは、いつ見てもひとりで居ることはなかった。大概はカミュやアイオリアにくっついて一緒に遊び、ふたりがいないときはふてくされた顔をしながらもアルデバランやムウ、シャカの側に寄ってきた。ふとひとりきりなミロの姿を想像できなくて、サガは尋ねる。
「夜ひとりのときは、いつも何をしているんだ?」
ミロはあっけらかんと答えた。
「寝てるよ?」
そしてミロは、一緒に居る相手によって言うこともやることもぐるぐる変わった。同じ提案をしていても、カミュには賛同しアイオリアには反対する。ムウが同意したことには承諾をしたがらない。まぁこれは子どもによくある話だと納得したが、大人になっても大して変わっていなかった。
彼は、他人と相対的に存在する自分の価値を知っている。
他人がいないところの自分にはまるで興味がないのだ。自分は見たことがないが、誰もいない中の彼はきっと別人のように大人しいに違いない。彼は、自分の行動の価値を知っている。それに対して返ってくる反応も知っている。ただ認識していないだけなのだ。
2011/05/01 (Sun) 9:07
■蜉蝣 (カノン?)
ほんの、たった一度の舞台でよかった。人生で輝ける瞬間なんて何度もなくたって構わない、憎しみも慈しみも妬みも悲しみも喜びも全部捨てて、最期の至上を遂げよう。焦がれた意志なら此処にある、欲しかった痛みならまだ燻って蝕んでいるから。
2011/05/03 (Tue) 21:51
(その日、一日。を聞いていたら、ハーデス編のカノンをおもいました)
■わがし (氷河とカミュとミロ)
「お久しぶりです、カミュ」
「よく来た氷河。久しぶりだな」
ソファーで寛ぐミロの傍らで、約二週間ぶりの師弟再会が行われていた。ミロも少し体を捻ってその様子を窺う。相変わらずノースリーブな氷河の幼いながら逞しい腕には何かの袋が提げられていた。
今日は何を持ってきたのだろう。氷河はカミュに限らず人を訪れるときはいつも何かしら手土産を持ってきた。だからきっとその袋の中身は日本のお土産に違いない。ミロはふたりを注視する。
「カミュ、」
氷河が袋から箱を取り出した。
「日本の甘味です。どうぞ、遠慮なく」
「ああ、いつもすまないな氷河」
中には、色とりどりの不思議な食べ物が並んでいる。
「良ければミロもどうぞ」
待ってましたと言わんばかりにソファーから腰をあげて、ミロはにやりと笑いかけた。
2011/05/03 (Tue) 22:08
(「我が師に和菓子って駄洒落かよ〜!」って突っ込んでくれるのはきっと星矢だけです。氷河が素なのかネタなのかはいつも謎。)
■林檎 (カノミロ)
カノンの奴がまた腕を折ったから、見舞いついでに林檎を剥いてやろうとした。片腕では包丁は使えまい!そう高らかに言ってやったのに奴は、丸かじりすればいいだろうなんてかわいくない返事をした。くそう、折角この俺が親切心を働かせてやったというのにこの男。
「そもそもお前、林檎の皮剥きできるのか」
「な、馬鹿にするな!」
食らい付いてみたものの、一度もやったことがないのは事実だ。そういえばカミュが好きだった。やたらと几帳面に薄く、しかも一度も途切れさせることなく剥いていくのが。カミュはサガから教わったと言っていた。
「お前は?」
カノンは使える方の手で林檎を真上に投げたり回したりしている。
「まぁ、あまり巧くはないが」
それに片手じゃ無理だ、とその林檎を口に運んだ。その滑りやすそうな断面はかじりにくそうだな、などと考えながら、ミロは近くでしかめ面をしている。
2011/05/08 (Sun) 22:06
■ぶくぶく (カノン/沈んでる)
小さな愚か者の声が聴こえる。
一度足を繰り出せば、錯覚するのだ、如何にも自分がこの地面の上を自分の力で歩いているかのように。その滑稽な格好を、笑い続けていた、指を差し続けていた、背中を蹴飛ばせば、湖の中へまっさかさまだった。
水はこの無力さを教えてくれる。
息の続かないこの遥かな水底で、誰も知らぬままひっそりと。
2011/05/14 (Sat) 20:10
(関係ないんですが、サガがカノンを海に捨てたって言うのは、結構本気すぎて真面目にサガが怖いです)
■思い出 (山羊)
忘れたことも多い。毎日のように誰かに出逢って誰かに別れを告げることを繰り返せば、目蓋の裏にはただ影だけが反芻されていく。一度小さい頃に会ったことがあるよ、まだ山羊座にもならない頃だ。そんな昔のことを持ってこられたって、シュラには何も思い出せない。
臭いものには蓋を、苦いものには塩を、痛む傷は消毒をして、汚れた手は洗ったら、せーの、でまた。
懐かしい記憶もある。大馬鹿だった幼い自分、空回った足と腕は思い出せても、正しい自分の形は今でもわからない。心臓を穿った衝撃や悔しさだけが鮮明なまま、人が通り過ぎる、景色が流れていく。だから明日も明後日も、自分は忘れることばかり知っていて、忘れることばかり上手くなる。
2011/05/14 (Sat) 20:21
■まち (双子)
買い出しだといって宮を出ていこうとするカノンを呼び止めて、せっかく非番であったのに共に街へと繰り出した。日曜の朝は気分が良い。市場の活気も程よく笑みも出る。
カノンは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。何でついてくるんだ、と言外に訴えているようであったがそんなものは無視をする。せっかく非番で宮に戻っていたのに、挨拶もそこそこなまま買い出しとはどういうことだ。機嫌を損ねたいのは自分の方だ。
こうして歩いて居たって別に会話なんかロクにしないが。
「わたしと街に行くのは嫌か」
「嫌だろ」
「どうして」
「同じ顔がふたつ並んで歩いてるなんざ、ホラーだ」
「双子だということくらいは誰にでもわかるだろう」
「それが嫌だ」
カノンが日用品売り場の前で足を止める。腰を屈めて必要なものを探している。その背後から少し顔を出して店主に軽く笑んで挨拶を交わしたのち、事も無げにカノンの背中へぶつけた。
「万引きはするんじゃないぞ」
ぴくりと肩が跳ねてカノンが振り返る。笑顔も困り顔もしないでいつも通りなままの自分を見て、誰がするか、と僅かに口が動くのを見逃さなかった。
2011/05/17 (Tue) 9:25
(うちの双子は仲がいいんだか悪いんだか)
■電話 (ラダカノ/微妙な進展)
顔が見えないというのは、案外苦労する。相手がどんな表情でそんな言葉を吐いたのかがいつも気になって仕方がない。それでも会って話す機会の少ない自分達には、声が聴けるというだけで喜ぶべきことなのか。
「次はいつだっけ?」
「来週の金曜日だ」
「へぇ、じゃあ丁度一週間か。前回から丸々一ヶ月だな」
受話器越しにカノンの笑い声がする。耳にぴったりくっつけていても、音は割れて実際にカノンが目の前で笑うときとは、全然違う。
「そろそろ俺が恋しくなってきたか?」
相変わらず仕事に張り付けの自分をからかったのだとは流石に気付いたが、何分声だけだということに少し惑った。馬鹿を言うな、と。溜め息と共に吐き出せばカノンはまた明瞭でない音の中で笑っただろう。
「…ああ、早く会いたいな」
どこか空言のようにぽつりと呟いた途端に、受話器越しのからかう笑いがぴたりと止んだ。
「大丈夫だ。待っている」
続けてそう付け足して苦笑した。カノンからの返事がない。血迷った自分の言葉に、カノンがどんな表情をしているのか、見えないのが酷く残念だ。
2011/05/19 (Thu) 7:23
(こんなことを言えるようになったラダマンティスさんにわたしがびっくりした)
■トロメア (ルネミ)
私が魔星となってはじめて目が覚めたとき、横たえられた寝台から見上げる天井よりも何よりも先に視界へ飛び込んできたのは、ミーノス様の御顔だった。普段は長い前髪で隠れている目を、奇しくも私は一番最初に認識したのだ。
「お目覚めですか?」
それともまだ眠りますか?
滑らかな声を聴きながら、私はそれをまじまじと見つめ続けた。まるで雛鳥が親鳥を認識するかのように。重くて動かない腕も伸ばせない、その代わりとも言わんばかりに。
2011/05/24 (Tue) 7:36
■沙織さん (サガと青銅)
星矢は女神のことを、いつも人間としての名である「沙織」と呼ぶ。瞬もだ。何か理由があるのかと尋ねてみたが、ふたりして首を傾げる。
「理由なんてなぁ?」
「そう呼んでたから今でもそっちの方がしっくり来るってだけで」
勿論彼らにとって女神は、聖闘士として守るべき女神ではあるのだが。それと同じくらい彼女は、幼い頃からよく知っている、ちょっと我が侭で高飛車な城戸家のお嬢さんなのだ。生まれたときから女神、アテナ、女神、と言われ続けて育ったサガには、到底考えられそうもないことだった。
「えー別に遠慮することないじゃん。サガも呼べば?」
「いやわたしは…」
それはお前たちだから言えるのであって、と主張しようとした瞬間、背後の扉が開いて一輝が、
「おい沙織お嬢さんは」
すると廊下側から氷河が、
「さっき辰巳さんと上にあがったぞ、どうした」
「呼ばれたんだ」
そしたら納得したように紫龍がうんうんと頷いて、
「この間集まったときは一輝がいなかったからな、お嬢さんも会えるのが楽しみなのかもしれない」
と。
「……」
「な?」
屈託なく笑う少年たちを前に、サガは固まる。何か腑に落ちない。
2011/05/25 (Wed) 14:20
(黄金ばっかかいてんですが、青銅は別格で好きです。ただ個人的には同じ次元で語れない、☆矢に欠いてなされない、みたいな要素が強いです)
■悪夢 (双子/読み様によってはアレ)
うなされていた。寝台の上で足をシーツに滑らせて、酷く寝返りをうちながら。頭を布団の中に隠したり、指を何度も曲げたり伸ばしたりしているうちに、自分の短い叫び声で目を覚ました。覚ましたら、目の前にサガの顔があった。
「悪い夢でも見たのか」
心配そうに額を撫でてくるサガの目を真っ直ぐに見ながら、カノンは首を横に振った。サガは不可思議そうに眉をひそめた。
「ならば一体どうした」
どうしたも何も、言う通りだ。眠っていた、夢を見ていた。ただそれが悪夢ではなかったというだけで。しかしそれを伝えるのも億劫で、なんでもない、と答えるだけに精一杯になる。こんな夢の内容まで、双子の兄に知られる必要もないだろう。否、知られたくもない。
2011/05/28 (Sat) 19:41
(実は淫夢の話でしたこれ。あちゃー)