every30minuteログ ぷよ3
※非常に雑食カオス無節操です
※大した説明事項もなくむちゃくちゃにつっこんであるので注意してください
■時効の番人(さたんさまと)
変化を伴うなら猶更、痛みと共に浮上するのかもしれない。今一度その労苦を味わうくらいなら俺は死ぬと、憚ってやまない身を撫でて、そのねじれた時間の流れを外側から見つめた。
長い長い長い旅だった。
だから、忘れたこともきっと多い。まだ肩にも届かない高さの頭が、此方を見上げて驚いたときの表情や、未だ剣を握り慣れないやわらかな掌。うしなわれてしまったものを懐かしみながら今に思い馳せる。
不幸者、愚か者、かわいそうな迷子で、傲慢な智者だった。そのどれもが一本道の上で踊っていた。掬い上げてやったこともあった。不敬には首も傾げたが、身体の味見をして許してやったこともあるし、腕ひとつで離してやったこともあるし、どうでもよくなってなにもせずに過ぎ去ったときもある。ぼんやりしていたら直ぐに絡め取られそうな足もとの所為で、常にぎりぎりと引き絞って必死なちいさい生き物に、歩き方を教えてやったことだってあったのだ。
たとえそれが既に不可逆であることを訴えて過去を拒絶しようと、栓はない。長い長い長い旅路を、私は敢えて覚え続けている、今も。
Date: 2014/10/30(木) No.21
(お題頂いたもの)
■おっきい子供がふたりいる(サタシェ)
「おいサタン、おい」
ゆるやかに午睡を楽しんでいた所に、不躾な男の声がかかった。続いて、べしべしと頬を叩く感触がして、更に滑った指先がそこを抓る。
「いだだだだ」
「起きろサタン」
「貴様、もう少しまともな起こし方をだなぁ」
「まともに起こして起きたためしないだろうが」
仕方なく瞼を押し上げた。右手で滲む視界を擦りながら、天井が見えるかと思ったその先には、不躾な声の持ち主の顔があった。其処で内心首を捻る。そういえば、叩いて起こしてくるなど珍しい。普段は異様に此方を警戒してあまり自分から寄っては来ず、寝台の脇から闇の剣で小突いたりしてくるのに。
こいつが警戒心を持たずにそういう事をしてくるときは、大抵別の理由があるのだ。
「…………」
「あっ、おいこら二度寝するな」
「うるさい。どうせあれだろう、仕事がどうのとか契約がどうのとか、ルシファーが来たとかそういうアレだろう」
「わかってんだったらさっさと起きろ」
「いやだ」
「あのなぁ、こっちは巻き込まれてうんざりしてるんだよ」
顔を背けて枕に埋める。晒された後頭部を鷲掴みにして、ひたすら揺さぶる手をとことん無視していたら、唐突に胸のあたりに圧迫感が広がった。思わず、ぐえ、と潰れた声を上げて目を向けると、まるで椅子に腰かけるようにして、そこに、不躾な男が座っていた。
「貴様、いい度胸だな」
「起きないてめえがわるいんだろ」
「今日は非番なのだ」
「だったらいつも非番じゃねえか、働け魔王。そして俺の安穏な生活を返せ」
「闇の魔導師が安穏とかっぐええっ」
不毛なやりとりに飽きたのか、更に腰かけたところへ体重をかけてきたせいで更に妙な悲鳴をあげてしまう。
「き、きさま」
「ほう」
結構痛い。ちょっとしんどい。そのまま力づくで押しのけるのは簡単だった、勿論すぐにそうしてやった。寝台の外に押しやられて足をついた男は、しかしいつもは無感動に顰められている眉を動かして幾分も偉そうに鼻を鳴らす。
「たまにはそうしてお前を見下してるのもわるくないな」
実に可愛げのない言葉だった。こいつ後で覚えて居ろ、痛みもしんどさも倍返しだ、ついでに人には決して言えないくらいの羞恥を味わわせてやる、と、頭の中だけで復讐を誓った。
Date: 2014/11/06(木) No.25
(シェゾ逃げて超逃げて)
■脚立(サタシェ)
脚立の上に座り込んで、そいつはじっと、膝に乗せた本の頁を繰っている。その脚立はこの書庫でもとびきりの高さを持っているものだ、主に一番上の棚へと届かせるためのものだが、大抵の魔族たちは書庫の管理をしている小悪魔どもに取りに行かせたりするから、此処でそれを使うやつはひとりしかいない。しかしまぁ、器用なものだ。どんなに低く見積もっても軽いとは言えないだろうに、奴を乗せたままの脚立は特に危なげもなく綺麗に直立している。
素直に感心していると、不意に本から離れた視線が、此方と絡まった。やはり気付いていなかったらしい。気配を消していたから当然ではあるが、しかし並みの人間より反応は早い方だろう。脚立の上で何度か瞬きをしたそいつは、普段よりも幾分かぼんやりとした声で、ひくいな、と一言つぶやいて、次の瞬間には少し頬を緩めてみせた。あまり見たことのない、意地悪そうな笑みだった。
Date: 2014/11/23(日) No.26
(さたんさまを見下せると嬉しいしぇぞ)
■天秤(シェアル))
あいつよりはマシだとか、あいつの方が優れてるだとか。
比べてばかりで情けない話だとは思っていても、誰もひとりでに自分を認識できないから、そこに望んでばかりなのだろう。でも何処にも秤はないし、あったとしても、其処に他人は乗せられない。だから重さ比べもどうせ目分量で、誰も本当の優劣なんて知らない。わかりやすく公平に設けられたルールの上で競争をして、出た結果に一喜一憂したいのは、そこでようやく自分が何より優れていて、何より劣っているのかをはっきりと目にすることができるから。
だから、ますます欲は深くなる。
「別に、君より強いとかおもったことないけど」
実際に負けたことはないけど。のたまう声に唇を噛んで、それが勝者の余裕かと恨み言を吐いた。劣っていることは惨めだ。弱者はいつだって右往左往して、周囲の強者を前に身を竦めるだけ。
それが嫌で強くなろうとしていたのに。
「君は本当に素直じゃないね」
「俺はいつだって俺に正直だ」
「うん、まぁそれはそうなんだろうけどさ」
翻る足は、思っていたよりも綺麗というわけではない。ブーツの踵を汚す泥や、擦り切れた膝は、勝者もいつかは敗者だったことを、かつては弱者だったことを示すものだと、頭ではわかっているのだ、しかし目の前の勝者をそう認めることがどうしてもできないのは、何故だったのかを自分は今も知らないままでいる。
「ボクに勝てば君は満足?」
「当たり前だ」
「それはボクの力が手に入るから?」
「だったらなんだと言うんだ」
「君のそれには、終わりがないね」
「終わりがないのがいけないのか」
「いけなくないけど、きっとさびしいよ」
憐みというにはどことなく乾いていた。だから量り損なった。幾つも咎められて目的は達せられず、いつまでもその傷だらけの足下に転がりながらしかし、勝者は自分に大人しく敗者のままで居ろというわけではない。それがわからない、わからないまま、此処まで来てしまった。
もう欲以外のものを其処に見出すことができないところまで。
Date: 2014/12/01(月) No.27
■占星術(アミさんとフェーリちゃん)
広げた紙の上を滑る指は、天体図を模した面上で一定の軌道を描く。その様子をじっと見つめてみても、彼女が何をしているのかはわからなかったし、合間あいまに彼女が別の紙に書きとる何かも、いったい何を見て何から判断を得た内容なのかはさっぱりわからない。
「フェーリはいつもこれで未来を占ってるの?」
「へんなことを訊くのね」
「あれ、違う?」
「未来を覗いてるわけじゃないワ。因果を結んで読み取るだ・け」
「それがよくわかんないだってばぁ」
癖の強い字が並ぶ紙面を傍らに置き、ずっと面上とにらめっこを続けていた彼女の視線が持ち上がる。思わず身を竦めてしまった。特に仲が悪いという事もないが、占いや儀式に造詣の深い彼女とは、どうにも毎度話がかみ合わないことが多い。もしかしてあたしまたへんなこと言っちゃったかなぁとそのまま様子を窺っていると、無表情のまま彼女はゆっくりと口を開いた。
「アナタとシグは、なに?」
「へ?」
「アナタはシグと、どういう関係だとおもってる?」
「ど、どどどど、どういうって?」
「トモダチ?コイビト?シンユウ?カゾク?」
「と、友達だよ!シグはあたしの大事な友達!」
「そう」
突然の質問に、慌てて返された答えにも大きな反応をするでもなく、彼女の指さきが静かに宙で動く。それは先ほど、紙面の上を滑っていた時の動きに似ているようにも感じたが、自分の気のせいだろうか。
「それとおんなじ、よ」
やっぱり、よくはわからない。
Date: 2014/12/06(土) No.29
(お題頂いたやつ)
■白昼夢(レムシェ)
ティーカップの底に残った茶葉の滓を覗き込んで、地面に落ちた。割れない陶器を不思議に思う間もなく、そいつは弾力を持っているかのように跳ねて転がって、誰かの手に渡る。こんにちは、と声を掛けられても返事はしない。それが既に挨拶になっているから仕方がない。丁寧にテーブルの上へと戻されたカップの代わりに、差し出されたのは相変わらずの菓子の群れだ。俺はいつも通り顔を顰めるし、いつも通りもう少し難題を仕込んで見せる。差し出されたもののなかに見当たらない菓子の名前を引き合いに出す。そうするとやつは頬を緩めて、右手を二度、握っては開き、まるで手品をするかのようにそれを取り出して見せるのだ。悔しいことに。知らないものなどないとでも言うように。
嫌味なのか、嫌味なんだな。決めつけてぶつける声には肩を竦め、心外だと言わんばかりに眉を八の字にして、君が欲しいっていうから出したのに、なんてふざけたことをぬかす。そうやって他人を加害者にするのだけは得意なんだ、お前はそういう奴だ。差し出されたバウンドケーキの欠片を踏み潰して罵ると、じゃあ君はそうやって加害者になるのが得意なんだ、優しいひとだね。ちっともそんなこと思っていないなんて百も千も承知で、腹が立った。剣を引き抜いた。その見えない腹をかっ割いて全部ぶちまけて、大きな声で叫びたかった。
瞼を降ろすこともなく、テーブルに並べられた甘い菓子のにおいに装った表情も作れず、カップの底に残った茶葉の滓は捨てられ、落ちたフォークは速やかに別のものへとすり替えられ。どれもこれもが噛みあわない、何かと噛みあっていない、夢を見ているのは俺なのか、それとも。
Date: 2014/12/18(木) No.37
(お題頂いたもの)
■とおい星(シェアル)
それを使った魔導の方式があるのを知ってる。主に未来を占ったり、選択肢の良し悪しを測ったりする類の術だ。自分も学んだことはあるが、身につけるまでには至らなかった。あれは結果を出したとしても解釈の幅が広く、正確性があるわけではないと知ってやる気を失くした。
もっと確かなものがいい。もっと信用できるものがいい。
そう言いながらも、夜に空を見上げてはその手順を思い出して、暇つぶしを行うことはよくあった。特に期待はしないが、明日は遺跡に行くから備えるなら何かとか、簡単な予測のようなこと。習慣のように繰り返したところで、同業の小娘にそれをしているところを見つかった。シェゾも占いなんてするんだねえと言われて、これも魔導の類だろうがと返す。魔導師のくせに、学んだことがないというものだから本当に驚きだ。探究心や好奇心は当然人一倍にあるらしいが、どうにも落ち着いて知識を吸収できる性質ではないということか。理解はできるが、あまり腑には落ちない。
「星を見るのは好きだけどね」
「見てるだけで楽しいのか?」
「だって綺麗だから。きみはそうは思わない?」
「どうでもいい」
「うーん、相変わらずゲンキンだなぁ」
己の利にならないものには興味がない。だから結局、こんな術を試してみても意味はない。予測して、回避しようとしても無理なものは無理だったり、予測することすら、決められていたり。
「じゃあ君にとって意味のあるものにすればいいんだよ」
徐に頭上で一際輝くひとつを指差して、高らかに声をあげる。
「あれに君の名前をつけるとか」
たったそれだけで価値が出るなら、容易い話だ。呆れてため息を吐きながらその指先を辿って夜空を見上げる。
そいつは今までに見たことのない光を放っていた。
Date: 2014/12/18(木) No.39
(彗星を見つけました。お題頂いたもの)
■停戦日(サタシェ)
真白のベッドシーツの上で、気怠そうにこちらを見上げる赤い眼がすうっと笑みを浮かべた。両腕を突き出して何だ構ってほしいのかだなどとのたまう口が非常に厄介だ、そりゃお前のほうだろう、指摘はしないが。もう散々そう返事をしてはひっくり返されてきたから、もうこいつには何の期待もしたくない。
床に座り込んで待ちの姿勢を取る。飽きたら帰る筈だ。退屈で寂しがりの魔王は、その数多い退屈しのぎの相手から俺を選ぶとき、大抵理由は明白である。
己になりたいのだ。
「遊んでやると云っているのに。つまらんやつだ」
本当は、その身勝手さを、理不尽さを、突きつけてやらねば気が済まない。他の誰にも渡せないものを、ただ一方的に此処に置いては積み上げる。その不毛さが迷惑だと云ってやらねばきっと誰もそれを知ることはない。
俺は十分によくやったはずだ。よくやったはずなんだ。だから今日は休息日にさせろと。一眠りすればまたどうしたって向き合って、罵り合いをしなければならないのだから。
Date: 2015/01/14(水) No.40
■幸福論(アルルさんと)
さよなら、あの人は可哀想な人だよ。街の入り口を示すアーチの下をくぐる後ろ姿を、瞬きしながら見つめて首を傾げる。どうして可哀想だと思うの?だってあんなふうに振り返りもしない。受け取ったことがないのさ、未知のものなのさ。君の言葉に同意もできない、それが全てさ。
ますます首を傾げて踵を鳴らした。抱えた紙袋の中から赤い果実を取り出してかぶりつく。そういえば彼もこれを買っていってたんだっけなぁ。甘くて、でも酸味があって、わりと腐りにくくって。旅のお供と言っても過言ではないよねえ。肩にちょこんと乗っかる気侭な友達がぐーぐーと同意を示してくれた。既に中の種ごと食べてしまったらしい。
さようなら、君は可哀想な人だね。それからずいぶんと日も経った後でまた出会った彼は、それでも眉を顰めて軽く鼻を鳴らしただけで、背を向けた。貴様に言われる筋合いもないと、放っておけとも、散々言われ慣れた後で、返す言葉ももうないと言うのならまだよかった。
首を傾げる。扉を開けて外に出て行く彼を眺める。赤い果実を持ったまま歩き続ける。こんにちは、君は幸福な人だね。誰に伝えるでもなく呟いて、納得した。
Date: 2015/02/25(水) No.46
(お題頂いたもの)
■うしろから(レムレス先輩とフェーリちゃん)
誰が居たとは言えない。
柔らかい笑みだけを残してうっすらと、足音も立てずに後ずさる。大人たちの期待と羨望を一身に集める彗星の魔導師、あとにおいで、さきにおいで、きみは素晴らしい才能を持っている。お世辞であってもなくても変わらない、自分にとってはどうでもいい言葉の羅列を、右から左へと流してもう一歩後ずさる。ああ嫌いじゃないのになぁ、いやいやそもそも嫌いってなんだったかなぁ。おおレムレス、天才魔導師、またあの小さな町へ行っていたのかい、雑誌の取材はどうだい、魔導アイテムに関する本の執筆もすすめられているそうじゃないか、流石は天才、時代の寵児、まさに彗星のごとき……、……。
「軽蔑するかい?フェーリ」
「いいえ。あんな木偶人形たちとワタシは違います」
「相変わらずキツいなぁ。ダメだよ、せめてニンゲンあつかいくらいはしなきゃ」
「うしろばかり気にしているような連中です。運命の足音が迫っていることに気付けても、どうせ避けることなどできはしないのに」
誰が居たとは言えない。少女の薄く不気味な笑い声と共に、やはり柔らかな笑みを落とした。いつか何食わぬ顔であの群れを踏み越えていく。
Date: 2015/02/25(水) No.47
(お題頂いたもの)
■薄明り(レムシェ)
ごとりと音を立てて地面を転がったランプの明かりが、じんわりと足下を照らしていた。雲も厚くて星も見えない、冷たいつめたい雨の夜で、街からも遠く離れた場所で、他に頼るべきものもそれしか今は無い中で、しかし拾い上げも立ち上げもせずにその場に座り込む。傍らで眠るのは、そうであってはおかしい人だけども、決して無防備に背を向けられているわけではないしかといってはっきりと拒絶を示されているわけでもない。受け入れては貰っていないし、それを望んだことも大してないのだが、無害だとは思われている。奇妙な事で頭が少しざわざわとした。
たとえば、一瞬で有害な存在になることは可能である。
過った言葉はしかし、すり抜けて無残に落ちて砕けた。静かに上下する肩を認めてしまってはそんな気持ちが起こる筈もないだろう。どんな夢を見るかは知らない。彼がどんな行く末を望んでいるのかには、ほんのすこしばかり興味がないでもなかったが、すぐにどうでもよくなった。自分も小さな欠伸を漏らして、眠気が来たことを知る。
其処でようやく身体を屈めて手を伸ばして、転がったランプを引っ掴んだ。消すべきかどうしようかと悩んでいたら、斜め後ろから魔力の塊が飛んできて、ランプの明かりを弾き飛ばした。不機嫌そうに眩しくて寝れなかったとごちる声に軽く謝罪をして、己もその場で横になる。雨音がゆるやかに耳を撫でてゆくのを心地よいと感じながら、しかし、ただ目の前をぼんやりと照らすだけでいい、明りが欲しかったなぁと子供のようなことを想った。夢は見なかった。
Date: 2015/02/25(水) No.48
(お題頂いたもの)
■睡眠(サタシェ)
それはしばしば死に喩えられるからか、男はなかなか眠ろうとはしなかった。もともと寝つきは悪いのだとか、集中してさえいれば起きて居られることは可能なのだとか、昨日は12時間も寝ていたから今日は構わないだとか、此処までくるといい加減苦しい言い訳ばかりを何百回何千回と繰り返すのを見て、笑みを浮かべる。何をそんなに急いているのかと尋ねれば、お前には一生理解しえないことだと返された。
夜が来るのは私にも止められないことだ、理解はしえずとも思うことはある。真摯に答えてやったのに鼻で笑われて、少しむっとした。男にはしばしばそういうところがあった。不自然なバランスをしている頭と体が、何も違えないうちに浮世離れさせる結果を生んでいた。……しかし何度も夜を繰り返す。己の一瞬を考えたこともなかろう。なぜならその一瞬は常に永遠だから。お前にはわかるまい、わかるまい、わかるまい。
闇を受け入れ、闇そのものとして生きることを決めた筈の男が嘆く。夜を嘆く。夜を謗る。そして永遠の夜を嘲る。耳を傾けながら、ただ真白いシーツの上で眠らない男の額に触れた。何百回、何千回と繰り返した。
Date: 2015/02/26(木) No.49
(お題頂いたもの)
■相対(サタンさまとラグナス)
平行線を辿るだろうとは誰の見解だったか、あの少し高慢で賢しい魔女の少女の言だったか。なるほど確かにそれはそうなのかもしれないと、肘をついた机の足を軽くたたきながら、退屈そうな顔を装って見遣った。答えの出せる理論的な問題なら、ひとつずつ紐を解いていけばいいのかもしれないが。はて、理論的でない問題という言い草も考え物だ。それは一体どこから、どこまでを指す?
退屈な魔王の欠伸を、向かいの勇者が困ったように眉を顰めて咎めた。助け舟を出した方がいいかなとぼやく彼に、放っておけば良いと如何にも面倒臭そうに返す。
「ああいう手合いはさっさと頭打ちした方が早かろう」
「サタンって当事者外のことになると雑だよなぁ」
雑。という評価に心中で首を傾げた。なるほど、雑なのか。
「まぁどうでもいいからなぁ」
「だろうな。でも、俺はどうでもよくないんだよ」
「勇者の鑑か」
「なんとでも言えよ。お前も魔王の鑑なのかって訊かれてそうだって答えるのか?」
席を立ち、少し離れたところのテーブルで言い合いを続ける男女ふたりの間へ割って入る。その瞬間、一字一句違わず見事な二重奏を奏でた声に両耳から責められた勇者の鑑を、今度は楽しそうに口元をゆるめてながめた。なるほど、平行線でも発見はいくらもあるようだ。彼らが気付いているのか居ないのかだけが気がかりになる。
Date: 2015/02/26(木) No.50
(お題頂いたもの)