every30minuteログ ぷよ2

※非常に雑食カオス無節操です
※大した説明事項もなくむちゃくちゃにつっこんであるので注意してください





■愛情料理(ARS)

ルルーが爆発させてしまった鍋を水で洗いながら、火のまわりで散々口論している2人をボクは横目で見守っていた。人が隣できちんと指示してやったというのに何故聞かない!?何故自己判断する!?そんでどうやったらあんな風に爆発する!?それはこっちが聞きたいわよ!あんたこそちゃんと手順通りに教えてたんでしょうね!?当たり前だ馬鹿!毎度毎度ゲテモノ食わされてるのはこっちなんだからな!!……そんな堂々巡りな会話は、途中からほとんど右から左へと流れていってしまった。どうでもいいけど、2人とも口を動かすなら手も一緒に動かしてほしいなぁ。
焦げを落としてある程度消毒も終えて、ようやく綺麗になった鍋を、今度はシェゾに渡す。実はこの3人のなかで、一番料理が得意なのはシェゾだ。ボクもできない事はないけれど、味については以前ルルーにもシェゾにも酷評されたのでどうやら味覚に問題があるみたいで、そういえば大体カーくんと一緒にしか食べないから気にしたことないやと言えば、2人とも神妙な顔をして傍らの彼を凝視していた。

ルルーは料理ができない。今までしなくてもいい環境で育ったからノウハウがひとつもない、のに加えてちょっと不器用だ。更にせっかちで短気だから、ゆっくり待たなければならないところで待てなかったり順番をぐちゃぐちゃにしてしまったり。多分向いてないんだろうし無理してしなくてもいいんじゃないかなぁとボクは思っているけれど、どうやら当の本人は、サタンの良いお嫁さんになる為にわりと真剣らしい。恋っておそろしい。
鍋を渡されたシェゾが黙々と料理をするのを、ルルーが隣でじっと観察している。多分、いや間違いなく技術を盗もうとしているんだろうけど、眉根を寄せてシェゾの手元を睨んでいるルルーの様子を見る限り、シェゾが一体何をしているのかはあまり理解していないような気がした。途中で視線に耐えかねたシェゾが犬でも追い払うような仕草でルルーに手を翻し、それにルルーが怒ってまた言い合いになったりもしつつ、夜も更け月も高く上った時間にようやくボクたちは食事にありつけることができた。

シェゾは確かにボクたち3人の中では一番料理が上手いが、それは彼がレシピ通りに作るわりと真面目なタイプで、小器用な性質であるからであって別に料理に特別なこだわりがあるわけではないのだ。胃も結構強いらしくて、ルルーのトンデモ料理も一応食べてしまえるのだから驚きだ。……ボクは二口くらいでお腹を壊したのだけれども。そんな目に遭っても別にルルーが料理をしたがるのを特別止めたりはしていない。一度言い出したら聞かないから、っていう理由もまぁなくはないのだけれど、何よりルルーは真剣だったから。でもやっぱり自分の胃は守りたいので、今回はシェゾが横で指示したらどうかと提案してみたのだ。結果は失敗に終わった。そううまく事というのは運ばないものらしい。

特別美味しいってこともない、でも真っ当に出来上がった食事を前に、ルルーは耐えかねた空腹に動かされてそれを口にしつつも、悔しそうに横目でシェゾを睨んでいた。シェゾは勿論知らん顔だ。付き合いも長くなった今、それが少々得意顔であることもボクにはわかる。
ぶっちゃけサタンはお嫁さんが料理できようができなかろうがあんまり気にしなさそうなんだけどなぁ。どうでもいい事をかんがえながら、妙に険悪な空気を醸し出す2人を交互に見つめながら、ボクはちょっと面倒くささと眠さの入ったあたまで、もうシェゾとルルーが結婚すればいいのに、と、本人たちに面と向かって言えば色んな意味で顔を真っ赤にして怒られそうなことを想ったのでした。


Date: 2014/07/25(金)




■線(レムシェ)

子供の字を訂正した、その手は汚れてあまり綺麗ではなかったが、渡されたペンが描いた線はどこをとっても流れるように綺麗だった。思わず意外だねえと言ってしまって思い切り睨まれて、困った顔で首を傾げる。そのまま次は、僕に渡されたペンが紙の上を滑る。
「……お前のは読みにくい字だな」
「そうかなぁ?」
紙とペンは丁重に持ち主のてのひらへかえす。片ずつで色の違う少年の両の目がぱちぱちと瞬き、駆け出したかと思うともう姿は友人である少女のもとにあった。珍しく押し黙ったままその光景を見つめる彼の手は、もうペンではなくて禍々しい気を放った剣を握りしめている。勿体ない、とは、僕が言う台詞ではないだろうなあ。言ったところで何もない。ただひたすらに綺麗な線を描いていた。何の変哲もないそれを、ただ僕が認めただけのことだった。


Date: 2014/07/26(土)




■嫌悪(シェアル)

それは強さではないのだと言われている気がして、ひどく苛立った。わかっている、否定されたなんて被害妄想に陥っているのは自分の所為だ。抱き込んで歪ませられた意志が己の物ではないと呻く、心が呻く。差し伸べられる手の柔らかさは、今の自分には似ても似つかず、しかしきみにもこんな時期がきっとあったんだよねと笑うその目に、首を縦にも横にも振れない。運命に足を取られるように、意図されたかもしれない方角へ歩むことを信じながら、未来は暗く、何も見えないまま、そもそもそんなものが存在するのかどうかも己には理解ができない。なのに過去は、今其処にしがみ付くこの体がすべてを証明するように、誰の胸にも積み上がっていた。
それは強さではないのだ。目を背けて全力で走り続けて、随分遠くまで来たようで実のところ何からも逃げ切れていない。巨大な球体の上でひたすら鬼ごっこを続ける不毛を知っても、やめることができないのは、弱さを信じられるほどやはり己が、強くないからなのだろう。耳に聞こえた哄笑に歯軋りして、ひたすらに振り上げる腕は空を切り、一体何と戦っているのかと誰かが後ろで囁く。そんなものは知らない、でも自分の邪魔をする奴は、だれであっても許さない。そんなものは幻想に過ぎないのにね、可哀そうにね。君が目を背けたいのは自分のからだなのだよ。嘲るような声には聞き覚えがあるようで、その実一度も耳にしたことなどない嫌な響きがした。

それでいいじゃないかと屈託なく笑うその目がやはり憎かった。その生き物は弱さを包んで、きっと赤子を愛でるように抱きしめるのだろう。何の見返りも求めず、ただひたすらに身勝手な情を其処に浮かべながら。

でも俺はそれが嫌なんだ。嫌なんだよ、アルル・ナジャ。


Date: 2014/07/28(月)

(わりとお気に入り)




■加減(サタシェ)

両足をベッドの脇におろし、そのまま立ち上がろうとしたところで動きが止まる。長い沈黙が続いたのち無遠慮に開いた部屋の扉から現れたサタンがひょいと小首を傾げてその様子を認めた。
「どうした?」
声を掛けても動かない。上半身を覆うように肩からひっかけたシーツが滑り落ちても、動かない。下方に僅か傾いた目は、瞬きを繰り返しながら足下を見つめたままである。わざと足音を立ててサタンが近づき、両膝の位置に目線を合わせるようにして彼の前にしゃがみ込んだ。そうやって覗き込んでようやく、黒目が動いてサタンを捉えた。忌々しそうな、厄介者を見つけた目だ。言外に何処かへ行けと語っている。
「成程、わかったぞ」
暫し目と目を合わせ、互いに牽制しあっていると、突如サタンがにんまりと楽しそうな笑みを浮かべて手を叩いた。
「腰が痛くて立てないのだな」
「違う!!!」
忍耐勝負のように引き結ばれていた唇はあっさり瓦解する。ようやく喋ったな、と勝ち誇ったように笑うサタンの腕が、目の前の足へと伸びた。がしりと容赦なく掴みあげられた足首に悲鳴を上げて彼が身を固くさせたのを確かめて、みしっ、と軋む音が聞こえそうな程力を籠めた。必死にベッドの上へ足を引き上げようとするのを全力で阻止する。
「感覚が麻痺していると大変だな?」
「貴様のせいだろう、がっ!!」
「ほらさっさと治すといい」
腫れあがった部位に翳された掌から流れる力の波が、ゆるゆるとそこを囲んで癒しを施す。自分でやったくせに、自分で治すのか、わけがわからん。呟きはあまりに小さくて、足首を持ち上げたまま楽しそうにしているサタンの耳に聞こえたかどうかは、わからなかった。


Date: 2014/07/28(月)

(サタンさまはDVの素質がありそうだとかなんとか)




■旅の足音(ラグシェラグ)

広場に出来た人だかりが目に飛び込んでくる。波のような間隔で時折上がる歓声から、ああ、旅芸人がきているのだ、と容易に推測はついた。つま先に力をこめてぐぐと背伸びをしてみるが、この体では人の足と背中しか見えず、楽しげな音楽とステップを踏む足音だけが耳に届いて少し顔を顰める。

少し前を悠々と歩いていたシェゾが、振り返って俺を睨んだ。
「何してんだよ」
「あ、シェゾ。旅芸人、旅芸人がきてるみたいだぞ」
「そんなこと知ってる」
言いながら、シェゾは群がる人々の頭越しにその向こう側、広場の中心に目を遣っていた。先に通り過ぎたときにはそっちを見向きもしてなかった癖に。俺は躍起になって背伸びを繰り返した。
そんなことをしても見えないものは見えないままである。
「なんだ、みたいのか」
「うん」
「だったらそのへん掻き分けて前行ってこいよ」
「いいよ、そういうんじゃないからさ」
それに荷物もあるし。そう言って背負った分と抱えている分とを示すと、シェゾが真顔で手招きをしてきた。首を傾げて近くまで駆け寄ると、シェゾは荷物を地面に降ろし、徐に俺の両脇に手をかけたかと思うとそのまま持ち上げた。
「うわわわわ」
あっさりと地面から離れた足に気を取られ、驚いた声を出す以外に反応できずにいると肩に乗せられた。が、少々バランスが悪かったのが気に食わなかったか、軽く舌打ちをしたのちにシェゾは首を前に傾け、俺の両足はそれぞれ右左とシェゾの両肩に片方ずつかかる体勢になった。
思わず下を向いて、やはり真顔のままのシェゾに何か言おうと口を開く。が、前を見ろ、と鋭い声に促されてようやく、渋々と、ゆっくり顔を上げた。


Date: 2014/09/02(火)

(踵よっつの閑話休談的な)




■墓場の男(シェゾとルーンロード)

そういえば、あの墓場の男はひどく美しい顔をしていた。一見して、その真白な肌と流れる銀糸の髪は、死人のような……実際に死人だったわけだが……印象と共に、得体のしれない危機感をこちらに覚えさせるものであったが、しかし、男はどこまでも作り物のように美しい造形をしていたのだ。


Date: 2014/09/20(土)

(なんかルンロさんの話かこうとしてた覚えはあるんだけど肝心の中身を忘れた)




■帽子(アルルル)

茹だるような暑い日々は終わりを告げても、地面を焦がす太陽の光が弱まることはなく。肌が焼けるとか汗をかくとか、隣を歩くルルーはさっきから文句ばかり言っている。買い物に行くからついてきなさいってぼくを引っ張りだしたのはルルーなのに。いつも荷物持ちについてきてくれるミノタウロスは、今日だけちょっとお留守番をしているらしい。多分、部屋の片づけをさせられてるんだと思う。ルルーは散らかすだけならなかなかの腕前だ。

ルルーはつばの広い、真白で可愛い帽子を被っていた。それどうしたのと訊けば、随分前に買って存在を忘れていたものだという。いざ家を出ようとしたらあまりの日射しに、思わずクローゼットを漁って引っ張り出してきたのだとか。
うん、それよく似合ってるよ。ルルーには白がよく似合うね。ぼくはあまり、白とか黒とかが似合わないからちょっとうらやましいなぁ。
捲し立てるように喋って笑って、額に流れた汗を拭った。ぎらぎら日射しは嫌いじゃないけどやっぱりちょっときついかもしれない。そう思いながら雲ひとつない空を見上げようとしたとき、突然頭の上に何かが乗せられた。視界の上部がすこし塞がった。驚いてへんな声が出た。
それはルルーの帽子だった。おそるおそる隣の持ち主の方を見遣ると、何故だか真面目な顔をして顎に手を当てて、あら、あんた案外似合うじゃない、少しはお子様っぽさも抜けるんじゃない?なんて失礼なことを呟いていた。


Date: 2014/09/29(月)




■アイス(ラグアル)

似合わないことをさせるのはそれなりに好きだ。かんぺきで崩れの無い、できあがった人間なんて生きてるものの中には存在しないなんて、そんな傲慢で高尚なことは考えていないけども。それでも相手をおんなじ土俵までつれてくるのが好きだ。対等になりたいわけじゃない、ただ対等でなければ、話せない。

でもこの人を対等まで持ってくるのは、なんか気が引けるなぁ。そう思ってしまうのは、ぼくがこの人にすこしばかりの憧れを持っているからなのか、はたまたこの人自身の為せる業なのか。

「三段アイスがねえ、食べたかったんだよ」
コーンの上に乗せた三色のそれは、じわじわと溶けて混ざり合っていくから、その前に舌で舐め掬って口の中に流し込んでいく。へえ、と相槌を打ちながら、目の前の彼はカップに入った三種類のそれを、順番にスプーンでつついて迷っているように見えた。その仕草はほんとうに普通の男の子みたいでちょっとかわいかったが、やっぱりどこか、違和感があった。
「好きに食べたらいいのに」
「わるい、こんなの食べたことないからちょっとわかんなくって」
「ラグナスなんにもわるくないよ?ぼくに弁解してどうするのさ」
「そうだな、悪い」
「だからー」
ずっとこんな調子だ。前にシェゾに食べさせた時も、似たようなやり取りをしたけれど、あっちはあっちで悪かったな食べたことがないんだからとやかく言われても知らんなんて開き直られたし、こっちはこっちでなぜか申し訳なさそうにしっぱなしだし。

どこまでも対等じゃないんだなぁ。

いや、別にかまわないのだ。対等じゃないことくらい。話せないことがたくさんあるくらい。でも残念に思う心と同じくらい、君はそのままの方がいいなぁと思う心があるのが、自分でもよくわからなくてぼくはただ笑って今は溶けかかったそれを消化していく。


Date: 2014/09/29(月)

(実はラグアルがむっちゃ好きです)




■菓子の山(レムシェ)

一日に菓子なんて、ちょっとも食えればいい方だ。直ぐに胸焼けする。許容を超えたらその日はずっと口のなかが気持ち悪くて、吐き気とまではいかなくても何かが胃がこみあげてくるような気がして。決して嫌いなわけではないし、頭を働かせるのには丁度いい代物だよなとは思っているのだが。だがしかし。

そんなこんなで一日ひとつ、なんて悠長な真似をしていたら、何時の間にか積み上がっていた菓子の山。全部あの甘党魔導師の所為なのだが、俺のところに置いて行かないで持って帰るか餓鬼どもにやるかしていけよ、と思いつつ、実際にそれを面と向かって伝えつつ、何故だか不毛を繰り返している。苛立ちを覚えるほどのんびりとしていて、しかし人当りはよくそれなりに面倒見も悪くない癖に、あれは俺の話を聞き入れたことが実は一度もない。何かと困ったように笑って見せてはごめんねと謝って結局改善しない。

舐められている。たぶん、そうなのだろうとは思っているのだが。
積み上がった菓子の山をひとつひとつ崩していく。どれもクソ程に甘くて思わず眉間に皺が寄る。まずくはない、むしろ美味い。でもひとつずつしか食べられないから、何時まで経っても山は高いままだ。どうしろっていうんだ畜生。悪態を吐いても口のなかはじんわりと甘さを残して毎日、そのままになる。


Date: 2014/10/01(水)




■菓子の山2(レムシェ)

見返りを求めて良かった事は一度もない。だから今も、僕は自己満足です、自己満足のためにそうしてるんですなんていくらも言い訳してみても、その奥底で傲慢な魂が首を長くしているのは変えようのない事実で。
誰かに認められてはじめてそれは存在していたことになるから。誰かに食べて貰えてはじめてそれは確かな価値を持つから。建前はたくさんあって、そのどれも口にするには容易くって、主張するにも足ると思っていて、だけどそのどれも、彼の前では言えないのは、だからそう、自己満足、自己満足なんだと言っていなければきっと期待してしまうからだろう。僕はきっと、貴方が考えている以上に浅ましい人間だ。おとなしくそんな生き物に収まっていたいわけではないけれど。

俺じゃなくって餓鬼どもにやってこいよと言われたのはこれで何度目だろう。勿論その度にそうだねあとで持っていこうかなと返してはいる。本当はひとつとして持ち出していったことはない。そろそろ呆れられて追い返されてしまうかもと思っているのに、彼は一向にそんな素振りもなくて、けれども特に僕のことをどうこうと言いたいわけでもなさそうで、つまりはそういうことだった。
大丈夫、自己満足。価値なら、ひとりでに見つけて、勝手に拾い集めていればいいから。

今日も彼のところに菓子を幾つも積み上げる。
「あ、」
そうだ、と、僕の手を見て彼が、どことなく無防備に口を開いた。
「こないだのシュークリームは美味かった」
何故それを伝えようと思い立ったのかなんてわからない。正直ちっともわからない。本当に無策な言葉だった。でもああそう、そういう人だったなぁ君はとどこかで納得しても居た。

互いにこの菓子の山の前で首を捻り続けている。


Date: 2014/10/01(水)




■愛し(レム←フェリ)

今日もプリンプへ行こうか、と微笑み私の手を取る貴方の心の底を知っている。穏やかな時を望んでいるというには少し平凡で、けれども喧しいから静かにしていてほしいと粗野に放り投げるには、柔らかな感情が、其処には棲んでいる。私はそれを知っている。誰よりも貴方の側に長く居て、誰よりも貴方を見続けてきたのだから。

球体の内側を目視することは叶わないでしょう?ナイフを突き立てて、断面を確認してもそれはもう元の球体ではありえないわ。だから私たちは目に見えないものを信じることをする。確実がない、論理がないなんて無知を振りまく木偶たちの声には耳など貸さなくても構わないでしょう。真実を紡ぐ口も持たない可哀そうなものたち。
見なさい。実力と名声をその身に背負いて、期待と歓声をその身に浴びて、内から蝕む欲にも目を眩ませずただひたすらに美しい彼の姿を。圧力を受けても尚歪まない背筋と、決して緩やかなだけではない貴方の全ては、私の言葉では賞賛などとてもしきれない。完成を見ない事項も今は未だ、貴方にとって大成のときではないのだ、瞬く星の合間に答えを聞いてもそうだった。
決して自己だけで完結をさせないその心の底を、私はいつでも信じて見つめる。貴方がかつて、私の其処に触れたときのように、何時か私も其処に触れて、貴方を知る以上に貴方と共有できたらと願ってはいるけれど。貴方が大成していないのとおんなじ、私もまだ、貴方の底に、触れられるほど綺麗ではないの。削ぎ落として削ぎ落として付け足して、私も貴方に相応しくなりましょう、等しく環を紡げるくらいには、きっと。


指先の熱は、温くて、でも少し熱くて。
今日も貴方は私の頭を優しく撫でて、迎えてくれる。
ああレムレス、彗星の魔導師。麗しき隣人、運命の人よ。私は知っている。貴方を知っている。こうしてずっと、貴方の見えない部分を信じている。

私だけが、貴方を知っている。


Date: 2014/10/06(月)




■知識(クルークとまもの)

本棚の中で礼儀正しく整列していた本たちは、毎日順番にひとつひとつ取りだされて机の上に、床の上にと積み上がっていく。いつの間にか本の山に取り囲まれていた。もう殆ど読み尽くしてしまっていて、残っているのは今しがた椅子の上に乗せた数冊のみだ。本棚の中はすっかり空っぽになっている。
月明りも頼りない夜だった。部屋を照らすランプの明かりも油が残り少ないのかあまり奮わず、仕方なくライトの呪文を唱える。魔力の光源が先よりも周囲を照らし上げた。同時に、机の脇にひとつだけ、他の本たちとは大きく離されて置かれた古めかしい本から、禍々しい影が伸びはじめた。影は光を受けて、黒い輪郭だけを壁に映し出す。
「また君かい」
光を高く掲げてやりながら、わざとうんざりしたような声を上げた。影も呼応するかのように、うんざりとした声を響かせる。
「また本か」
「何か問題でもあるのかい?君には関係ないことだろうって2日前にも言った気がするんだけど」
本を読もうと席に着くと決まって何故か現れるのだ。勿論何もできないはずなので何もしてこようとはしないのだが、横でぶつぶつと煩いことを呟いてくるから、気が散って仕方ない。いや、きっと故意に妨害されているのだ、意図までは掴めないが。

「知識は、知見の下で正しく力を発揮するものだろう」
「何がいいたいんだい」
「持ち腐れだと言っている」
「僕の?一体何処が!」
「他人からの評価の前に、その大部分の価値を置いている点が」
「聞き捨てならないね。他者の理解がなければそれこそ持ち腐れじゃないか。認められることの何がいけない?」
「幼稚だな」

そして傲慢だ。どこまでも冷たく落ち着いた声は、重たく胸に圧し掛かる。
「私の最も忌むべき人種だ」
それでも怯みはしなかった。その言葉を鼻で笑う。声の持ち主は、どうせ影でしか存在しえないのだから、恐れる必要などなかった。
「負け惜しみかい?その幼稚で傲慢な人種が、君をその姿にさせたんだよ」
「…………」
「君だって私怨があるんじゃないか。まるで自分がまるきり正しくて綺麗なものみたいに言わないでくれないか」

影がそろりと本の方向へと姿を縮める。そこから感情は図り得ない。怒っているのかもしれないし、憤っているのかもしれないが。ようやく黙り込んだ影に向かって大袈裟にため息を吐いて、椅子の上の本を抱え上げた。


Date: 2014/10/06(月)