やぁ、君。こんな道の端っこでどうしたんだい?空を見上げてご覧、もうすっかり日も暮れてきた。最近はいろいろと物騒だからね、君みたいな愛らしい男の子がこんなところを歩いていちゃいけないよ。

・・・それとも、お家に帰れない理由があるのかな?



ふむ・・・そうか、道に迷ってしまったのか。
たしかに、この辺りは土地勘がないと難しいかもしれないな。なにせ建物が入り乱れているものだから。どの辺りから来たのかもわからないのかい?うーんそれじゃあどうしようもないなぁ。

ああ、泣かないでくれたま可愛い迷い猫ちゃん。ひとりで心細いなら、そうだ、ボクが歌を歌ってあげよう。そこの樽の上に座るといい、なぁに遠慮することはない。今は君のためだけのコンサート、そこは立派な観客席だよ。





・・・ボクも昔はよく迷子になってね。虹の始まるところを探しに行ったんだ、そしたらいつの間にかすっかり家から離れてしまっていて。夢中だったからどんな道を歩いてきたのかもすっかりわからなくって。ちょうど、今の君のように、道の端っこをとぼとぼ歩いていたんだ。
だけど歩き疲れてしまって、辺りはもう真っ暗で。しかたないから、こんなふうに樽の上に座ったのさ。それで空を見上げたら、建物の隙間から星がたくさん見えてね。それがびっくりするほど綺麗でね。

だから歌を歌ったんだ。・・・家に帰れなくなってることも忘れて。それはもう、堪えきれない程の感動だったからね。気分よく大きな声で歌ったよ。


・・・君も歌ってみるかい?ははは、恥ずかしがらなくていい。でも無理強いはしないさ、代わりにボクが大きな声で歌ってあげるからさ、そのときみたいに。ね?



おやおや、なんだかヒトが集まってきてしまったな。ふっ、さてはボクの天才的なリュートテクニックと天使もおののく美声に惹かれてきたんだね。・・・え?大きな音を出したから何事かとおもったに違いないって?ははは、でもほら何となく辺りが明るくなっただろう?

・・・それに、お迎えも来たみたいだよ。



あれはお姉さんかな?君によく似て可愛らしいお姉さんだ。きっとあれは君に手を振ってるに違いないよ、さぁ早くいってあげるといい。

なあにボクのことは気にしないでくれ、君がひとりじゃなくなって良かった。それじゃあ、今度ははぐれないように帰りたまえよ。ああ、それじゃあ。







ふっ、可愛い子だったね。あともう四、五年もすれば驚くほど美人になるに違いない。将来が楽しみだぁっあだだだっ、耳を引っ張るのはヤメテ!!

全く、ミュラー君はすぐ暴力に訴えるんだからぁ。勝手に行ったことは謝るよ、だけどちゃんと居場所は知らせただろう?

ああ、ため息ばかり吐いていると幸せが逃げてしまうよミュラー、ボクと一緒に笑おうじゃないか。ほらあの時みたいに星空が美しく瞬いているから、歌を歌ってみるのも悪くない。君がもし迷子になったときはそうやってボクを呼んでくれ。



君がどこにいても飛んでくるように、ボクだってどこへでも飛んでいく覚悟はあるんだ。








踊る四足、歌う二重奏



軌跡にはまって最初にかいたもの。
今更ながら4つセットにする必要あったのかなとか思うけど、それで公開してたからまあいいやとそのまま掲載します。