every30minuteログ 軌跡2

※非常に雑食カオス無節操です
※大した説明事項もなくむちゃくちゃにつっこんであるので注意してください





■湯あたり熱1(閃・リィユシ)

目覚めたらベッドの上だった。体を起こそうとしたら酷い眩暈がした。血流が悪くなっていることは確実だった。首だけを動かしてベッド脇を見たら、リィンが居た。わざわざ椅子を近くまで持ってきて、背もたれに腕を置いてその上に頭を乗せている。そしてすやすやと眠っている。状況把握に時間がかかった。
俺の記憶は一体いつまでは正常に機能していたのだろう。…おそらく、夕飯のあと風呂に入って、…あがろうとしたときまで。
「ん……?あ、ユーシス!」
どうやら気配で目覚めたらしい。仮眠をとっていただけなのだろう、顔をあげて少し身を乗り出してきて、大丈夫かと言った瞬間に背もたれが傾いてベッドに倒れ込んできた。咄嗟に避けたので頭突きを食らう嵌めにはならなかったが、正直驚きすぎて何も言えない。
「いてて…ご、ごめんユーシス。ちょっと勢いづいた」
それより大丈夫か?と徐に伸ばされた手は額にくっついた。そのまま首筋にもひっついた。ひんやりと感じる手がこそばゆくて身動ぎすると、やっぱり眩暈がした。
「リィン」
「うん?どうした?」
「俺は一体どうなった」
「ああ、うん。風呂場で倒れた」
「倒れた?」
「熱があるんだよ。なのにいつもの調子でちょっと長風呂しただろ」
もともと湯あたりしやすい体質なのに、と余計に付け加えられた一言には文句を言いたかったが、どうやら無様を晒したのは事実らしい。頭を抱えたくなった。


2013/12/01 (Sun) 0:28

(たぶんちょっと続く かも。よく考えたらリィユシこっちで一回もかいてなかった気がして)




■スピードリーディング(ガイユシ)

本棚から拾い上げてきた適当な歴史書3冊を、1冊広げ、2冊広げ、目次で中身を確認しながら3冊目を広げる。そして1冊を選んで頭からぱらぱらと中身を流して読み、一節を終えてもう1冊へと手を伸ばす。その一連の行為を何故かガイウスがじっと見ていた。
「ユーシスは頭が3つあるのか?」
この男は時々ものすごく反応に困ることを言うときがある。
「そんな訳ないだろう。速読の要領だ」
中身を一字一句逐一頭に入れるなんて、レーグニッツじゃあるまいし。
「必要な情報だけを掻い摘んで読むという方法もあるということだ」
「なるほど、頭が3つあるわけではないのだな」
「……」
ガイウスは神妙な顔で深く頷き、自身が選んできた本を机の上に並べだした。並べた3つの表紙を順番に眺めて、首を傾げて見せる。ため息を吐くしか、なかった。


2013/12/03 (Tue) 21:28




■祝辞と体温(アルバレア兄弟)

合格の通知が来たことは出先で既に知らされていた。なのに屋敷の門が重々しく開かれる音を聞きつけて、いつもより少し落ち着かない様子で出迎えに現れた弟が、愛おしくないと言えば嘘になる。だから極上の笑顔で出迎えを受けてみたら一瞬で眉根が寄せられた。
「おめでとう我が弟よ、これで4月からは晴れて士官学院生というわけか」
「ありがとうございます、兄上」
「ふむ、労いは額への口づけでよかったかな?」
「…兄上」
「ふっ、そう不審な顔をするものではないよ。…ユーシス、来なさい」
未だ少し不服そうに手招きする手をじっと見つめていたが、やがて遠慮がちに距離を詰めてくる。こうして並ぶと弟もすっかり大きくなっていて、気付けば身長は自分よりもわずかに目線が下にある程度の差だ。
目の前までやってきた弟の体を、抱え込むように、頭ごと包み込むように、使用人たちが見ている目の前で柔らかく抱擁した。剣術と乗馬も嗜むようになって体つきもしっかりしてきている。まだ成長期も終わっていないとしたらいつか目線も同じところになる日が来るのかもしれない。それはそれで、さびしいような悔しいような。しかしその甘い体温だけは、初めて分け合った頃から少しも変わっていないように、思われた。


2013/12/04 (Wed) 22:14





■視線(ユシマキユシ)

生徒会の一員らしき緑の制服の女子生徒が目の前で派手に転んだ。そのまま立ち去るのも白々しかったから手を貸した。転んだ拍子に抱えていた幾つもの細々とした荷物が周囲に散乱したため、それらをかき集めてもう一度手に戻してやり、申し訳なさそうに頭を下げてくる女子生徒に次は気をつけろとだけ告げた。一緒に運んでやるという選択肢はとらなかった。…あのお人よしならやったかもしれないが、そこまでしてやる義理などユーシスにはなかったし、何より相手がそれを望んでいないことを何となく悟っていた。

速足で去っていく女子生徒の後ろ姿を最後まで見送りもせずに踵を返すと、廊下の先に居たマキアス・レーグニッツと目があう羽目になった。
「何をしているんだ、貴様は」
「…別に、たまたま通りかかっただけだ」
眼鏡を押し上げながら憮然とした態度で口にする。相変わらず撥ね付けるような言い方だった。
「だったらさっさと行くがいい。俺はお前相手に見世物をしたつもりはないぞ」
「そ、そんなことはわかっている!」
何かを告げようとして口を少し開いては、やはりやめておこうと小さく首を横に振っている。立ち去ろうと隣を抜けると眉根を寄せて複雑そうな視線が送られた。探るような、不可解なような、しかし納得できないわけではない、煩わしい視線だった。

それは彼から受け取る数多くのものの中で、ユーシスが最も嫌っているものだ。すれ違って少し振り返る。深々と、大袈裟に、できれば今しがた去って行った人物に届けばいいと思いながら、ユーシスはため息を吐いた。


2013/12/04 (Wed) 23:11

(寝ながら書いてたらいろいろミスってたので修正)




■図書館でーと1(ガイユシ)

同い年の男子の中ではそれなりに身長はある方のユーシスだが、それでも本棚の上段の棚まで手が届くような程ではない。そもそもこういうのは、人間の手が届くようにはじめから想定なんてされていないのだから無理をする必要はなかった。周囲に視線を走らせて、足場を探す。それは意外に近くで見つかった。
自分よりさらに少し目線の高い男がそのうえに立っている。
「ガイウス、終わったら足場を貸せ」
「ああ。すまない、すぐ降りよう」
どうせ、目当ての本を探していたら他にも興味深いものを見つけてしまって、その場で中身を確認したり他の棚も覗いたりしていたのだろう。それが一概に悪いことと思わないが、この男は時々そんな風にとてつもなく要領のよくないときがある。
床を擦らないように持ち上げて、目的の棚のもとまで運んでいく。徐に足をかけようとしたところで、ガイウスが本を抱えたまま同じように移動してきていたことに気付いた。
「……どうした、まだ使うのか」
「いや。足場を支えていなくて大丈夫か?」
確かに、少々心許ない足場ではある。整備はきちんとされているようだが、古い型のものらしい。
「先にお前も乗っていただろうが。心配するな、無様な真似はしない」
「ふむ、そうか」
納得したといわんばかりに深く頷いてみせたから、少しため息を吐きつつも足場に登った。やはり少々バランスは悪いが、うまく立ち上がって目当ての本を棚からさっさと抜き取る。周囲に類似本がないかは勿論確認するが、無駄な所作は一切含めずそのまま降りようとした。
ガイウスはまだそこに居る。
「……無様な真似はしないと言わなかったか?」
「確かに言われたが、やはり危ないから念のためにな」
「………」
「ユーシス、降りてこないのか?」
「…今降りる」
床に両足を着いたのを確認して、ガイウスは満足そうに頷いた。この男についてはもうひとつあった、存外言うことを素直には聞かないのだ、と。ユーシスは分厚い本を抱えながら当の本人を見上げて睨んだ。


2013/12/10 (Tue) 1:39





■続・委員長(フィーとエマ)

エマは滅多に怒らない。だけど時々、何も言わずに静かに怒っているときがある。いつも穏やかで、しっかりしてて、頼りになって、だけど冗談やからかいには弱くて。だけど怒ってるときは、本能でわかる。エマは怒らせるととてもこわい。
「フィーちゃん、手伝ってくれますか」
「らじゃ」
そして怒ると、逆に氷のように冷たくなる。ある意味アリサとは対照的だ。アリサは怒るとそのまま感情が爆発して、感情の向きによっては手だって出る。でもそれはとてもわかりやすいから、わたしにとってはエマの方が、よくわからなくて、こまる。
「マキアスさん、そっちの薬草お願いできますか」
「あ、ああ」
突然指名されて慌てたようにマキアスも手伝いに加わる。眼鏡の位置がずれてることも気にかからないくらい動揺してるみたいで、ちょっと気の毒だった。マキアスは、あんまり人の機微をこまかく悟るのは得意じゃないけど、その場の空気の上に乗れるタイプだ。流されやすいともいう。
「…これでしばらく安静にしていれば、大丈夫だと思います」
でもエマ、リィンの意識、戻らないよ。思ったけど口にはしない。きっと言われた通り、しばらく経てばなんとかなるんだと思う。こういうときのエマの指摘は間違わない。狂いがない。だけど、リィンが瞼を開いたとき、エマの氷みたいな怒りはどこにいくんだろうということだけが、すこし気にかかる。


2013/12/15 (Sun) 23:18





■湯あたり2(リィユシ)

ほんとうに、そのままふらりと倒れ込んだものだから。一瞬気付かなかったしわからなかったしびっくりしたし何がなんだか。ユーシス!?って思わず叫んだらその声でガイウスがやってきてくれて、すぐに湯あたりだって判断してくれた。お湯熱かったのかなぁとも思ったが、原因はわりとすぐに思い当たることになる。

「それより気分はどうだ?どこか悪いところとか」
「…眩暈がひどい」
「うーんまだちょっと響いてるのかもなぁ。水と冷やしたタオルもってくるから、無理に動こうとするなよ」
部屋を出て階段をばたばたと速足で駆け下り、水を張った容器と飲用のコップを持って慎重に階上へ上がった。少し行儀はわるいが、手がふさがっていたから足で扉を開いて机の上に並べる。ユーシスが目を細めてその様子を見ていた。なんだか眠そうな目だった。
「大丈夫か?」
容器の水にタオルを浸して思い切り絞り、眠そうな目の上に当ててやると、半開きだった目が少し開いて咄嗟に顔を引いた。
「あ、悪いびっくりさせて」
一言断るべきだった、思わぬ配慮の足りなさを反省しつつ、すぐに気分もどるからと言ってもう一度タオルを宛がった。今度はおとなしくしていた。


2013/12/15 (Sun) 23:30

(たぶん2章終わってすぐなんだとおもう。なんか前回の読まずに書いたらいろいろミスってました)




■くりすますについて(帝都ふたり)

誰が言い出したのかは忘れた。12月末の祝節祭には、ツリーを飾ろうとか、飾りつけはどうしたいとか、そういえば実家ではいつもどうしていたとか。夕飯時に盛り上がって、そうか今年は此処で祝節祭を過ごすことになるのかと思ったというだけのことだったが、そういえばここ数年は父も知事になって、共に過ごすなんてことはしてこなかったなぁとか、でもまぁ贈り物くらいは見繕うかなんてトリスタの商店街を覗きながら、まだ先のことなのに考えていた。
「最近じゃ恋人の日みたいにもなってるよね」
エリオットが朗らかに口にする。
「うーん、年末の祝節祭はそんな日じゃないんだがな…」
「あはは。普通は昼間にミサにいって、夜は家族で晩餐するんだもんね」
うっかり隣近所で集まったりすることもあるが、基本的には大騒ぎするようなものではない。そういうのは年越しでやるのが慣わしだった。代わりにその年越しの祭りはこれでもかというほどむちゃくちゃなものになるところもある。主に庶民の多い町や村々に限っていたが、訊けばユミルやレグラムなども年越しはなかなかに破天荒らしい。
「今年はみんなとゆっくりお祝いになるのかなぁ」
「そうだな…」
最早ひとつ屋根の下、家族みたいなものだといったのはリィンだったか。大きなツリーを持ち込んで、騒がしく飾り付けて美味い飯を食べるだけの日であっても、楽しめそうならそれが実ということなのだろうか。


2013/12/24 (Tue) 15:53





■くりすますは、(帝国コンビ)

「鳥を買ってくるだろう?」
「ああ」
「ケーキはいつも予約していたなぁ。毎年同じ店で、毎年違うものを頼んでいたよ。真ん中に置くチョコレートプレートには文字も書いてもらえるから」
「ケーキならきっと嫌と言うほど食える。…段重ねのとんでもないものも、見たことがないわけじゃないからな」
「それはちょっと興味があるけどねえ。ところでミュラー」
「なんだ」
「本当にいかなくちゃ駄目かい?」
鏡の前で着飾って、磨かれた靴にも今足を入れて、立ち上がったところまで完璧にこなしながら、扉付近で立ちっぱなしのミュラーに向かって困ったような顔で首を傾げてくる。
「当たり前だ。……陛下がご出席なさるのだから」
「うーん、でも元々は家族で静かに晩餐会を開くものではなかったかなぁ。各地方から有力者たちを招いて華やかに行うというのも、賑やかそうで悪くはないんだがねえ」
往生際が悪いのはいつものことだった。こういうときは、無理に引き連れようとするよりも気の済むまで言わせた方がいい。頭が回る分屁理屈も捏ねる男だが、だからこそそのまま自分の思考の先で行き着くことも多い。
「そこで一曲披露してくれとかなら喜んで参上するのだけどね。はっ、そうだそれなら勝負下着をつけておくべきだった。すまないミュラー君今からちょっと急いで着替え、」
「もう時間だ諦めろ。あと時間があっても許可せんぞ」
「ふっふっふ、そういいつつ君もボクの渾身の勝負下着が見てみたいと思っているんだろっあだっ」
「黙れ行くぞ」
無理矢理廊下へ連れ出せば、あとはもうあまり心配も要らない。きちんと背筋を伸ばして緩み切った顔を引き締め、堂々と歩きだしていく。ちゃんと会場につけば挨拶もこなしてしっかりとした受け答えをして、それでもしっかり相手を見極めることは忘れないにちがいない。毎年繰り返していることにしかし毎年渋ってみせるのは、最後の砦を自分で明け渡してしまわないためだろう。わかっていて付き合うのも、最後の砦を守っているという自覚が己の中にあるからだろう。

どんなに星の綺麗な夜だったとして、白い雪が緋の街を覆ったとして、歩いているのは茨の道なのだ。ずっと。


2013/12/24 (Tue) 22:36





■音(リィンさんとガイユシ)

傷口にはもう何の問題もない。綺麗に切れたから綺麗に塞がっているし、何より処置が早くて適切だったのが功を為したらしい。以前自分が気絶するほどの大怪我をしたときもそうだったが、やはりと言うべきなのか何なのか、さすが委員長だな、と素直に感心しつつ包帯を解き切った。
「うん、問題なさそうだな。ガイウスも特に違和感はないか?」
「ああ、痛みもない。完全に治ったみたいだ」
ありがとうリィン、と、寝台からさっそく足を降ろして動こうとするガイウスのために身を避ける。動きにぎこちなさはもうない。もともとガイウスが丈夫だったというのもあるのだろうが、衝撃の響いていた骨や腱の方もしっかりしているようだ。むしろ今まであまり動けていなかった分、思いきり体を動かしたそうにしているさまが、普段の落ち着いた印象とはまた少し違っていて思わず笑みが零れた。
「皆に礼を言わないとな」
「ああ、…そうだ、ユーシスが凄く心配してたから、ちゃんと顔見せにいってやってくれ」
「ユーシスが?」
「多分、責任感じてるんだと思う」
意外そうに瞬きしているのが意外だと思った。けれどもすぐに、ガイウスらしいな、とも思う。
「わかった。運動がてら会いに行こう」
「うん。そうしてくれ」

それにしても、本人には悪い上に不謹慎だとは思うが、狼狽したユーシスはなかなか面白かった。それでも郷に入った余裕の体勢を崩すわけにはいかなかったのは何のプライドか、リィン以外の人間にはそんな様子を見せなかったことは委員長に対するものとはまた別の意味でさすがだと思いつつ、リィンにはしつこく様子をきいてきたのがおかしかった。自分で見に行けばいいじゃないかと言うと物凄く不機嫌そうにこちらを睨んでくる。意地を張っているのではなくて、自分の所為で怪我をさせたというのが単純に後ろめたいのだろうということはよくわかった。
「たぶんガイウスなら気にしてないぞ」
「それが嫌なんだ」
「そういうところマキアスに似てるよなぁユーシス」
「そんな話はしていない。…というか、あいつと一緒にするな」
一緒にはしていないのだけれども。じゃあ動けるようになったら何かしてやればいいんじゃないかと返したのはつい昨日の夜のことだった気がする。苦労してるみたいだねとエリオットに笑われて、別に迷惑ではないから俺は何にも問題ないけど、と頭を掻くと、エリオットはバイオリンで一曲演奏してくれた。自分もふと楽器が弾きたくなった。


2013/12/30 (Mon) 22:55





■いちおう年越し(アルバレア兄弟)

真夜中の空から雪が降ってきた。どうりで窓から冷気がくると思ったと、カーテンの隙間をこっそり覗いてみる。視界が埋め尽くされる程の量は、きっと明るくなるころにはすべて庭に下り立って、きっと使用人たちに少し顔をしかめられつつ退かされていくのだろう。
不意に、背後から腕が伸びてきて両目を覆ってきた。まっくらになった視界に一瞬おどろいたけれども、この屋敷のなかで自分にこんなことをしてくるのはあの人しか居ないから、すぐに思い当たって咎めるような声をあげた。
「兄上」
「やぁ親愛なる弟よ。夜更かしは感心しないな。それに其処に居ては寒いだろうに」
先刻まで、年越しの饗宴だとかで大広間に集っていたのもあって、眠気はほとんどやってこない。昔のように、全身の筋肉が終わったあとも緊張したままでぎこちない、なんてことはさすがにもうないが。そもそもあんな空間に行くこと自体が『自分』というモノだけを見れば大きな間違いなのだろう。
「…雪が降っていましたので」
「ああ、先ほど降り出したようだ。明日はリムジンが走れないかもしれないな……ふふっ、雪は好きかユーシス」
「いえ、あまり」
「そうか」
「それよりも兄上」
「どうした?」
「前が見えません」
別に雪を見たくて見ていたわけではないから、困らないと言えば困らないが、長く視界を閉ざされているというのはあまりいい気分ではなかった。まぶたの上にかかる手はあたたかい。咄嗟に頭の中で疑問符を浮かべてしまったのは、自分とおなじで、この手は、いつもほんの少し冷たいということを知っていたからだ。
耳元で、その手の持ち主が少し笑った。
「前が見えていない方がいいかもしれないが」
「…意味がわかりません」
「今はまだ、わからなくてもいい」
未だ閉ざされたままの視界だが、しかし窓の外のわずかな白さだけは、瞼の裏に見えている気がした。


2013/12/31 (Tue) 23:41