雪が降った。夜の冷え込みが半端なかったため、怪しいとは思っていたが、案の定朝起きたら庭が真っ白だった。初雪だ。一面の銀世界にそろそろ進軍を控える時期だと欠伸した。


しばらくして小十郎が朝飯を持ってきた。今日の晩は鍋にするかと口にしたら、ようございますな、と多少機嫌の悪そうに返された。
「どうした、何かあったか?」
「いえ、政宗様が気にする程のことでは御座いません」
そう答えると早々に部屋を去っていった。
何か来たな。そう推察して飯に箸をつけた瞬間、小十郎の怒号が飛んできた。











「いいか、これは質問じゃねぇ。非難だ。てめぇの答えは聞いてねぇ!!」
「相変わらずの硬さだね片倉さーん!いーじゃんどうせ暇なんだろこの雪だし」
「つい一昨日まで戦で政宗様は昨日丸一日眠っていらしたほど疲れてんだ。いいから帰れ。でなきゃ叩っ斬る」
「ははっ、冗談!!ってほんとに抜くなよ穏便に行こうぜ!」
「じゃあ帰れお祭り男!!」










軽く漫才な叫び声に近い話し声を半分耳から耳へと流しながら、飯を腹に放り込む。味噌汁のあたたかさに感謝しつつ、皿を返そう、と普段なら思いもしなければ必要もないことを考えて部屋を出た。
「あ!独眼竜〜〜!」
小十郎曰く、お祭り男が小十郎の刀から逃れて政宗の後ろに隠れる。さらに遅れて現れた小十郎がずんずんと歩み寄る。
「政宗様、危ないですからお下がりください」
お祭り男を斬るべく政宗の前に立った小十郎の目は完全にキレていた。
それに政宗は大袈裟に肩を竦める。何で自分が小十郎にキレられてるような気分にならなきゃならないのだ。それを察してか否か、小十郎は政宗が手ににしていた皿を見て一瞬怒気を静めた。
「政宗様、それはお部屋に置いておいてくだされば後で小十郎がお運びします。政宗様が自ら為さる必要はありませぬ」
そういいながら小十郎は政宗の手から皿を受け取る。礼は特にせず、政宗は苦笑した。さらに小十郎の怒気が静まったのを確認して、後ろの男が嬉しそうに笑った。
「奥州で雪が降ったみたいだから遊びに来たんだ」
「別に奥州じゃ珍しくもなんともねぇよ」
「いーじゃん。京では冬でも滅多に降らないよ?」
「慣れ慣れしいんだよてめェは!!政宗様、お部屋にお戻りください」

再び怒気が場に渦巻き始める。ひゃー、とわざとらしく男が政宗の背後で騒ぐ。大の大人のそのやりとりを眺めて、
「小十郎、何でそんなに機嫌悪ィんだよ」
と至極普通に問うた。
この男がここに来ることはさして珍しいことではない。それこそ、奥州に雪が降ること並に頻繁なのだ。そして、問いはしたが理由は大体わかっていた。一昨日まで続いた戦で疲弊した政宗を気遣っているのだろう。自分も疲れているのだろうに。ご苦労なことである。感謝も込めてそう思った。




「まーまー!機嫌悪いならさ、楽しいことして紛らわそう!独眼竜もさぁ、折角雪なんだし雪だるまとか雪合戦とかさ」
空気をよまない・・・否、よめない男が庭を指して政宗を促す。庭一面の雪を見て、改めて寒さに身を震わせた。それを小十郎が目聡く察する。
「体が冷えます故、はやくお部屋にお入りください」
「じゃあお邪魔しまーす」
「てめェにやいってねぇ!!!」
「でもーーーーっぷし!!」































長い間のあとに、男がへへ、と苦笑い。
盛大な溜息を吐いた小十郎は、すっかり怒気を削がれてしまったようだ。
「いいぜ。中入れよ」
お前も。ふたりの肩を叩いて部屋の襖を開けた。
















「たまにゃ雪遊びもいいかもな」
「お、さっすが独眼竜 ノリ気かい!?」
「てめぇにゃいってねぇよ」
先ほどの会話を思い出しながらそう笑って返す。
少しむくれた男の後方、





空が晴れていたことにはじめて気付いて、違和感を知った。










白銀に太陽



慶次がかきたかっただけです。
小十郎は慶次が絡むとうるさくなりそう。
政宗は多分疲れてんだと思います。
珍しく暗くないね。