最近のデュオは、口を開けば止まることなくヒイロへの文句や愚痴ばかり洩らしている。ほんの些細なことからプリベンターから頼まれる任務に関する深刻なものまで、それはそれは様々だった。毎度再会のたんびにそれを聞いて、賛同したり慰めたり、その役目をいつもカトルは担っている。トロワも黙って聞いてはくれるだろうが、トロワの感性はどちらかというとヒイロ寄りだ。しかもオブラートに包んでものを言うことをあまり必要と思っていない所為で、デュオの機嫌を損ねてしまうことも多い。五飛はまずデュオのだらだらとして大げさな言い回しに黙っていられた試しがない。

だからカトルがいつもこうして聞き相手になるわけだが。はじめはヒイロとデュオの、凸凹さと言うかちぐはぐさと言うか、どうしてこうも噛み合わないのだろうと思わせられる様子に、苦笑したりちょっと本気で悩んでみたり、そんな風にうまく受け流していた。ヒイロの態度が素っ気ないのは今更として、まるでデュオを気にした様子のない任務遂行の仕方や、逆にデュオがヒイロを配慮した結果をまるで当然のように享受して感謝の欠片も見せないさまなど。戦時下やその直後はそんなことが主で、カトルもああなるほどそうかも知れないなんて言えたのだが。様々な由あってルームシェア(同棲と言っていいとカトルは思っている)をはじめたふたりの間の確執は、完全にカトルの興味を呼び覚ましてしまった。






ヒイロのデュオへの態度は、ひとつ屋根の下で暮らすようになっても大して変わらなかったようだ。カトルも思わず声をあげて笑ったのは、朝御飯にしろ晩御飯にしろ、どうせ同じリビングで同じ時間に摂るのだとしてもヒイロはデュオの分を作るという発想がないらしいことだった。俺が作ったあいつの分は何の躊躇いもなく口にするくせに!!…と、半分はポーズで怒ったり愚痴ったりしているはずのデュオが、珍しく本気で憤っていた。

他にも、家の鍵を忘れて携帯からヒイロに開けてくれるよう連絡したデュオを完全に無視し、結局ピッキングで部屋に戻った所為で鍵のセキュリティーレベルを勝手にあげられたことや、興味本意でヒイロの通う学校を訪れたデュオが、丁度体育の時間だったヒイロに声援を投げ掛けたとかで非難されたこと。ときどき聞いているだけのカトルですら詳細を話せるほど何度も聞いた話もある。しかしそんな波乱な日常の中から、目敏くカトルは僅かながらの変化を見切っていた。





「そろそろあの自分勝手なおらないもんかなぁ〜」
一緒に暮らしてるこっちの身にもなってみやがれ!と、まるで酒にでも酔ったかのようにテーブルをばしばし叩いてデュオが喚く。この言葉も何度聞いただろう。カトルは向かいの席で微笑みながら紅茶を啜った。
「君がそれだけ言ってもなおってないないんだ。難しいかもね」
「でもよぉー」
何処と無くばつのわるそうな顔をして、デュオは皿に盛られたクッキーをひとつ摘まみ上げる。そのまま口へと運んで容赦なく噛み砕くと、小さな子供のように拗ねた声を出した。

「最近ちょっと帰りが遅くなっただけでめちゃくちゃ機嫌わりぃんだぜ?がきじゃねーんだし、あいつと違って俺は仕事してるんだ、そんぐらい大目に見やがれってのに、飯がどうのとかさぁ…」
「あれ、ご飯作ってくれるようになったの?」
「ん?ああ帰る時間を伝えた日にはな。そりゃもうあいつがうんざりするほどしつこく言ったからなぁ!」

何でも、うんざりしたヒイロが帰る時間を伝えろと要求したらしい。ラップでもしておけばいいと拒否したらだったら作らないとそっぽを向かれたので、仕方無く毎日何時には終わりそうという旨を伝えている。
だがデュオも毎回伝えた時間どおりに戻れる訳がなく、予定よりも遅くなったり早くなったりするのが普通だ。なのに伝えた時間近くに帰れなければこれでもかと言うほど非難される。こっちにも都合があんだよ!と一度デュオがマジギレしたときは、三日間口を利かなかったりもした。こんなとき、大抵は怒りが冷めてしまったデュオが先に折れる。文句も多いしすぐに声を荒げるデュオだが、もともとあまり細かいことを気にしない性格だ、すぐに怒りを忘れてしまうらしい。おかげさまでヒイロは一度も、デュオにすまないなんて言葉を口にしたことがない。





「そんなに云うなら出ていけばいいのに」
デュオの愚痴を粗方聞き終わったあとに、カトルはいつも優しくそんなことを言った。そうするといつもデュオは見ていて可哀想なぐらい狼狽えた様子で、うーだとかあーだとか言葉にもならない声で唸り出す。

そうだ、はじめは必要に迫られての同棲だったろうが、今はそんなことはない。嫌ならどこか住居を探して一人で暮らせばいい。ヒイロは学生だがバイトで学費や生活費はぎりぎり賄える程度には稼いでいるし、臨時にプリベンターの仕事も入る。デュオだってちゃんと仕事をしている身なのだから、経済的な問題もない。なのにデュオはヒイロのもとを離れようとはしないし、ヒイロも同じだ、互いに文句を云いながら離れて暮らそうとは言い出さないのだ。


言葉に詰まるデュオを見て、カトルは楽しそうに笑う。
「ごめんね、意地悪したかったわけじゃないんだ」
「いじわるって…」

よく回る舌がうまいこと動かずすっかりデュオは黙ってしまった。尽きない興味と心中の愉快さを押し止めながらも、カトルは変わらず優しげな声を出して、じゃあヒイロが心配するといけないから、名残惜しいけどこの辺で。なんて言って促せば、デュオの顔が真っ赤に染まっているのが見えた。




092 レンアイカンジョー?